水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

河鍋暁斎・絵に託したもの

 

浮世絵師・河鍋暁斎の名は全く知らなかった。日本放送で落語家春風亭昇太伊藤若冲の評価に負けず劣らず絵師暁斎を取り上げ、その絵の魅力と彼の力量を宣伝し見なけりゃ損と声を張り上げていた。新聞による紹介でも、彼の写生力、表現内容が素晴らしく、激動の幕末から明治初頭を生きた浮世絵から日本画仏画・風刺漫画など幅広く描いた画家として報じられていた。

 いろいろな生き物の写生力や妖怪の奇抜さに魅かれて見に行ってみた。展示された絵の印象は「凄い」の一言。生い立ちから生きた時代(江戸末期・幕末から明治初期)の社会を思い浮かべながら照らし合わせ、それぞれの作品を見ると、絵にしろ字にしろ「細かく正確に観察、記録、描写する」ことの大切さ、面白さ、偉大さを改めて感じ取った。

 もともと浮世絵、中でも特に日本の風景を表した絵画や絵図などの作品には興味を持っている。都林泉名所図会、東海道53宿場図、江戸名所図会など、名所旧跡や日本風景の往時の姿を表したものは職業柄、比較対象物として見てきたし、感じたり考えたりすることが少なくない。暁斎は以前、号を「狂斉」と名乗っていたこともあり、ギョウサイではなくキョウサイと呼ぶ。葛飾北斎が画狂人・北斎と名乗っていたのと共通するし、北斎の描写、観察力、写生力に負けず劣らず凄く、北斎漫画に似て暁斎漫画もある。物の本によれば驚異的な観察力、描写力は、「巨鯉の写生」で鱗の枚数はじめ全体を精密画で示した画力で表されるとされる。その集中力や成し遂げる気力・体力・精神力には感服する。

水墨画に示される筆致の素晴らしさ、力強さにも言葉が無い。濃淡の見事さは言うに及ばず一筆の流れの完璧さは、同じモチーフで何枚描いたのだろうかと思ってしまう。暁斎は描くことが早く習作はじめ一日に百枚以上描くこともあったと言われている。長年に亘る正確で緻密な観察力・描写術はいろいろな師に付き、流派の技法を手に入れ独自の絵画に作り上げ、作品を残し多くの門人を育てている。生い立ちも修業時代も複雑で苦しく変化の激しい状況の中で培われた反骨精神が画題にも表現され、また時代的に社会の激しい変化にも立ち向かっていった姿が作品に示されてきているといえる。享年58歳、今では若くして病没。墓地は上野谷中の瑞輪寺にあり、墓石は蛙の形をした自然石とのこと。

 これまでにいろいろ絵画を見てきたが、暁斎の生きざまと作品からは大変大きな感動と深い印象を得ることが出来た。なんとなく魅かれて見に行った絵画展だが忘れられないものとなった。墓参りに出かけ墓石を見に行ってみよう。