水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

ドイツ・NRW州機関誌 Natur in NRW 夏号(2018.No.2) より

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● 今回の報告はNo.2(夏号)の話題で、以下の通りです。(上の写真は冊子の表紙絵です) 

 草地果樹園(Streuobstwiesen)は果樹の下の草地の在り方について述べられています。ドイツでは街路樹*としても以前から果樹が良く使われていましたが、果樹の生産に特化した果樹園としてでなく、生物多様性、伝統的農村風景、伝統的果樹品種**の保全など多様な価値を持つ、集落内や周辺部にある野生草で地表を被覆された果樹園の見直しが進められて来ています。それは昆虫はじめ野鳥や野生草の生育、生息空間として重要であり、かつ伝統的な維持管理法、農村・集落景観としても価値を有し文化景観(Kulturlandschaft)の保護の視点、地産地消、食の安全性等からも保全・再生が指摘されてきています。この号は、それに関する報告が中心になっています。

*今日でも農村の中の遊歩道整備(例えばハイキング、サイクリングロード等)の際に、街路樹整備の対象として果樹(多くはリンゴやナシ等)の苗木をを名札(樹種名・寄付者名付)を付けて植栽をしていますまた、伝統的に農村の街路樹整備「郷土保護;heimatschutzとして」で果樹(リンゴやナシ)を植栽してきました(例えばG.Vorherr)。最後の段の写真はドイツ・ハノーファ市郊外の遊歩道沿いに植栽されたリンゴ(寄付者の名前とリンゴの品種が書かれています)

**日本の果樹試験場?にも伝統的な古来からの旧い品種が生体保存(品種保存)されていると思いますが、ドイツでは報告にある通り特定の機関でしっかり保存・育成されています

 

2018.  No.2(夏)

1) Streuobstwiesen:  Weiter auf dem absteigenden Ast? (草地果樹園;増大傾向の今後)   著者:Corinna Dierichs   連絡先:dierichs@biostation-rhein-sieg.de

 ライン・ジーク郡内4町村における1990-2013年(23年間)の草地果樹園の動態について報告しています。高木果樹のある樹園草地はNRW州の文化景観として保全され、かっては代表的な経営形態でありましたが今日ではとりわけ、自然保護ー種保護の視点に注目されてきています。こういった果樹園の動態(1990/2013比較)が全体では、9万本/1400ha/3千ヵ所(1990年代半ば)あったのが現在どうなっているか調査されています。自然保護地区内とそれ以外(無指定地区)で状況が変化してきています(全体でー48%減;自然保護区内は17%減に対しそれ以外では54%減)。この調査には航空写真(精度も地上で40cm~20cm判読可)も使われています。現況では、保護地区も無指定地区も共に旧い果樹園が増え(60%以上)、 共に90%以上で樹木の老化が進んでいると報告しています。

これに対する対応施策として、自然保護地区内での果樹園の充実、改善、果樹園における家畜(豚や羊、山羊等)の放牧の再生、推進、所有農家の理解と参加、民間団体の果樹園保全に対する積極的参加、学校の環境教育・体験教育での理解と参加と推進、州の自然保護法42条(4項)の積極的適応などを挙げています。また、今年中に州内の草地果樹園のデータが整備される予定です。

2) Wildapfel im Spannungsfeld menschlichen Wirtschaftens(社会経済的に緊張感のある 野生リンゴの位置づけ) 著者: Ulrike Hoffmann  連絡先:mahpa@web.de

 ここで言う野生リンゴ(Malus sylvestris)は2011年にレッドリストで絶滅危惧種に指定され、2013年にはその年の樹木にもなり、遺伝子保存まで行われています。これはNRW州での野生リンゴに関する調査・研究史の報告で、文化景観の構成要素として野生リンゴ(7000年以上の歴史)は重要視され、歴史的にも林内放牧や用地境界樹としても利用されてきたことを述べています。これまでの時間的経過の中で野生リンゴの意味を再確認し、現在の地球環境時代における種多様性、種保護、生物多様性、伝統的農法の視点から重要性を喚起しています。 

 

3) Aktuelle Vorschriften zur Artenschutzprufung in NRW (NRWにおける種保護検証規約)  著者:Dr.Ernst-Friedrich Kiel 連絡先:ernst-friedrich.kiel@mulnv. nrw.de    

 FFH指針(Fauna-Flora-Habitat-Richtlinie)、鳥類保護指針はEU生物多様性保全に関する重要な案件です。この指針はNATURA2000の保護システム(Schutzgebietssystem NATURA2000)に基づく厳しい条件での指針になっています。したがって関係国の自然保護の計画、許認可に際して重要なテーマです。NRW州ではこれに従って前年、規定(Vorschriften)を出しました。この報告はそれに関連する手続き(連邦自然保護法、州自然保護法との関係)の流れと、種保護試験(Artenschutzpruefungen)の成り立ちについて解説、同時に保護計画重要種の捉え方についても明らかにしています。例えばNRW州では哺乳類76種中25種、鳥類では260種中133種が計画重要種になっています。これらの種の現地調査方法基準、モニタリング調査基準、特定の計画対応などを説明しています(NRW州では2017年末より風力発電施設計画、許認可に対して新しい手法・基準が決まっている)。 

4) Die EG-Verordnung Invasive Arten: Stand der  Umsetzung (輸入種のEG規則、変換基準)     著者:Carla Michels    連絡先:carla.michels@lanuv.nrw.de

 外来生物の取り扱いについては何処の国も、その対応には苦労しています。ドイツでもEUとの関係を考慮しながら(EUリスト)国内での種の生育・生息状況を説明しています。さらにEU指針16,19条に基づく種の取り扱いについて検討中もあり、例えばアライグマ(Waschbaer)についての説明もされています。

 わが国と異なり、ドイツではEUという繋がりの中と国内との違いについて(EUレベルと国内レベル)検討の必要性が指摘されています。

 

5) Die neuen Roten Listen der Vogel NRW(NRWにおける野鳥の新レッドリスト)   

 著者:Peter Herkenrath   連絡先:peter.herkenrath@lanuv.nrw.de  

  NRW州では他の団体と共同で新しいレッドリスト(第6次)を公表しました。繁殖鳥と渡り鳥について、国内1000人以上の旧・現担当官により調査し造られたデータ(6段階に区分)を基に決められています。州内で繁殖する鳥種の半分以上が危機に瀕していると報告しています。また渡り鳥(国内、国際:長距離;サハラ以南の45%、中距離;地中海沿岸の32%)についても危機に瀕しているとしています。

6) Das Projekt Rotmilan -- Land zum Leben(アカワシ保全プロジェクト---州内の生息に向けて) 

 著者:Otto Florian Schollnhammer 連絡先:schoellnhammer@bs-bl.de

 重要保護鳥(Rotmilan;ドイツ国旗)の保護計画プロジェクトについて。ケルン東部の町ベルギッシュグラッドバッハ(Bergischgladbach)地域における調査対象地での生息、繁殖状況、繁殖樹木(ブナ33%、ミズナラ51%)、採餌場所(40%農耕地(畑、刈り取り牧野、放牧牧野)、40%樹林地(針葉樹・落葉樹50%)の結果が報告されています。

 

7)Vertragsnaturschutz:Management mit freier Software (ソフトウエアによる管理;自然保護協定)    著者:Melanie Hein    連絡先:m.hein@biostationeuskirchen. de

 特定農家と協定を交わし自然保護を進める際の方法について。調査データの作成に関してソフトウエアーの管理を事例を使って説明しています。関連事項(地形、地質、植生、土地利用など既にデータ化されたフォーマットに追加して対象空間の農地の維持管理データを取り込む方法で関係する自然保護の指針作り、データ造りに使うものです。

  

  1)の報告事例について、日本でも無農薬、無施肥で似た報告・話題があります。青森県のリンゴ農家で無施肥、無農薬果樹園の維持管理に下草を活かした栽培で優れた効果、成果を上げあげておられるものです。無施肥、無農薬での栽培管理、下草管理と果樹(リンゴ)の生育(味や形など)について永年の経験を活かし生態的、生理的栽培を行っておられるようです。

1),2)に関連して:今年の4月、Wassenbergの品種保存園(Sortengarten)に果樹品種多様性保護協会(Foerdervereines Obstsortenwielfalt)により次の3つの古種(Rheinischer Krummstiel, Keulemann, Johannes Boettner)の幼木が植栽されたまた、4万ユーロの資金を使い州内の草地果樹園網整備のため随時、果樹の若木植栽をし、表示板で内容を掲示している(Bruchhausen自然保護センター;4月末、Berleburg-Richsteinの果樹園;5月中旬)。

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