水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

海外雑誌でのニュース 6-2

  雑誌の最初の数ページはNRW州のほか、EU、連邦、ドイツ他の州などにおける自然保護、種や生物多様性保護に関連するニュース、トピックス記事などがまとめられています。この号では14項目挙げられています。興味のあるものを2-3挙げました。

 

 1) 連邦環境省が野生保護地区(Wildnisgebiet)の必要性を提示しています。州面積の2%の用地を確保し保護地区を生み出す提案です。そのため、今年から年間1000万ユーロで野生保護基金(Wildnisfonds)を設立、と大臣(Svenja Schulze)が発言しています。ドイツ自然保護連合(Deutschen Naturschutzring;DNR)のLeif Miller会長も、それと呼応して環境保全・保護の意識が高まる中、非常に大きな意味を持つ、と評価し、可能な限り早くドイツ全土で30,000haの自然遺産(Naturerbe)を達成したいと述べています。

 

 2) ドイツ連邦内閣で6月6日、環境省大臣から”都市の自然マスタープラン;Masterplan Stadtnatur"が提示されました。連邦政府は都市内において、種保護、ビオトープ多様性確保の26の指針を掲げ、自然豊かな、緑の生息空間(naturliche, gruenelebensraeme)を生み出し、動植物だけでなく都市住民の緑のオアシスとレクリエーションのために活用するとしています。市町村、コミュニティーレベルでの景観計画(Kommunale Landschaftsplanung)を強化するため連邦自然保護法の改正が必要であるとしています。ドイツ自然保護協会(Naturschutzbund  Deutschland)は合わせて ”都市自然保護白書:Weissbuch Stadtgruen" の目標設定を見直すよう指摘しています。

 

 3)ルール地域協議会(Kommunalverband Ruhr) の自然と緑地帯の強化施策はより広範に進めるべきで、「2030緑のインフラ整備:Offensive Gruene Infrastruktur 2030」計画は、緑のインフラを具体的な行動計画(Aktionsplan)で行うべきであるとしています。

この地域では既に2027国際庭園博:International Gartenbauausstellung;IGA)が決まっておりその計画が着実に進められ緑地整備が進められています。筆者注)

この中では、広く環境保護とも連動させ、雨水貯留(浸透舗装、雨水桝設置など)、大気浄化・都市気象改善:気温・湿度調節からレクリエーション活用まで含まれ、幅広い行政的対応による広い都市環境改善が進められます。

 

 4) NRW州で3カ所目のオオカミ保護区(Wolfsgebiet)が生まれたニュースです。 Eifel 国立公園内でベルギーとの国境地帯でもあり、緩衝地帯(Pfferzone)で囲まれた森林地帯です。関連ニュースは、www.wolf.nrwを参照してください。 

 

 

 

 

 

海外雑誌でのニュース  6-1

 Natur in NRW(2019.No.3)が届きました。この号から雑誌の紙質が変わり(以前からも再生紙を使っていますが)さらに古紙率の高いグレー色の紙を使った冊子になっています。

 主題は、①FFH-報告;NRW州の自然の現状(2019)、②アイフェル国立公園内のバッタWarzenbeisser(Decticus verrucivorus)、③Medebacher Bucht(野鳥保護地域の管理指針計画)、④捜索犬と種保護(ニンニクヒキガエル;Pelobates fuscus)、⑤NRW州における源流域・水源、⑥NRW州の湖沼、他に連邦から州レベルまでの時事ニュース、コラムがあります。

6-1では①~⑥までについて概略を書き、時事ニュース、コラムについては6-2に書きます。

 

    ①の概要:Gradmesser fuer den Zustand der Natur in NRW.   R.Schulute他

 EU(欧州連合)の委員会で公表されたFFH2019報告(2019年7月)を受けてNRW州の状況を述べている。その中で、NRW州では93種、44生息域(Lebensraumtypen)について評価。MRW州の東部低地地域(Tiefland;atlantisch )と西部山地地域(Berkland;kontinental)の違い・現状を示している。結果、低地地域では保全状況悪化50%(18/34)が 見られ、適切は(6/34)15% 、一方、山地地域は適切が2/3 (24/40)、悪化は1/4(9/40)と報告されている。(これには地域の自然立地特性との関係がある。2013年比較でも表示している)

 2019年では2013年と比較して大きな変化は無く、これまでの対応で進めるとしている(州面積の8.4%、3.000ケ所が保護地域指定、用地の公地化による保護;気象保全のための湿地確保・拡大、関係プロジェクト36の拡大と連邦関連プロジェクトからの支援拡充、軍関連用地の種保護・取り扱い管理の増強と理解、関連省庁との連携による種保護の拡大と充実など)。

     問い合わせ先:schlueter@lanuv.nrw.de

 ②の概要:Warzenbeisser  im Nationalpark Eifel.  A. Hochkirch 他

 このイナゴ(Decticus verrucivorus)はドイツにおいて最大かつ特異的な種であり、生息域(アイフェル国立公園;Eifel Nationalpark)ではNRW州で絶滅の危険性がある。公園内の特定地区(NRW州一の生息域)の草地維持管理法についての報告。Eifel国立公園(Nationalpark Eifel)内のバルテェンヴァイサー地区は戦後(1946)イギリス駐留軍戦車(Truppenuebungsplatz)用地として使われ、その後1950-2004まではベルギーの駐留軍用地として継続使用され、2006年ドイツ連邦に返還された。中のドライボルナー高地(海抜450-600m)は1400haに及び、地区内は森林、牧野(刈り取り、放牧)畑として利用されてきた。牧野利用は既に12世紀からあり18世紀後半には樹林の無い牧野であったとされている。

 地区内は戦車訓練用地として利用された間、地区内はそれまでの人や動物の利用と異なり、次第に樹林化し希少な動植物が戻ってきている。地区の半分は以前と同じように国立公園の保全指針に基づき地元農家の手により農地や牧野が維持され保全利用されている。2017年に現況土地利用が図化され、NRWおよび隣接ベネティック3国の中で最大の生息地になっていることが判明、同時に当公園内の他の地区でも同様の試みが進められている。他の多様な動植物の生息が確認されており、地区内の公園管理指針のあるべき方向が検討されている。

    問い合わせ先:twietmeyer@nationalpark-eifel.de 

 コメント:

 戦後、連合軍の占領下、駐留軍の施設として長く軍関係で使われていた土地が返還後、以前の土地利用を再現し、また国有地で自然が復元され種ー生物多様性保全に寄与する国立公園に組み込まれ、EU環境保全と連動した方向で進められていることは羨ましい点だと思います。

 

 ③の概要:タイトル;EU-Vogelschutzgebiet "Medebacher Bucht"  Michael M.Joebges

  メーデルバッハブフト野鳥保護地区(表題)はNRW州にある28の野鳥保護地区で4番目に大きな保護地区である。2009年のEU野鳥保護指針からEUの種とハビタット指針(Fauna-Flora-Habitat-Richtlinie)さらに自然2000地域(Natura-2000-Gebiet)の政策で保護、保全、発展等の維持管理計画と関係している。そのためEUの中での位置づけとして野鳥保護が決まっている。地区の広さは、13.849haで、ヘッセン州の27.273haに及ぶロータル山地保護地域(山間地で複雑な地形とブナ林、自然に近い渓谷を有する地域)にも接しており、この地区は農地、落葉樹林、混交林がモザイク状の比較的開けた景観である。自然空間単位や植生単位、気象・地質的にも特徴ある地域となっている。

 地域内は、粗放的管理の下で牧野(刈り取り、放牧)や林業的利用がされ、森林に囲まれた比較的開けた農地のある景観・土地利用である。特徴ある鳥種の1989年以後の動向を示し、2018-2028年の今後10年間における10項目の野鳥保護指針改定が示されている。

★この指針はインターネットでアクセスできます(www.LANUV.nrw.de/medebach/abrufbar)

    問い合わせ先:michael.joebges@LANUV.nrw.de

コメント: 

イギリスのEU欧州連合)脱退が長く問題になっている最中ですが、エネルギーや自然保護、環境保護についてEUは一体でなければならない状況に変わりはないでしょう。気象的に見ても自然条件(地形・地質・動植物相など)からみても欧州議会EU)の果たす役割は大変大きいです。今回の報告でもFFH政策、Narur2000施策など自然資源の保護に関して積極的にいろいろな施策・計画・プロジェクトを出してきています。そのような国際関係、階層構造(EU,連邦、州、郡・市町)の中で対応がいろいろ決められ進められている点は範とするべきだと思います。

 

 ④の概要:タイトル;Schnueffeln fuer den Artenschutz       A.Geiger 他

 捜索犬は空港や港湾で麻薬や覚せい剤等の探索、行方不明者や犯人の捜査に協力する警察犬として知られている。ここでは絶滅危惧種のニンニクヒキガエル探索にこの犬が使えるかどうかについての報告である。4頭の犬を使ってMuenster地方でのヒキガエル保護の試みの結果と考察である。結果は成功し、隠されたヒキガエルの臭いの付いたボックスを事前に隠された場所から探し出した。この試みは種保護の視点から、今後の方策として効果があるとみられている。

  問い合わせ先:Arno.Geiger@lanuv.nrw.de

コメント:

 多くの人が犬を飼っている国、犬にも税金がかかる国、犬種の多いドイツならではの試みでしょう。種の保護が叫ばれている現在、その種の実態を確実に捉えるために、動物の能力を活かすことは重要かつ必要なことでしょう。新しい試みが実を結び新しい施策が出るのも遠くないでしょう。

 

 ⑤の概要:タイトル;Quellen in NRW              Dirk Hinterlang 他

 2019年5月9日にドイツ・ルール地方のレックリングハウゼンで行われた自然ー環境保護アカデミー主催の報告会の模様を掲載している。会の中では歴史、源流域図化、源流保護、関連プロジェクトなどについて報告された。国レベルでは連邦自然保護法第20条(1985年)に保護すべきビオトープとして源流域が示されているとし、同時期に州の自然保護センターでも指摘されている。1992年には源流域エコロジー・保護協会が設立され、1999-2004年には517カ所のFFH地域で13の源流域が示され、2012年末には州政府から源流域アトラスが出版されている。 これに関する法体系では、欧州水資源指針(EG-Wasserrahmenrichtlinie)、連邦レベルでは連邦水収支法(Bundeswasserhaushaltsgesetz)、州レベルでは州水法(Landeswassergesetz)で源流域保護の指針が決められ、連邦自然保護法30条には法的にビオトープの保護として1994年から示されている。州の自然保護法42条にも同様に規定され、また、FFH指針でも1992年6月5日に施行、2007年1月からさらに強化されている。この会議を契機として関係団体、省庁、関連部局の連携が重要であり、情報の公開や共有の必要性を指摘している。

   問い合わせ先: 

 ⑥の概要:タイトル;Seen in NRW      Ilona Arndt  他

 ライン川沿地域にみられる砂・砂利採掘跡の湖がNRW州には多く見られ、また褐炭採掘跡地にできる人工湖(Braunkohlerestseen)もある。この中で50ha以上の規模の24についてEUの水資源基本指針(Wasserrahmenrichtlinie)の生物・生態的水質の調査に基づいた報告です。これまでの2回のモニタリング調査(2009-2011、2012-2014)で湖沼水質は悪化していることを示している(非常に良い、と良いを合わせて55%だったのが42%に低下、良くない、まあまあが45%から58%へ増加)。

 人工的に生まれた湖沼は、水辺の取り扱い(構造)が生態的でないことから浅水域の生物多様性や種の多様性が見られないと報告し、こうした人工的な湖沼の改善、改修、自然復元が重要であり、行政的にも関連部局の現場を通しての交流、試行が必要であると指摘している。

 コメント:

 従来の採掘では経済的視点でのみ人工湖の出現、管理がされてきたため、水辺の無い構造(傾斜が急で浅水域がない)や単調です。それにより浅水域のプランクトンを含む多様な生き物(動植物)が見られず生態的に(水草はじめ魚類、野鳥類など)貧相で、自然再生・復元の必要性が叫ばれています。NRW州ではライン川沿いでの砂利採掘、褐炭採掘地域での採掘跡地の湖沼は近年多様な利用(自然保護やレクリエーションなど)が強く求められ、EUの指針でも明確に位置づけされてきています。

 これら指摘は既に1960年代から生態的計画の重要性を造園・景観計画(Landespfleger,Landschaftsplanner)の分野では指摘されてきています。

    問い合わせ先: ilona.arndt@lanuv.nrw.de        

 

 

 

 

 

 

 

映画「風をつかまえた少年」

 またまた、面白い実話に基づく映画を見ました。その題名は「風をつかまえた少年」です。

 世界23カ国で翻訳され感動を呼んだ実話(原作:ウイリアム・カムクワンバ、ブライアン・ミュラー;the Boy who harnessed the wind;風をつかまえた少年:文芸春秋刊)は日本でも出版され(2010)大いに話題になり、そのノンフィクション映画がイギリスとマラウイ合作で作られ(2018)日本で公開されています。映画は第69回ベルリン国際映画祭(2019)他でも上映され、アメリカ・ニューヨークでの試写会では名女優アンジェリーナ・ジョリー(UNHCR;国連難民高等弁務官事務所特使)からも絶賛された、とあります。

 映画の舞台はアフリカ・マラウイ。2001年に襲った大旱魃、それ以前からも水不足に伴う農作物(トウモロコシ)栽培が困難で食糧危機、飢饉が起る危険性が高かった。そんな中、学ぶことや機械いじりが好きな少年ウイリアムは学費が払えず退学を言い渡されますが内緒で図書館通いをし、ひょんなことから風力エネルギーに興味を抱き、独学・独力で風力発電の装置を作り出し、実際に発電に成功します。以前から電気やラジオ、自転車の発電などの分解・修理を通して多少の知識と体験があった彼には、風力発電装置作りは大きな夢の実現でした。彼の向学心、研究心は周囲を動かすこととなり、その後、南アフリカからアメリカ本国で勉学(環境学)を続け、2013年には「世界を変える30人」にも選ばれています。国を動かし地域や町・集落を良くしたい、学ぶ機会や場所の充実を図りたいと活動を続けています。この映画は、実際の物語を題材に難題に屈せずひたむきに学ぶ姿や過酷で壮大な自然の下での家族愛の大切さを描いています。

 この映画は、文部省特選、文部省選定の映画に指定されていて、子供時代、小学校から皆そろって映画を見に行った時代を懐かしく思い出しました(二十四の瞳や椎の実学園など)。

 実話であることとも合わせ、物語以外にもアフリカの大地の自然や景観、今も苦闘する人々の営みを垣間見ることができ、大いに感動した素晴らしい映画でした。

 鑑賞後、我が身と合わせて「過剰」の世界で足りなくなっているもの、無くしつつあるものと「不足・欠乏」の世界にある根源的なもの、について考えさせられています。

 

 

 

造園学研究室50年 記念行事日、決まる!

 日本大学獣医学部農学科造園学研究室が生まれてから2020年で研究室創設50年を迎えます。これまでに創設の造園学研究室から生物資源科学部植物資源科学科造園学研究室・緑地環境計画学研究室を経て、現在・生物資源科学部生命農学科造園学研究室に至っています。この研究室50年を記念すべく、目下、卒業生の中で来年、東京オリンピックの開催年(2020)に、記念すべき50周年記念の集いを計画しておられます。

記念の会は2020年(令和2年)10月17日(土)に決まりました。オリンピックも終わり、秋風が流れ野山が彩る頃、キャンパスのある湘南六会では薄の穂が揺れ、西に霊峰富士が夕焼けに黒い山容を見せているでしょう。

 卒業生の皆さん、この記念の会に是非ご参加ください。今からこの日に予定を入れないで空けておいてください。

 現在、研究室の先生方はじめ卒業生の有志の方々が記念の行事の計画を練っておられます。内容の詳細が決まりましたら、また私のブログ「お知らせ」でご連絡します。

 今日は、日にちが決まったことをお知らせいたします。藤崎先生も研究室のNUメールやHPなどで随時お知らせくださると思います。

 秋風が吹き、朝夕涼しくなります。インフルエンザが流行するかもしれません。皆さんお元気でお過ごしください。

 

譲り合いの松 ---唐招提寺南門前---

 

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何時頃からか、都会人の心の中には「ゆとり」が無くなり「ギスギス」したり「とげとげ」した雰囲気が広がり始め、身近な挨拶や「微笑み」が消えそうになってきています。

 以前は当たり前であった、混んだ電車や待合室での席の譲り合いも、時間や場所が指定されるところとなり、それ以外は知らぬ存ぜぬのこと、ものとなってきています。

 「私」が主となり周りへの気遣いは無用、不要となりつつあります。

見えないのかもしれない、気が付かないのかもしれない、知らないのかもしれない。

それは反面、見たくない、気づきたくない、知りたくない、関わりたくないともいえます。面倒臭く煩わしいのかもしれません。

 人の周りに自然や緑が溢れていた時代や場所では、時に、その自然や緑に畏敬の念を持ち、心を寄せ暖かく見守ってきました。屋敷内の樹木や生垣、集落の木立や老大木などは住む人の息遣いに合わせ、時代を重ねた緑や自然として残ってきていました。時代や社会が変わって新しく進むにつれ、その気持ちや心配りは次第に消え、誰も意識しなくなり消えつつあります。

 先日、久しぶりに古都奈良の名刹を訪ねようと一念発起し、これまで訪れたいと永く思っていました寺院に足を運びました。唐招提寺薬師寺長谷寺室生寺高野山、などです。

 東寺の仏像展(立体曼荼羅の用語を初めて耳にし;ブログで既報)で密教の歴史、空海の足跡、歴史重要文化財を目にしたことも、今回の旅に大きく影響を及ぼしています。

 数多くの国宝や重要文化財を身近に見ることができたましたが、ここでは一つ、唐招提寺の参拝で感じたことを書くこととします。

 承知のごとく、唐招提寺金堂は8世紀に創建され、本尊廬舎那仏座像を真ん中に、右に薬師如来立像、左に千手観音菩薩立像、四方に四天王(増長天広目天、多門天、持国天)があります。南門を潜ると真正面に、759年鑑真和上により創建された寺院、荘厳優美な姿(金堂、講堂、食堂、鐘楼などの伽藍)が映り、参拝した朝の静けさの中、紅白の萩が咲き、砂波紋を曳く音と相まって大変印象深い境内でした。

 さらに印象的な点は、南門前の佇まいと使われ方でした。門の真正面外側、道に沿って生える1本の黒松。道幅4m程度の狭い公道。自動車の対面交通はできません。行き会った自動車はどちらかが道を譲って通るか、通させてから通過するかのどちらかです。これに似た「道と老木」の事例は全国にも数多くあったと思います。世間で騒がれた道・樹木もあれば、人知れず切り倒され道が広がったところもありました。

 世界遺産文化財の門前に位置する「松」は幸い、いまだ消え去ることなく人々の使われ方に助けられ残されています。ここを訪れる人(どれだけの来訪者が気が付くか)の目にも留まって、いつまで生きながらえることができるのでしょうか。それを決めるのは、我々「人」です。

 

願わくば、幾多の困難にめげず我が国に渡来し、仏教を広めた鑑真和上の意思と思し召しにより、これから先、未来に向け門前で見守り続けてほしいと思うばかりです。

 

韓国映画「工作」を見て

 現在の日韓関係ストーリーの話題性、それに知らされない北朝鮮の姿に興味があり、韓国映画「工作」を見ました。一時代前の韓国における実話に基づいて制作されたスパイ・サスペンスの映画でした。映画のチラシに書かれた言葉は、北に潜入した工作員が見た、北の真実と祖国の闇とは? 今、暴かれる歴史の裏側ーー実話に基づく衝撃の問題です。実話に基づくに魅かれて、近くて遠い国、実態がよくわからない国、核を保有し力で諸外国と対等に取り扱うよう求める北朝鮮朝鮮民主主義人民共和国)を舞台にした映画を見ることにしました。

 実話に基づくとありますが、舞台は1992年から1997年の韓国、北朝鮮金正日主席時代)を舞台にした物語です。南(韓国)から北(北朝鮮)へ潜入し北の状況を調べるスパイと北朝鮮の対外経済委員会所長との戦いを中心に描いています。片や核開発の実態を探るべくいろいろな手段を駆使して当局に近づく工作員、対するは国を守り外貨を稼ぎ経済を良くしようとする担当所長。

 韓国軍の中佐が、地位と生活を捨て民間事業家に姿を変え北への侵入を試みます。その背後には韓国の国家安全企画部があり、微に入り細に入り情報を伝えながらスパイに色々な活動をさせ、北の動きを探っていきます。北は外貨獲得のため、いろいろな手法を使い動きます。その間の折々の政治情勢、事件を交えながらスパイ活動が続き、商品流通、地域開発などを提示しながら最高権力者(金正日)に近づき、外貨獲得策を提案・進言します。一触即発、生と死が背中合わせにある中で巧みに所長と意志疎通を図り動こうとするうち、母国・韓国の政治情勢変化によりスパイ工作に気づかれそうになり、北から逃れなければならない状況になります。間一髪、北を脱出することができた裏には、所長の心ある機転があったことをスパイは知ります。同時に両者は政治の急激な変化により互いに立場・消息がなくなったものの、数年後、二人が同じ立場で同じように北と南の交流事業で再会するラストシーンは、映画監督や関係者の祖国(同じ民族)に対する熱いメッセージが描かれていると感じました。俳優の演技やストーリの流れなど、なかなか見応えのある映画でした。

監督はユン・ジョンピン、主演はファン・ジョンミン(パク・ソギョン;南のスパイ)とイ・ソンミン(リ・ミョンウン;北の所長)。

 

  映画から離れ現実に戻ると、今の韓国の複雑な状況が伝わってきます。米朝会談、米韓会談、韓朝関係、北への経済制裁、北核開発、国連決議などなど、列強に囲まれ、国としてどうあるべきかよくわからない点が出てきます。現在の世界情勢、東南アジア、東アジア、いろいろな枠組みの中で色々な問題が複雑に絡み合い、ニュースになり伝わります。

 時に、何がどこまでフィクションで、何がノンフィクションなのかわからなくなってしまいます。

南や北極海へ進出・拡大を目論むソ連・ロシア、世界へ覇権を広げ、太平洋に繰り出したい中国。極東は、今後、将来どんな方向に進んでいくのでしょうか。望むらくは平和な世界へ少しづつ、進むことを祈るばかりです。

 

この映画の舞台になった時代について;

1988 盧泰愚大統領(1998-1993)  光州事件  ソウル・オリンピック

1990

1991 南・北 国連加盟

1992 北朝鮮の核開発進み、両国間で緊張が続く

1993 金泳三(1993-1998)大統領

1994 北で核開発拡がる

1996

1997  大統領選挙 

1998     金大中大統領(1998-2003)  北朝鮮との融和施策(太陽政策

1999    国家安全企画部廃止

2000  6月南北首脳会談 

2002  日韓ワールドカップ開催  日朝首脳会談 

2018  平昌五輪 南北首脳会談

2019  

 

海外雑誌でのニュース  5

    定期購読していますドイツ、ノルトライン・ウエストファーレン州自然・環境・消費者保護研究所(Landesamt fuer Natur Umwelt  und Verbraucherschutz NRW)発行の機関誌(Natur in NRW) 2019.2が来ました。

  本号の報告記事は、①ノルトライン・ウエストファーレン州の昆虫相のモニタリング、②ノルトライン・ウエストファーレン州立鳥類保護研究所80年、③EU鳥類保護地域 ”ヴェーザー河畔湿地 ”の基本計画、④コナツバメ(Mehlschwalbe)の生息の仕方、⑤ノルトライン・ウエストファーレン州ライン川の魚類相の動態、⑥ノルトライン・ウエストファーレン州(NRW)における景観評価(Landschaftbildbewertung)、⑦乾燥化が進むフルター湿地、の7編です。その内容を概説しておきます。

 記事の内容の詳細にご興味お持ちの方は、記事末尾の著者・連絡メールアドレスをご覧頂き相手側にお問い合わせください。雑誌原文(ドイツ語)が欲しい人はご連絡ください。コピーして送ります。 

 

 

報告1:ノルトライン・ウエストファーレン州の昆虫相のモニタリング

Monitoring von Insekten in Nordrhein-Westfalen                C.Grueneberg 他2名

NRW州自然ー環境ー消費者保護省(Landesamt fuer Natur,Umwelt,Verbraucherschutz NRW;LANUV)とオスナブリュック大学の新規共同研究として進められている昆虫相のモニタリングのこれまでの成果と今後の永続観測・計測の基盤についての報告。

 この調査研究は2019年から3か年続けられ、州政府から57万ユーロの助成金が出される。共同研究の前提として2013年から2017年にかけて昆虫相調査がKrefeldで行われている。また、隣接州(NRW、ブランデンブルク、ラインランドプファルツ)63自然保護地で1989年~2016年に飛翔昆虫の76%が危機に瀕していると報告された。

2018年ドイツ連邦レベルでは昆虫保護アクションプログラムが作られているが、連邦に先駆け2017年Krefeld調査以後、全州モニタリング調査(飛翔性昆虫)を進めている。

 NRW州では調査法を統一し永続的な調査を進め、昆虫相に対応した科学的な成果として量的・質的状況を把握することにしている。

 NRW州では25,000種の昆虫がいるとされ(動物相では最大)ているが、調査にあたる専門家が少なく全体を把握することが難しいこと、生態系との関連性が把握し易く捉えやすいこと、飛翔性昆虫について関係専門家(研究者、同好者ら)の数が多いことなどから飛翔性昆虫相(特に蝶、蛾、バッタ類)に限定した調査結果となっている。

 トランセクト法による蝶類調査では、花の多い生息域、野生草地(特に幼虫では)、開けた場所で多様な種の生息が見られている。調査は、ビオトープに関連し、5月中旬から8月初旬まで3週おきに、長さ1500m、幅5m(片側2.5m)のベルト、170地点に設定し実施されている(2022年まで)。

  バッタ類については黒色ガーゼ布を張った高さ0.8m、1.41m四方(約2㎥)の枠を、隣接ビオトープから20m離して州内に120地点設け調査。異なる立地の牧野・草地に設置しバッタ類の生息状況を把握している。バッタ類は比較的暖かい地域から見られ、傾向としてライン川、ルール川低地から次第に涼しいザウアーランド、エイフェル地域に分布が移動することが明らかにされている。

        著者とのコンタクト(メールアドレス):christoph.grueneberg@lanuv.nrw.de

 

報告2:ノルトライン・ウエストファーレン州立鳥類保護研究所80年

80 Jahre Staatliche Vogelschutzwarte Nordrhein-Westfalen          P. Herkenrath 他2名

NRW州自然ー環境ー消費者保護省(Landesamt fuer Natur,Umwelt,Verbraucherschutz NRW;LANUV)の鳥類保護研究所(VSW)が今年80年目を迎える。1939年エッセン市に設立された当研究所は、現在では同保護省の”種保護センター” 24部としてレックリングハウゼンにある。研究所の80周年を記念してこれまでの歩み、活動、これからの役割・使命について報告。最初の鳥類保護センター(Vogelschutzstation)は1884年、それ以後20世紀に入ってからの進展について、色々な関係部局、名称の変化について述べている。1930年代に早くもレッドリストの考え方で鳥類保護が叫ばれてきた。1950年以降も州の関係部局再編により名称が変更(LOEBF/LAfAO)され、現在はLANUVの第24部門(種保護および鳥類保護研究所)になっている。研究所の使命・役割も変化しており、単なる鳥類保護から生態系の中での鳥類保護(昆虫類捕食、害虫駆除)、個体変化・変動(採餌・繁殖・営巣など)まで幅広い環境保護、慰安・レクリエーションなどへ拡がっている。1979年以降はEUレベルの視点へと広がり、指針が策定され野生鳥類の保護(野鳥の生態から営巣、繁殖、渡りがヨーロッパ圏で考えなければならない)が進められて来ている。それに伴い永続的、統一的モニタリング調査がEU内で考えられ、各国でそれの対応が図られるようになってきている。 

  著者とのコンタクト(メールアドレス):peter.herkenrath@lanuv.nrw.de

 

 

報告3EU鳥類保護地域 ”ヴェーザー河畔 低湿地”の基本計画

Massnahmenplan fuer das EU-Vogelschutzgebiet "Weseraue"      M. Joebges 他7名 

 ミンデン、リュークベッケ郡のペータースハーゲン~シュリュッセルブルク間にあるEU指定の鳥類保護地 ”ヴェーザー河畔低湿地”に対する野鳥保護指針についての報告。

この地域(ヴェーザー川下流域)はNRW州東北端にあり、ニーダーザクセン州の州都ハノーファ市とシュタインフーダー湖に近接、州境に隣接。ヨーロッパ鳥類保護指針(EU-Vogelschutzrichtlinie;DE-3519-401)にある重要な野鳥保護地で希少種、絶滅危惧種はじめ多くの野鳥の繁殖、休息、採餌、越冬地として位置付けられている。広さは2,744ha、うち1,612haは湿地で国際的なラムサール条約保護地に指定されている。48%は農地、用地の27%は牧野で利用が制限されている。ヴェーザー川の流水面は9%ほどで同じくらいの止水域(多くは砂利採掘跡地)から成っている。NRW州には28のEU野鳥保護地がありEU指針(79/409/EWG)で知られ、FFH指針(92/43/EWG;EU-Fauna-Flora-Habitat-Richtlinie)に基づいている。それらは自然2000地区(Natura-2000 Gebiete)とネットワークされ、すべて指針規定に準拠(整備も保護もすべて)することとなっている。またいろいろな地域の、多くの関係者(居住者、農業協同組合、団体関係者、行政役人など)と協議を重ねることになっている。

また、近くに重要な運河網(Mittellandkanal,Elbe-havel-kanalなど)、エルベ川もあり連邦運河、連邦河川局との関係も極めて高い。ここでは13項目の指針(河畔低湿地保全指針;Vogelschutzmassnahmenplan)が提示されている(詳述は割愛)。

      著者とのコンタクト(メールアドレス):michael.joebges@lanuv.de

 

報告4:コナツバメ(Mehlschwalbe)の生息の仕方

Mehlschwalbe-- Kulturfolger oder "von der Kultur verfolgt"?           H.Buemmerstede

 ライニッシェ ベルギッシェ郡におけるコナツバメ(Delichon urbicum;Mehlschwalbe)の生息環境、生息状況についての報告。

コナツバメ(Mehlschwalbe;Delichon urbicum)は、ラテン語 "urbicus"「都市の、街の」の意にあるように、中部ヨーロッパでは、普通の人家軒先や農家の納屋・小屋の軒下に営巣し「文化ーKulturfolger」として繁殖してきている。しかし、NRW州ではここ25年の間に50%減少してきている。

 これらの状況に対し、ツバメが巣を駆ける家の居住者へのアンケートと実態調査を通してその減少の原因、営巣繁殖の現状、軒下営巣や人工補助に対する考え方、対応策について報告している。

   著者とのコンタクト(メールアドレス):hanna.buemmerstede@web.de

 

 

報告5:ノルトライン・ウエストファーレン州ライン川の魚類相の動態

Die Entwicklung der Fischfauna im Rhein in Nordrhein-Westfalen        P. Breyer 他1名

 NRW州自然ー環境ー消費者保護省(Landesamt fuer Natur,Umwelt,Verbraucherschutz NRW;LANUV)における長期間(1984年から2017年まで1年おきに)にわたる魚類相モニタリング、その変化と動態(モニタリング結果)についての報告。

    著者とのコンタクト(メールアドレス):philippa.breyer@lanuv.nrw.de

 

報告6:ノルトライン・ウエストファーレン州(NRW)における景観評価(Landschaftbildbewertung)

    Landschaftbildbewertung in NRW                   U. Biedermann  他1名

 風力発電施設、送電線施設の計画、許認可に際し重要な景観評価について報告。

景観評価(Landschaftsbildbewertung)、自然景観保護、歴史的ー文化的景観保護、レクリエーションなどの視点から連邦自然保護法(BNatSchG1条)に規定されている内容との整合性について。

 景観評価として、地形・地質・植生・土地利用、水条件など各種の要素、条件などが関係し、立地条件・要素、文化的ー歴史的(人文的要素)動態、いろいろな時代の様態の多様性が重要な要件である。これまでに各種景観要素が変化し、価値ある地域固有の景観が喪失、変化してきている。また、新たな社会資本(インフラ設備;送電線、風車など)は広域的、巨大な施設が空間を必要とし、オープンスペースの姿を変えてきている。

NRW州全体を景観単位区分、各種地域指定区分等に合わせ景観の重要度を4段階で評価し、さらに市街地、褐炭露天掘りと合わせ図化し、州全体と他の5地域(アルンスベルク、デュッセルドルフ、ドルトムント、ケルン、ミュンスター)それぞれでの4区分別比率を出している。

評価基準として、①特異性・特殊性(Eigenart)、②多様性(Vielfalt)、③審美性(Schoenheit)の3つから評価し、1.600の景観を選出している。243地点( 州面積の13%)は非常に高い評価、次いで 489地点(州面積の19%)は高い評価となり、実に州のオーウンスペース面積の1/3が景観的に優れた場所であるとなっており、都市化が著しいNRW州としては高評価である。同時にこの景観を損なう開発整備に対し代償(代替)値(Ersatzgeldermittlung)の考えで試案を提示、数値を出している。

 この報告では①風力発電施設(塔)ならびに送電線施設それぞれと景観の問題にも触れている。  

        著者とのコンタクト(メールアドレス):ulrike.biedermann@lanuv.nrw.de

 

        景観評価の詳細は末尾に示したオンライン・コードで情報を確認してください。

NRWの景観評価(オンライン問い合わせ先;①www.lanuv.nrw.de/natur/landschaftplanung/fachbeitrag.)

②www.lanuv.nrw.de/natur/eingriffsregelung/windkraft-und-landschaftsbild/.

③www.lanuv.nrw.de/natur/eingriffregelung/freileitungen-und-landschaftsbild/

 

報告7:乾燥化が進むフルター湿地

Das Further Moor trocknet aus                               C.Michels 他2名

フルター湿地における植生現況、植生動態と水条件維持管理について。自然保護及び動植物種保護、保護地(Naturschutz- und FFH; Flora Fauna und Habitat)に指定されているフルター湿地について地形・地質、地下水状況、植生変化(樹木との関係)などを2000年から継続的に計測、その対応策について検討している。

  著者とのコンタクト(メールアドレス):carla.michels@lanuv.nrw.de

 

 これ以外、雑誌のジャーナル記事;ニュースから(コメント)

1)森林に関する事項:

 ドイツ自然保護連盟(Naturschutzbund Deutschland)は、ここ12年間で非施業林(unbewirtschafteter Waelder)が1.9%から2.8%に上昇(2013年1,110k㎡から2018年3,240k㎡へ)しているが、これは生物多様性からいって、まだまだ不十分(理想は5%目標;Fuenf-Prozent-Ziel)で自然林(Naturwaelder)を増やさなければならない、としている(もう一つの目標は各州で面積の2%増加)。自然林の規模は1.000ha以上(最低0.3ha)で2つの目標を達成できるとしている。そのため、連邦、各州政府、自治体が民有林(privatwald)への働きかけ・支援が求められるとしている。また、近年、病害浸潤によるトネリコ林消滅に対するトネリコ林(Eschenwaelder)保護(生物学的多様性保護のため)について、連邦レベルでの新たな調査研究プログラムが作られ、2025年までに2.3百万ユーロが連邦環境省(Bundesumweltministerium)が支援し、連邦自然保護研究所(Bundesamt fuer Naturschutz;BfN)が管轄する。手始めに2019年2月よりChristian-Albrechts-Uni.管轄のプロジェクトとして始められた。

 

2)昆虫相保護に関する事項:

 昆虫を餌としている殆どの野鳥で、EU関係国では1990-2015年の間に13%減少していると、ゼッケンベルク生物多様性・気候研究センターと生物多様性ドイツ中央研究所が公表した。ヨーロッパに生息する鳥類の半分は畑、牧野(刈り取り、放牧)に生息する昆虫を餌としており、現状の農耕・農業地域では餌は十分といえない、としている(Dr.Prof.Katrin Boe

hning-Gaese,Goethe Uni. Frankfurt)。同時に農薬利用、耕地面積拡大・画一単純化(単作)などが農地に散在した生垣、ブッシュ、荒れ地、林縁を消失させ昆虫相が貧弱・減少し、餌だけでなく営巣繁殖場所も無くなっていると警鐘を鳴らしている。

 また、別の報告ではドイツ自然保護協会(Bund fuer Umwelt und Naturschutz Deutschland;BUND)とOrganisationen SumOfUsがミツバチー昆虫保護のため農薬使用反対の署名活動をし、230.000名以上の賛同を得た。この署名簿は5月9日に連邦農水省に提出され、同時にブカレスト、パリ、ロンドン、ローマ、ダブリン、リガにある政府関係機関にも送られた。

 ドイツには多くの昆虫が生息するにもかかわらず、確実・正確な昆虫相危機・減少の調査データが無い。レッドリスト種の40%が危機に瀕しており、保護地も小さく島状化、ネットワークも不十分である。8つの団体が手を結びDINA(Diversitaet von Insektenin Naturschutz-Arealen)プロジェクトで保護地内の昆虫相多様性調査を行う。これには連邦教育研究省(Bundesministerium fuer Bildung und Forschung)が補助している。連邦の21地点で共通、統一ある調査法で昆虫生息量調査モニタリングが行われ遺伝子技術なども駆使して新しいリストの作成を試みている。

 

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原三渓展

 真夏の暑さが少し遠のいた葉月23日、久しぶりに展覧会へ足を延ばした。会期終了が近くなり行けるかどうか心配していたものの、やっと時間を取ることができ鑑賞できた。

みなとみらい36街区にある、白亜の横浜美術館。長い軸線の水と緑のプロムナード(三菱地所、グランモール公園(都市公園;近隣公園;700m);日本ランドスケープ協会賞、日本土木学会賞、造園学会賞等受賞)に面した美術館。 

 

 展覧会は、「原三渓の美術・伝説の大コレクション」で150点に及ぶ三渓のコレクションを、時代と内容で5分野に分けての展示であった。彼の生誕150年、没後80年を記念しての開催であった。

 原三渓は1868年、岐阜県岐阜市柳津町出身;私と同郷、本名・富太郎、代々の名主の家に生まれ、長じて大学(早稲田大学)卒業後、跡見女子学園教師となり、教え子で横浜の生糸豪商・原善三郎の孫娘;原屋寿と結婚し、跡を継いで事業・産業を興し国と地域の発展、芸術家の支援に大きく貢献し、同時に生涯を通じて多分野の文化人と交わり自らも多くの芸術品蒐集に力ぞ注いでいる。別名、古美術蒐集家、コレクターの代名詞が付いている。

 今回の展覧会では、原の蒐集品を時代別に分け(プロローグ、①三渓前史;岐阜の富太郎、②コレクター三渓、③茶人・三渓、④アーティスト・三渓、⑤パトロン三渓)展示解説していた。中でもやはり展覧会の中心は②、③、⑤の蒐集品である。

三渓は茶道、書画(中でも日本画)、彫像などの銘品を、自ら手掛け作庭したた名園・三渓園(国の名勝に指定)に蒐集・所蔵し多くの文化人を招いて茶会を催す一方で、若い画家の作品制作を支援してきている。

 ②のブースは平安、鎌倉、室町、江戸の各時代の彫像、絵画、書を蒐集、中では剣豪・宮本武蔵作、2枚の布袋の図絵は興味深かった。

 ③では、銘の付いた各種の茶碗をはじめ、茶会に必要な物(棗、茶筅茶杓、水指、釜など)の逸品があった。

 ⑤はその多くが、今では大変有名な日本画家達の作品(三渓と同年代の画家;小林古径、下村観山、今村紫紅横山大観前田青邨安田靫彦速水御舟)、中でも観山の「弱法師」の屏風絵には魅かれるものがあった(以前、日本橋三越で見たこともあったが)。

 これだけのコレクションには感心するばかりだが、明治・大正・昭和の激動の時代に生き、家業、事業さらには社会を牽引してなおかつ日本文化に造詣をもって蒐集したことに驚いた。彼と同様に日本文化の数々を残し伝えてきた人達(三渓はじめ小林一三(逸翁)、益田孝、五島慶太、松方幸次郎、根津嘉一郎など)の人間性に感服するばかりである。

 

 名園・三渓園1906年開園(完成は外苑1914、内苑1922年)、横浜市本牧の臨海部に位置し17.5haにも及ぶ斜面樹林と谷戸からなる広大な敷地に、由緒ある古い建築物を移築し、また茶室や母屋を設け、自然地形を生かした池と庭と樹林地から成る屋敷である。

かって屋敷はすぐ海に面し(前に海、後ろに山・樹林)山に囲まれた静かな地で、静かに茶や名画を味わい、朝な夕な、四季折々の自然と草花、生き物を楽しむ環境にあった(今は海が埋め立てられ工場が建ち周囲にその面影はない)。

 都市化の波が押し寄せ住宅や工場が建て込む本牧地区や横浜市臨海部での貴重な緑、重要な自然の空間である。

 

 季節を変えて再び名園での一時を過ごしてみたくなった。

断捨離の余波?

 例年になく猛暑の続く2019年夏、皆さんお元気でお過ごしでしょうか。海や山での事故のニュースが続き、盂蘭盆会で家族揃っての楽しい夏休みが一転、悲しく辛い夏になってしまいます。

 こんな猛暑の夏に部屋のリフォームを敢行し、人生の中での一足早い断捨離を実行しました。その過程の話は、そちら(ブログ記事)をご覧ください。

 前回のブログに書いた通り、これまでの生活に密着して活用してきました物が、リフォームに際し不用になってしまったものがあります。畳敷きの和室に合わせた家具が洋風に設えなおしたため、部屋に不釣り合いになり手放すことを余儀なくされました。

 

 その家具は、文庫机です。幅90㎝、奥行52㎝、高さ36㎝の木製、材は「桑」で固く面取りされ丸みを持った品のある机です。机には幅55㎝、深さ4㎝の引き出しが正面左に、右側には幅31㎝、高さ30㎝の右開きの物入れが付いています。

 

 この文庫机をご入用の方は、私のメールアドレスにその由を書いてご連絡ください。締め切りは今月末、希望者が複数の場合は先着順番号であみだ籤にします。机の受け渡し等、詳細についてはご相談させていただきますが、基本的には無料です。

 

 メールアドレスは: biber1122@mri.biglobe.ne.jp  です。

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無くしたもの、無くなったもの、未練

 部屋の模様替えならいざ知らず、リフォームとなれば大変である。その部屋にある物、有った物すべて要・不要の決断をしなければならない。引っ越しと同じ、容赦無い断捨離の朝である。断捨離とは時間や歴史との離別、想い出との決別、取り扱いの決断である。断捨離の対象は、40年余、変わらぬ生活の過程(独身時代を含めれば50年余の生き様)で生まれ、残してきた品物である。 ここでは、それに纏わる思いを書きとめる。

 その1: 書籍

 ①和辻哲郎全集(岩波書店;全20巻)

 世によく知られた哲学書「風土」は、日本のにわや風景に関わる職についてから必読書と言われてきた。にわや風景・自然、それを生み出し見て、感じ、考える。その中に根差す日本人の感性、精神性、思想性、美意識について考えさせる書である。

 和辻の「風土」だけを理解することに止まらず、和辻の人となりを知ろうとして全集を求めた。20代の大学院生時代である。それ以来、教員生活の活動に忙殺され、残念ながら全てを読破していない。熟読出来ない内に処分の対象となった。父が買い求めた昭和初期の布製表紙の古本(風土)初版本1冊は処理することが躊躇われ手元に残した。

 森鴎外全集(岩波書店;全30巻)

 森鴎外の生涯で書かれた全著作(小説、戯曲、短編、随筆など)。医者、ドイツ文学者、海外留学者、日本の近代文学史を彩り夏目漱石と双璧をなす文学者。ドイツ留学経験という言葉に魅かれて買い求めたものの、これも殆ど読んでいない。全て積読(ツンドク)で終わってしまった。ドイツの変わらぬ街の風情の中、鴎外の滞在した家がベルリン市内に残されている。滞独中、彼の作品を読もうとして買い求めた全集であるのだが。

 この両全集は、縁あってFNEC資料室に置かせてもらっている。

 

 その2:レコード (全部LP盤、100枚余)

 大学院生時代、就職後の独身時代、結婚後の家庭で、少しずつ買い求めたLP盤であった。60枚近くはクラッシック音楽であった。好きな指揮者、楽団、演奏者、そして作曲者と曲想。時には演奏会で直接聞いた後に買い求めたり、その折々の思い出として入手した。

 クラッシックでは、ジョージ・セル指揮、シカゴ・クリーブランド交響楽団による名盤が多く、他は指揮者(オイゲン・ヨッフム、ゲオルク・ショルティ、カール・ベーム、ホルベルト・カラヤン、フルト・ベングラー、ズービン・メーダ、バーツラフ・ノイマン、ウラジミール・アシュケナージほか)による交響曲や協奏曲があった。作曲家ブラームスが好きで、その作品のLP盤が多かった。スラブ舞曲、ピアノ協奏曲1番等、今はCDに変えて聞いている。無くした盤に思いは募るものの若き日の遠い思い出と共に消えていくこととなった。

個別の楽器による協奏曲もいろいろあり、バイオリン、チェロ、フルート、クラリネット、ピアノなど。特にアシュケナージのピアノ作品はよく聞いた。今も思い入れが強い。

 

 学生時代、仲間内で話題になったのは有名楽団によるムード音楽(イージーリスニング音楽)である。1970年代多くのポピュラー音楽楽団が登場し映画音楽、演奏会で流れていた。

フランク・チャックスフィールド、パーシーフェイス、ビリーン・ボーン、ジェイムス・ラスト、ポール・モーリア、マントバーニ、101ストリングス等。 いずれも欧米の有名楽団、ムード音楽の巨匠が率いる楽団である。

音楽のジャンルでは癒しのムード音楽とも言われ、ラジオから流れない日は無かった。イージーリスニング音楽として大いに持て囃された。ジャズやロック、カントリーとは別に確固たる位置を占めていた。 東京FMのジェットストリームに同じく、夜な夜な一人悦に入り心静かに落ち着いた時を過ごした記憶がある。

そんな時代と時間の記憶も二度と陽の目を見ることも無く、耳目に入ることも無く消えることとなった。

 個別の演奏者(外国)の独奏盤も数が多かった(30枚以上)。そのアルバムを紐解くと、それぞれの時代の特徴が分かるボサノバ(ジルベルト)、ラテン・ギター(ロス・インディオス・タバハラス)、デキシーランド・ジャズ(ケニーボール)、ニーニロッソ(トランペット),オイゲン・キケロ(ピアノ)など思い出が蘇ってくる。いずれの盤も誰かと思い出を作った記念として買い求めていたため、余計に懐かしさと寂しさが襲ってくる。

 

なんと、これらの思い出深い、多くの出会いを載せた30cmの円盤100枚は、買い取り査定を受けるため「世田谷レコードセンター」へ送り出した。

 発送前に近くのレコード店に行ってレコードスプレイと拭きマットを2000円で買い、1枚1枚丁寧に手入れもして、曲への思いをメモに認めレコードセンターへ送ったのだが。

 

10日ほど経ってセンターから査定額の連絡と取り扱いの方法を連絡してきた。状態の良い(少なくとも本人はそう思っていた)名盤だと思っていたものが、何と買値は全部まとめて600円! 100枚がたったの600円??? どういうこと?)

止む無く、仕方がなく(再度引き取っても再生する機械も無いので)心残り一杯で手放した。  

 中古レコードはどこへいくのだろうか、行ったのだろうか。新たに、誰が買い求めてレコードをかけ聞いてくれるのだろうか。

他に手放す方法は無かったのだろうか、自問自答の繰り返し。

心を寄せた女性に、募る思いを残して今どうしているのだろうか、と女々しく思うに似て、何とも意気地のない未練たらたらの老いた男の述懐である。

 

 その3:写真(スライド・焼き付け写真)

 職業柄、きわめて多くの写真を撮影してきた。大半が風景(景観)や植物である。40年以上にわたり、学内外で「造園・緑地」に関する調査、研究に従事してきたため、風景でいえば全国各地、訪れた場所、季節の風景写真、植生・植物写真が殆どである。

また、外国留学や出張調査の機会も少なくなく、その折々の写真は筆舌に尽くせず膨大な数になる。退職を機会に大分、処分したのだが自分の家にも少なからず残っていた。専門分野の風景(景観)写真は、多少整理してFNECフォトライブラリーに置かせていただいているが、それもいつか対応を決めなければならない。

 我が家にあった写真、焼き付け写真はすべて廃棄した。初めてのドイツ留学時に写したものが殆どだが、撮影者以外に写真の内容・意味を理解する人・できる人はいない。言って見ればゴミ同様である。

 個別の植物の写真(全景、部分;葉・幹・花・実など)は、在職中の研究室で今後も利用が可能か、と微かな期待を抱いて残してきたが、これさえも今、今後のデジタル時代、IT時代に必要なのか疑問符がついている。撮影データが無いので無意味かもしれない。 (残されたほうが処理に困ることを考えると、何も残さないほうが賢明なのかもしれない

 

 研究室の卒業生が写る写真は処理せず残している。来年2020年は、研究室創設50年、既に50回卒業生を出すことになる。50周年記念誌が計画されている状況では、その折々の研究室学生の姿(実習時、演習時、講義時など)はページを飾るかもしれない。