水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

海外雑誌でのニュース  5

    定期購読していますドイツ、ノルトライン・ウエストファーレン州自然・環境・消費者保護研究所(Landesamt fuer Natur Umwelt  und Verbraucherschutz NRW)発行の機関誌(Natur in NRW) 2019.2が来ました。

  本号の報告記事は、①ノルトライン・ウエストファーレン州の昆虫相のモニタリング、②ノルトライン・ウエストファーレン州立鳥類保護研究所80年、③EU鳥類保護地域 ”ヴェーザー河畔湿地 ”の基本計画、④コナツバメ(Mehlschwalbe)の生息の仕方、⑤ノルトライン・ウエストファーレン州ライン川の魚類相の動態、⑥ノルトライン・ウエストファーレン州(NRW)における景観評価(Landschaftbildbewertung)、⑦乾燥化が進むフルター湿地、の7編です。その内容を概説しておきます。

 記事の内容の詳細にご興味お持ちの方は、記事末尾の著者・連絡メールアドレスをご覧頂き相手側にお問い合わせください。雑誌原文(ドイツ語)が欲しい人はご連絡ください。コピーして送ります。 

 

 

報告1:ノルトライン・ウエストファーレン州の昆虫相のモニタリング

Monitoring von Insekten in Nordrhein-Westfalen                C.Grueneberg 他2名

NRW州自然ー環境ー消費者保護省(Landesamt fuer Natur,Umwelt,Verbraucherschutz NRW;LANUV)とオスナブリュック大学の新規共同研究として進められている昆虫相のモニタリングのこれまでの成果と今後の永続観測・計測の基盤についての報告。

 この調査研究は2019年から3か年続けられ、州政府から57万ユーロの助成金が出される。共同研究の前提として2013年から2017年にかけて昆虫相調査がKrefeldで行われている。また、隣接州(NRW、ブランデンブルク、ラインランドプファルツ)63自然保護地で1989年~2016年に飛翔昆虫の76%が危機に瀕していると報告された。

2018年ドイツ連邦レベルでは昆虫保護アクションプログラムが作られているが、連邦に先駆け2017年Krefeld調査以後、全州モニタリング調査(飛翔性昆虫)を進めている。

 NRW州では調査法を統一し永続的な調査を進め、昆虫相に対応した科学的な成果として量的・質的状況を把握することにしている。

 NRW州では25,000種の昆虫がいるとされ(動物相では最大)ているが、調査にあたる専門家が少なく全体を把握することが難しいこと、生態系との関連性が把握し易く捉えやすいこと、飛翔性昆虫について関係専門家(研究者、同好者ら)の数が多いことなどから飛翔性昆虫相(特に蝶、蛾、バッタ類)に限定した調査結果となっている。

 トランセクト法による蝶類調査では、花の多い生息域、野生草地(特に幼虫では)、開けた場所で多様な種の生息が見られている。調査は、ビオトープに関連し、5月中旬から8月初旬まで3週おきに、長さ1500m、幅5m(片側2.5m)のベルト、170地点に設定し実施されている(2022年まで)。

  バッタ類については黒色ガーゼ布を張った高さ0.8m、1.41m四方(約2㎥)の枠を、隣接ビオトープから20m離して州内に120地点設け調査。異なる立地の牧野・草地に設置しバッタ類の生息状況を把握している。バッタ類は比較的暖かい地域から見られ、傾向としてライン川、ルール川低地から次第に涼しいザウアーランド、エイフェル地域に分布が移動することが明らかにされている。

        著者とのコンタクト(メールアドレス):christoph.grueneberg@lanuv.nrw.de

 

報告2:ノルトライン・ウエストファーレン州立鳥類保護研究所80年

80 Jahre Staatliche Vogelschutzwarte Nordrhein-Westfalen          P. Herkenrath 他2名

NRW州自然ー環境ー消費者保護省(Landesamt fuer Natur,Umwelt,Verbraucherschutz NRW;LANUV)の鳥類保護研究所(VSW)が今年80年目を迎える。1939年エッセン市に設立された当研究所は、現在では同保護省の”種保護センター” 24部としてレックリングハウゼンにある。研究所の80周年を記念してこれまでの歩み、活動、これからの役割・使命について報告。最初の鳥類保護センター(Vogelschutzstation)は1884年、それ以後20世紀に入ってからの進展について、色々な関係部局、名称の変化について述べている。1930年代に早くもレッドリストの考え方で鳥類保護が叫ばれてきた。1950年以降も州の関係部局再編により名称が変更(LOEBF/LAfAO)され、現在はLANUVの第24部門(種保護および鳥類保護研究所)になっている。研究所の使命・役割も変化しており、単なる鳥類保護から生態系の中での鳥類保護(昆虫類捕食、害虫駆除)、個体変化・変動(採餌・繁殖・営巣など)まで幅広い環境保護、慰安・レクリエーションなどへ拡がっている。1979年以降はEUレベルの視点へと広がり、指針が策定され野生鳥類の保護(野鳥の生態から営巣、繁殖、渡りがヨーロッパ圏で考えなければならない)が進められて来ている。それに伴い永続的、統一的モニタリング調査がEU内で考えられ、各国でそれの対応が図られるようになってきている。 

  著者とのコンタクト(メールアドレス):peter.herkenrath@lanuv.nrw.de

 

 

報告3EU鳥類保護地域 ”ヴェーザー河畔 低湿地”の基本計画

Massnahmenplan fuer das EU-Vogelschutzgebiet "Weseraue"      M. Joebges 他7名 

 ミンデン、リュークベッケ郡のペータースハーゲン~シュリュッセルブルク間にあるEU指定の鳥類保護地 ”ヴェーザー河畔低湿地”に対する野鳥保護指針についての報告。

この地域(ヴェーザー川下流域)はNRW州東北端にあり、ニーダーザクセン州の州都ハノーファ市とシュタインフーダー湖に近接、州境に隣接。ヨーロッパ鳥類保護指針(EU-Vogelschutzrichtlinie;DE-3519-401)にある重要な野鳥保護地で希少種、絶滅危惧種はじめ多くの野鳥の繁殖、休息、採餌、越冬地として位置付けられている。広さは2,744ha、うち1,612haは湿地で国際的なラムサール条約保護地に指定されている。48%は農地、用地の27%は牧野で利用が制限されている。ヴェーザー川の流水面は9%ほどで同じくらいの止水域(多くは砂利採掘跡地)から成っている。NRW州には28のEU野鳥保護地がありEU指針(79/409/EWG)で知られ、FFH指針(92/43/EWG;EU-Fauna-Flora-Habitat-Richtlinie)に基づいている。それらは自然2000地区(Natura-2000 Gebiete)とネットワークされ、すべて指針規定に準拠(整備も保護もすべて)することとなっている。またいろいろな地域の、多くの関係者(居住者、農業協同組合、団体関係者、行政役人など)と協議を重ねることになっている。

また、近くに重要な運河網(Mittellandkanal,Elbe-havel-kanalなど)、エルベ川もあり連邦運河、連邦河川局との関係も極めて高い。ここでは13項目の指針(河畔低湿地保全指針;Vogelschutzmassnahmenplan)が提示されている(詳述は割愛)。

      著者とのコンタクト(メールアドレス):michael.joebges@lanuv.de

 

報告4:コナツバメ(Mehlschwalbe)の生息の仕方

Mehlschwalbe-- Kulturfolger oder "von der Kultur verfolgt"?           H.Buemmerstede

 ライニッシェ ベルギッシェ郡におけるコナツバメ(Delichon urbicum;Mehlschwalbe)の生息環境、生息状況についての報告。

コナツバメ(Mehlschwalbe;Delichon urbicum)は、ラテン語 "urbicus"「都市の、街の」の意にあるように、中部ヨーロッパでは、普通の人家軒先や農家の納屋・小屋の軒下に営巣し「文化ーKulturfolger」として繁殖してきている。しかし、NRW州ではここ25年の間に50%減少してきている。

 これらの状況に対し、ツバメが巣を駆ける家の居住者へのアンケートと実態調査を通してその減少の原因、営巣繁殖の現状、軒下営巣や人工補助に対する考え方、対応策について報告している。

   著者とのコンタクト(メールアドレス):hanna.buemmerstede@web.de

 

 

報告5:ノルトライン・ウエストファーレン州ライン川の魚類相の動態

Die Entwicklung der Fischfauna im Rhein in Nordrhein-Westfalen        P. Breyer 他1名

 NRW州自然ー環境ー消費者保護省(Landesamt fuer Natur,Umwelt,Verbraucherschutz NRW;LANUV)における長期間(1984年から2017年まで1年おきに)にわたる魚類相モニタリング、その変化と動態(モニタリング結果)についての報告。

    著者とのコンタクト(メールアドレス):philippa.breyer@lanuv.nrw.de

 

報告6:ノルトライン・ウエストファーレン州(NRW)における景観評価(Landschaftbildbewertung)

    Landschaftbildbewertung in NRW                   U. Biedermann  他1名

 風力発電施設、送電線施設の計画、許認可に際し重要な景観評価について報告。

景観評価(Landschaftsbildbewertung)、自然景観保護、歴史的ー文化的景観保護、レクリエーションなどの視点から連邦自然保護法(BNatSchG1条)に規定されている内容との整合性について。

 景観評価として、地形・地質・植生・土地利用、水条件など各種の要素、条件などが関係し、立地条件・要素、文化的ー歴史的(人文的要素)動態、いろいろな時代の様態の多様性が重要な要件である。これまでに各種景観要素が変化し、価値ある地域固有の景観が喪失、変化してきている。また、新たな社会資本(インフラ設備;送電線、風車など)は広域的、巨大な施設が空間を必要とし、オープンスペースの姿を変えてきている。

NRW州全体を景観単位区分、各種地域指定区分等に合わせ景観の重要度を4段階で評価し、さらに市街地、褐炭露天掘りと合わせ図化し、州全体と他の5地域(アルンスベルク、デュッセルドルフ、ドルトムント、ケルン、ミュンスター)それぞれでの4区分別比率を出している。

評価基準として、①特異性・特殊性(Eigenart)、②多様性(Vielfalt)、③審美性(Schoenheit)の3つから評価し、1.600の景観を選出している。243地点( 州面積の13%)は非常に高い評価、次いで 489地点(州面積の19%)は高い評価となり、実に州のオーウンスペース面積の1/3が景観的に優れた場所であるとなっており、都市化が著しいNRW州としては高評価である。同時にこの景観を損なう開発整備に対し代償(代替)値(Ersatzgeldermittlung)の考えで試案を提示、数値を出している。

 この報告では①風力発電施設(塔)ならびに送電線施設それぞれと景観の問題にも触れている。  

        著者とのコンタクト(メールアドレス):ulrike.biedermann@lanuv.nrw.de

 

        景観評価の詳細は末尾に示したオンライン・コードで情報を確認してください。

NRWの景観評価(オンライン問い合わせ先;①www.lanuv.nrw.de/natur/landschaftplanung/fachbeitrag.)

②www.lanuv.nrw.de/natur/eingriffsregelung/windkraft-und-landschaftsbild/.

③www.lanuv.nrw.de/natur/eingriffregelung/freileitungen-und-landschaftsbild/

 

報告7:乾燥化が進むフルター湿地

Das Further Moor trocknet aus                               C.Michels 他2名

フルター湿地における植生現況、植生動態と水条件維持管理について。自然保護及び動植物種保護、保護地(Naturschutz- und FFH; Flora Fauna und Habitat)に指定されているフルター湿地について地形・地質、地下水状況、植生変化(樹木との関係)などを2000年から継続的に計測、その対応策について検討している。

  著者とのコンタクト(メールアドレス):carla.michels@lanuv.nrw.de

 

 これ以外、雑誌のジャーナル記事;ニュースから(コメント)

1)森林に関する事項:

 ドイツ自然保護連盟(Naturschutzbund Deutschland)は、ここ12年間で非施業林(unbewirtschafteter Waelder)が1.9%から2.8%に上昇(2013年1,110k㎡から2018年3,240k㎡へ)しているが、これは生物多様性からいって、まだまだ不十分(理想は5%目標;Fuenf-Prozent-Ziel)で自然林(Naturwaelder)を増やさなければならない、としている(もう一つの目標は各州で面積の2%増加)。自然林の規模は1.000ha以上(最低0.3ha)で2つの目標を達成できるとしている。そのため、連邦、各州政府、自治体が民有林(privatwald)への働きかけ・支援が求められるとしている。また、近年、病害浸潤によるトネリコ林消滅に対するトネリコ林(Eschenwaelder)保護(生物学的多様性保護のため)について、連邦レベルでの新たな調査研究プログラムが作られ、2025年までに2.3百万ユーロが連邦環境省(Bundesumweltministerium)が支援し、連邦自然保護研究所(Bundesamt fuer Naturschutz;BfN)が管轄する。手始めに2019年2月よりChristian-Albrechts-Uni.管轄のプロジェクトとして始められた。

 

2)昆虫相保護に関する事項:

 昆虫を餌としている殆どの野鳥で、EU関係国では1990-2015年の間に13%減少していると、ゼッケンベルク生物多様性・気候研究センターと生物多様性ドイツ中央研究所が公表した。ヨーロッパに生息する鳥類の半分は畑、牧野(刈り取り、放牧)に生息する昆虫を餌としており、現状の農耕・農業地域では餌は十分といえない、としている(Dr.Prof.Katrin Boe

hning-Gaese,Goethe Uni. Frankfurt)。同時に農薬利用、耕地面積拡大・画一単純化(単作)などが農地に散在した生垣、ブッシュ、荒れ地、林縁を消失させ昆虫相が貧弱・減少し、餌だけでなく営巣繁殖場所も無くなっていると警鐘を鳴らしている。

 また、別の報告ではドイツ自然保護協会(Bund fuer Umwelt und Naturschutz Deutschland;BUND)とOrganisationen SumOfUsがミツバチー昆虫保護のため農薬使用反対の署名活動をし、230.000名以上の賛同を得た。この署名簿は5月9日に連邦農水省に提出され、同時にブカレスト、パリ、ロンドン、ローマ、ダブリン、リガにある政府関係機関にも送られた。

 ドイツには多くの昆虫が生息するにもかかわらず、確実・正確な昆虫相危機・減少の調査データが無い。レッドリスト種の40%が危機に瀕しており、保護地も小さく島状化、ネットワークも不十分である。8つの団体が手を結びDINA(Diversitaet von Insektenin Naturschutz-Arealen)プロジェクトで保護地内の昆虫相多様性調査を行う。これには連邦教育研究省(Bundesministerium fuer Bildung und Forschung)が補助している。連邦の21地点で共通、統一ある調査法で昆虫生息量調査モニタリングが行われ遺伝子技術なども駆使して新しいリストの作成を試みている。

 

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