水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

クリムト その3

 

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    新聞社対決か、と思わせる2019年のクリムト、ウイーン表現派を中心とした展覧会です。主催を見ると、東京都美術館で開催中のクリムト展 ウイーンと日本1900展」(4.23-7.10)は都美術館、朝日新聞社が主催、一方の「ウイーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」(4.24-8.5)は国立新美術館で開催中、国立新美術館読売新聞社が主催しています。さらに作品の出どころで、前者がベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館、後者はウイーンミュージアムが主催です。展示期間も展示内容もほぼ同じにしながら、上野(都美術館)と赤坂・六本木国立新美術館で対抗しています(これまた面白い)。

 6月8日に上野の方の展覧会を見てきましたが、その前に国立新美術館の方の展覧会も見ています(クリムト  2で報告)。国立新美術館の方には、クリムトの代名詞「金ピカ」*作品は無く、都美術館の展示に期待を持って出かけました。

 残念ながらクリムトの代表作「接吻」(45-46歳作)は出展されていませんでしたが、他のユディトⅠ、赤子、ヌーダ・ヴェリタス、女三世代、雨後、リア・ムンク、ベートーヴェン・フリーズ(複製)は見ることができ、金ピカの一端も見れました。クリムトが活躍した時代はウイーン万国博(1873)とも関連して「日本ブーム;ジャポニズム」が絵画界にも見られ、彼の作品にも影響を及ぼしたと思われます。いろいろな絵の中に日本的なモチーフや色使い、デザインに浮世絵や日本画の物が見られたり、それと思わせる部分がありました。

 今回、良かった絵、素敵な絵として2枚の肖像画がありました。一枚は実の弟の娘ヘレーネの横顔を描いた「ヘレーネ・クリムトの肖像」、もう一つは「17歳のエミーリエ・フレーゲの肖像」です。後者のエミーリエ・フレーゲは生涯クリムトを愛し支えた恋人ともいわれ、弟の奥さんの妹です。彼女の17歳の横顔を描いたパステル画で、若く美しく気品のある女性を描いています。

 参考資料**によると、女性好きのクリムトには、彼の周りに4人の女神がいたと記されています。エミーリエ・フレーゲ、ソニア・クニップス、マルガレーテ・ストロンボロ=ヴィトケンシュタイン、そしてアデーレ・ブロッホ=バウアーです。彼女達それぞれの肖像画は右45度を向いた全身に近い姿で描かれた絵で、今回の2つの展覧会では、「エミーリエ・フレーゲの肖像」だけを見ることができました(クリムト2に添付)。

 彼はウイーン上流階級の女性肖像画を多く描き、アトリエでは女性モデルの素描やスケッチ、絵画を制作していた、とあります。生涯独身を貫きましたが14人の子持ちであったとされ、エロスを描き続け「描く歓び」を求め続けて55歳の生涯を閉じています。

 

 クリムトが描く女性は肖像画を除き、妖艶で夢心地、自由な姿・形をしたものが多く、手や腕、顔(口や唇や目)の表情には色っぽい表情、恍惚感が見受けられました。

 

 やや物足りなかった都美術館のクリムト展は、金の輝きも無く拍子抜けでしたが、その後で訪れた小石川後楽園庭園は、青空の下、滴る緑と日本的色彩で派手さ控えめの菖蒲の美しさに感激しました。改めて都心の緑、日本庭園の魅力を感じ取ることができ至極の時間となりました。

 

* クリムトの父はボヘミア出身の金細工師であったことから、身近に金箔を用いることに違和感がなかった40代の最も有名な絵画「接吻」や「ユディトⅠ」、「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」では金箔を用いた作品です。

** プレミアム美術館・クリムト、愛蔵版、No.906、朝日新聞出版、2019 

 

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