水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

書いておきたい一文 1

 

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日本大学生物資源科学部、以前は日本大学獣医学部。今でこそキャンパスが湘南藤沢の六会にあるが、昔から学部の実習は現在の六会の地で行っていた。学部が都心から郊外に全学科移転したのは平成8年(1996)、それ以前は学科によって時代を分けて移転し、授業校舎は世田谷区三軒茶屋の近く、下馬の地にあった。農場・牧場等での実習を行う学科は学年によって東京の下馬と藤沢・六会の両校地を行き来し、実習を必要としない学科は2-4年生が都内下馬での学生生活であった。教員も同様、東京校舎と湘南六会校舎の掛け持ちで東奔西走、講義や実習で両地の間、行き来を余儀なくされていた。

 

 そんな折、小田急線の経堂~成城学園沿線の風景を見るたびに思うこと、気になることがあった。それは、30年も前からで今も思い・感じ・考える僅かな緑の事である。見るともなく目に飛び込んでくる車窓から見える昔の成城地域の景観に有っただろう「アカマツ」である。平屋の甍を越えて伸び、以前の地区の代表的な緑、今まで偶然残ったか、かろうじて残されてきた数少ない「アカマツ」である(添付写真;2019.7撮影)。

 

 都心の住宅地域から昔の樹林が消えて久しい。樹林がやせ細り、次第に独立した大木が1-2本残るだけになってしまった。人が街中で道路からその樹木を見ると、殆ど何も感じない。しかし、高架を走る電車の車窓に飛び込んでくる「アカマツ」は生気の無い都市の風景に抵抗して「緑の笠」・「緑の生きた植物」をほんの一瞬だけ感じさせてくれる。

 

 造園緑地科学を長く大学で教え、都市の緑を調査・研究していた我が身としては、かなり以前から、この「成城学園付近のアカマツ」は気になっていた。町の代表的景観構成要素にならないだろうか、と考え実態調査をしようとも考えた。

 樹高8-10mにも及ぶアカマツ、戦時中の時代を越えて今に残り、屋敷の内・外から景を作っている。実際の根圏は別として、地際の占有面積は0.5㎥にも満たない。それだけ狭小な空間に生育しながら町や通りの緑を作り出してきた(添付写真;2019.7撮影)。

それ以来、街の緑を増やす考えとして「1㎥、緑のために場所を!」と叫んだ。街中の駐車場*や自治会のゴミ集積場**に高木(ここではアカマツ)の苗木を植え育てたら、街の緑は増える、と信じて各種調査・研究を実施した。25年も昔の話である。

 事実、樹木は大きく生育しても根元部分(根圏は別だが)の用地は1㎥で十分である。都市緑化推進に際し「接道部緑化」という用語が用いられて久しい。公共空間側の街路景観として緑を豊かにする、その一つの方法としてこの1㎥用地、アカマツ単木植栽も考えていた。公共空間への「緑の張り出し効果」である(時に邪魔者扱いされ無残に切り刻まれる場合も少なくない)。

 

 民間の力を誘導し緑を増やす方法として考えるならば、これは一つの方法だと考える。そのため行政的な支援、補助を準備することは自明であるし、同時に長い目で町の緑を考え、造り、育てる、意志の共有が求められる。個人の意思だけでは限界がある。自治会、町内会といった地域コミュニティーで「緑や自然を作り・育てる」考え方や意思統一が必要である(今の委縮する街、破綻する地域コミュニティーは危機的でもある)***。

  そう言う端から、相続税で土地が細切れになり景観的に優れた古木や巨木は残らないし、残りそうになると所有者が伐採したり、名木指定を拒んで残らない現実もある。樹木保存や街の緑保全が絵に描いた餅になる。これでは、緑滴る落ち着いた風情ある街はできない。 残念ながら緑地整備計画に時間をかけて作り上げる風土、意識や考え方が市民、住民に貧しい。まだまだ「緑」が添え物的存在としてだけで考えられ、見られているのは文化の無い国と言われても仕方がない。

 

 古い町並み、伝統的建築物群の景観を残す街並み保存は十分関心が寄せられ考えられてきている。これからの計画的街づくりでは、新たな緑の「点、線、面」による空間整備が求められ、「変わらぬ街並み、変えない街並み」に対応した緑の造り方、育て方(半官半民の協力、公私相乗りの緑整備)が重要である。緑整備は、今からでも決して遅くない。「やる」だけである。これからに期待したい。 

 

 :藤崎健一郎・千村俊介  他(1994)駐車場の緑化推進手法、環境情報科学論文集、No.7、64-68 

**:浅田郁乃(1993)ゴミ集積場の分布と環境改善に関する研究、造園学研究室卒業論文

***:世田谷区ではみどりの基本条例で保存樹木に指定し保全、砧8丁目や成城2丁目に見られる。また、一財)世田谷トラストまちづくりにより樹林が保全管理されている(なかんだの坂・市民緑地など)