水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

ドイツ・NRW州機関誌 Natur in NRW 春号(2018.No.1) より

   今、手元の届く「自然や公園、緑地に関する専門機関誌」では、たった一つ ”Natur in NRW ”だけです。昨年(2017)の分は住所記載不適格で届きませんでしたが、今年になり調べた後にドイツの出版社に対応してもらい、届くようになりました。暫く途絶えていました海外情報を再開します。

 御存じのとおり、この機関誌はノルトラインーウエストファーレン(NRW)州の ”自然・環境・利用者保護局;Landesamt fur Natur,Umwelt und Verbraucherschutz”から発行されている機関誌です。取り上げられている内容は、NRW州独自およびドイツ連邦政府との関係を見ながら州が関係する「自然、環境、利用者保護」項目を中心に編集されています。しかし、内容からも明らかな通り、州政府関連省庁を横断的に捉え、様々な課題に対して自然、環境等に関する具体的なテーマ、地域、内容に基づいて話題を提供してきています。現在までの歩みをはじめ、これまでの状況(現況)、これからの動向、等について詳細に報告、検討しています。

  わが国で言えば圏、県レベルで、同様の機関(研究、行政で)が無いこと、似た機関(行政部所)があっても同じような内容、行動を行っていないことは寂しい限りです。 

 

 まず、この機関誌の2018年春号の見出し・著者・連絡先を下記に挙げます。

2018、No.1(春)

1) Fledermause in der Eingriffspalnung (コウモリの保全に関する代償計画)    

  著者;Saskia Helm   連絡先:saskia.helm@nua.nrw.de

 驚きです。既に2008年から、コウモリ(Fledermaus)を対象として毎年、専門の研究者、行政や計画づくりの担当者が集い情報交換し成果を公表してきています(州の自然保護・環境保護研究アカデミー;Natur- und Umweltschutz-Akademieから)。

 この冊子の内容では、これまでの成果から高速道路における代償措置、風力発電タワー建設における代償措置など調査、対策を通して事例が幾多検討されてきています。2017年11月の集会では専門家ら200人が参加し”コウモリ”と①建物、②高速道路、③風力発電施設それぞれに対応した現状、対策、課題が討議されています。

①の建物については、撤退後20年経つ工場建物(レンガ建)にコウモリ等が生息し、動物調査会社が調査し連邦自然保護法に準拠して代償措置を提言しています。

②の高速道路については、緑の橋(Grunbrucke ; 動物の移動を考慮し生息域を分断する高速道路に幅広の緑化した橋を架けたもの)の周辺に鉄柵網を設けコウモリの飛翔ルートとFFH*でどのような成果が出るか代償措置検討の報告がされている。*FFH地域;フロラ・ファウナ・ハビタット保護地域

③の風力発電施設についてはライプニッツ大学の動物学研究室が行っている調査のデータ集積があったことを報告しています。 

2) Konversion einer Kaserne bei Coesfeld  (Coesfeldにおける演習場の建物)

 著者;Olaf Miosga       連絡先:miosga@oekon.de

 コエスフェルト市は以前の軍施設  ”Freiherr-vom-Stein-Kaserne"(Coesfeld市)の利用を「市の工業地域(ziviles Industriegebiet)」に変更し、その中で自然度の高い地区を「新しい自然保護地区」に決め中心地区を自然-種保護地区(Natur-und Artenschutz Gebiet)=に、またその中にある2つの建築物を「緑の核」(Grune Mitte)に指定しました。

    旧演習地は以前の農地、樹林地が演習場として使われ、立ち入りが制限されていたこと、生産に関わる農薬の使用が見られないこと、土壌的な点(砂質、粘土質土壌、地下水位が5m深など)などから希少な動植物の生息が確認されています。調査の結果(2009年までに)、旧建物では各種の燕類の営巣地となっており、地区内には特殊は蛙のハビタットが存在すると判明しています。2010-2011年には敷地内の道のアスファルトが剥がされ建物も一部回収を含むものの殆ど旧いまま壊れたままの状態にされました。

 調査結果に基づいて、旧施設(燃料貯蓄ヤードのプール)を蛙の生息場として再活用することや地域内の緑地管理方針が示され、生き物に優しい、生態的・伝統的管理(ハイデ植物の保全とヒツジの放牧など)が提示されています。

 

 まさに「生態的調査に基づいて跡地の利用が決められ、州の中で特徴ある緑地;OS(オープンスペース)が時間を掛けて計画、整備されてきていることがよく分かる報告です。このような方法は既にドイツでは20世紀後半から進められて来ており、事例の積み重ねでより具体的な手法まで展開してきていることが分かります。

 

3) Vom Kasernengebaude zum Ganzjahres-Fledermausquartier (演習所建物におけるコウモリの通年生息状況)

 著者; Sandra Pawlik           連絡先:s.pawlik@buero-echolot.de

 旧演習場における5ケ年のコウモリ生息調査結果。5年前に"Animal Inn"と銘打って残された建物におけるコウモリの1年目からの通年生息状況の報告です。北ウエストファーレン「工場跡地公園;Industriepark」;旧演習場(10ha)に残された2つの旧い建物(2012年Animal Innと命名:地下1階、地上3階の建物:35室;建物内に85、野外に50の巣箱設置)におけるコウモリ他の動物生息調査です。建物内部におけるコウモリ生息・繁殖のための室内改善(2009年、2013,2017モニタリング)なども含め調査。通年生息種6種、不定期生息種5種など建物内の状況と合わせ調査結果を報告しています。

 この報告は①に続く同じ場所での事例の報告です。以前、軍の演習場であった所の建物におけるコウモリの生息状況です。

 

4) Biotopverbund fur gefahrdete Tierarten(危機に瀕する動物種のためのビオトープ網)   

 著者;Christian Beckmann  連絡先:christian.beckmann@lanuv.nrw.de

  既に1990年代から「ビオトープ網計画;Biotopverbundplan」の重要性は指摘されており、連邦自然保護法20,21条はじめNRW州の自然保護法8,10,35条でも明確にされ下位計画でもネットワークの重要性は指摘されてきています。2016年のNRW州計画(Landesentwicklungsplan)でも州レベルの諸計画と関連付けたビオトープネットワークが示されています。それに基づいてデットモルト地方(Regierungsbezirk Detmold)ではモデルプランが作られています。2017年までにアマガエル類の生息環境保護、チョウ類の生息空間保護のための事例地区検討(郡レベルで)が進められています。この報告はその要旨です。

 

5) Auf der Suche nach Flache- Kompensationen in Bochum(Bochumにおける代償用地探し)   著者;Dr. Peter Gausmann  連絡先: pgausmann@bochum.de

 都市近郊への開発が進んできているルール工業地帯では「自然・環境保全のための代償地」探しが始まっています。これは連邦自然保護法14-15条、NRW州自然保護法30-31条に決められた代償措置、代償施策の取り決めに関連しています。目下、この取り扱いは大変難しい問題・課題となっています。それについてのBochum市を例にした報告です。これについて、森林法との関係、自然保護法との関係から代償措置に対する問題解決の在り方を述べています。

6) Floristische Diversitat  einer ehemaligen Sturmwurfflache(暴風荒廃地の植物種の多様性)  著者;Dr. Bertram Leder     連絡先:bertram.leder@wald-und-holz.nrw.de

 2007年の暴風被害(Kyrill)に合った森林(植生調査地23.7ha;標高320-345m)の植生遷移状況報告です。以前は104年生のドイツトウヒ林であった所で、2008-2015までの調査地の植物調査結果。地形、地質、土壌、気象との関係を調べ、30×30mの方形区252地点設定。結果、木本種/haで5千-2万本区が45%、2-5万本区が20%、種数は118(2008)から175種(2017)に増加、を報告しています。

 

7) Gesellschaftliches Bewusstsein fur biologische Vielfalt in NRW (NRWにおける生物多様性のための社会的意識) 著者:Andre Seitz    連絡先:andre.seitz@mulnv.nrw.d

  ドイツでは2009年から2年おきに生物多様性や種の保護、エコシステム、生息域の多様性から遺伝子の多様性までについての国民の意識調査をしています。この報告では、最初に国レベルの意識について述べ、次いでNRW州の住民の意識について報告しています。