水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

研究室卒論発表会

 平成31年2月8日、日本大学緑地環境科学研究室(旧造園学、緑地環境研究室)の卒業研究発表会がありました。平成14年11月に定年退職してから後、各年度の2月、恒例の卒業研究発表会に案内頂いていましたが、なかなか参加できず今回久しぶりに聞きに行ってきました。

 今年の卒業予定者(研究発表者;4年生19名、大学院生3名)は22名でした。例年通り、研究室名の要旨集*(今年、卒業論文・大学院研究要旨集になっていました)は、切株をデザインし、その周りに生き物をあしらったイラストの付いた白い表紙で作られています。大沢啓志教授と藤崎健一郎専任講師のお二人で、足掛け2年をかけ教育指導され、学生各自それぞれ苦労して作り出された調査・実験の成果が素晴らしい冊子となっています。

*要旨集は、緑地環境科学研究室(〒2520885 藤沢市亀井野1866)Tel:0466843522へ問い合わせください)

 

 研究内容は大変バラエティーがあり、粘菌(変形菌)、両生類(カジカガエル)、水生昆虫(モンキマメゲンゴロウ)からカワラナデシやノウルシ、アゼスゲ・半夏生、ミズキンバイなどの湿地、水辺植生を対象として自然地域・緑地環境を捉えたもの、農村景観構成要素の緑を研究したもの、道路や建物の緑を調査研究したもの、緑のリサイクル事業、市町村における緑の計画の状況を捉えたものなどがありました。

 研究対象(内容や範囲など)が大きかったり広すぎて研究の焦点が明確でなくなったり、論点が絞り切れず内容が薄くなってしまったものもありましたが、どれも学生の研究に対する真面目さ(忠実さ)必死さ(着実性や努力度)が読み取れるものとなっていました。

 研究の着眼点、実施・遂行(データ作り)は、学生個人の興味の強さや根気強さ、時間のかけ方に違いがあり、それが成果の違いとなって表れていました。調査研究対象の広さや具体的地域の広さと関連し、それがデータの精度となって表れるジレンマに襲われた学生諸君も少なくなかっただろうと感じられました。「もう少し時間があれば」、「もっと早くから取り掛かっていれば」といった感想が、発表時の偽らざる思いだろうと、昔の自分を思い出しました(卒業生の思いとして、”あの時もっと真剣に、真面目に勉強しておけばよかったなー”がよく言われます)。

 

 そんな中でも、内容と成果に感心した研究を2-3あげたいと思います。

対象地域を広く取り小動物の生息状況と環境を調査した報告が2件ありました。一つは三浦半島の中小河川環境(自然性)を背景に、水環境とモンキマメゲンゴロウの関係を捉えたもの、もう一つは伊豆半島の河川を中心に、カジカガエルの生息とその環境特性(地域特性も含め)を明らかにしたものでした。いずれの生き物も普段目にしないもので、そのあり様を具体的に明らかにした点は、素晴らしいものでした(そのいずれも学会報告できたらと思いました)。もう一つ、院生が取り組んでいる変形菌(真性粘菌)と緑地の内容も面白い研究でした。一般的にほとんど見過ごし、気にも留めない(人によっては気味悪がられるもの)群生する菌類と緑の関係(場所性、植生、管理など)について明らかにしていて、思わず、昔の南方熊楠を彷彿させるものです。

 院生の研究報告は、やはり調査研究として目的、方法、内容に一日の長があり、データの応用性という点で成果が出たものと思います。委託調査研究という点を差し引いても、学部学生時の卒研を踏まえてデータを積み重ねる意味が読み取れるものとなっています。学部内に実験場所を設定してのものでやり易さはあったでしょうが、応用性の点でデータの妥当性と正確性が試される点で、苦労があったと思われました。

 利根川水系の加湿地帯における農村の景観保全と植生保護(種保護・ビオトープ保護)についても興味ある研究です。地域特性のノウルシ、アシ、クヌギの生育、維持管理、利用について総合的に捉えるのは大変です。ファクター(景観を構成する要素)が多種多様である上に、人との関係、自然の時間的変化の複雑性の中で分析・考察する点は大変難しいと理解できます。これら院生の研究についても、成果の公表を期待したいと思いました。

 

 久しぶりに若い学生諸君の研究報告を聞くことができ、有意義な一日になりました。AIが発達した時代で、今の学生諸君はプレゼンテーションも大変うまく、報告・発表を楽しんでいる様がPP(パワーポイント)に表れていました。

 毎年のことですが、ほとんど何も分らなかった学生を指導し、発表会まで引き上げられてこられたお2人の先生に敬意を払い、ご苦労様でしたと申し上げるほかありません。

来年度(2020年)は新しい元号での要旨集になりますし、研究室創設50年ともなります。これまでの繋がり(絆)がますます強く、素晴らしいものになっていくことを期待したいと思います。