水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

海外雑誌でのニュース  6-1

 Natur in NRW(2019.No.3)が届きました。この号から雑誌の紙質が変わり(以前からも再生紙を使っていますが)さらに古紙率の高いグレー色の紙を使った冊子になっています。

 主題は、①FFH-報告;NRW州の自然の現状(2019)、②アイフェル国立公園内のバッタWarzenbeisser(Decticus verrucivorus)、③Medebacher Bucht(野鳥保護地域の管理指針計画)、④捜索犬と種保護(ニンニクヒキガエル;Pelobates fuscus)、⑤NRW州における源流域・水源、⑥NRW州の湖沼、他に連邦から州レベルまでの時事ニュース、コラムがあります。

6-1では①~⑥までについて概略を書き、時事ニュース、コラムについては6-2に書きます。

 

    ①の概要:Gradmesser fuer den Zustand der Natur in NRW.   R.Schulute他

 EU(欧州連合)の委員会で公表されたFFH2019報告(2019年7月)を受けてNRW州の状況を述べている。その中で、NRW州では93種、44生息域(Lebensraumtypen)について評価。MRW州の東部低地地域(Tiefland;atlantisch )と西部山地地域(Berkland;kontinental)の違い・現状を示している。結果、低地地域では保全状況悪化50%(18/34)が 見られ、適切は(6/34)15% 、一方、山地地域は適切が2/3 (24/40)、悪化は1/4(9/40)と報告されている。(これには地域の自然立地特性との関係がある。2013年比較でも表示している)

 2019年では2013年と比較して大きな変化は無く、これまでの対応で進めるとしている(州面積の8.4%、3.000ケ所が保護地域指定、用地の公地化による保護;気象保全のための湿地確保・拡大、関係プロジェクト36の拡大と連邦関連プロジェクトからの支援拡充、軍関連用地の種保護・取り扱い管理の増強と理解、関連省庁との連携による種保護の拡大と充実など)。

     問い合わせ先:schlueter@lanuv.nrw.de

 ②の概要:Warzenbeisser  im Nationalpark Eifel.  A. Hochkirch 他

 このイナゴ(Decticus verrucivorus)はドイツにおいて最大かつ特異的な種であり、生息域(アイフェル国立公園;Eifel Nationalpark)ではNRW州で絶滅の危険性がある。公園内の特定地区(NRW州一の生息域)の草地維持管理法についての報告。Eifel国立公園(Nationalpark Eifel)内のバルテェンヴァイサー地区は戦後(1946)イギリス駐留軍戦車(Truppenuebungsplatz)用地として使われ、その後1950-2004まではベルギーの駐留軍用地として継続使用され、2006年ドイツ連邦に返還された。中のドライボルナー高地(海抜450-600m)は1400haに及び、地区内は森林、牧野(刈り取り、放牧)畑として利用されてきた。牧野利用は既に12世紀からあり18世紀後半には樹林の無い牧野であったとされている。

 地区内は戦車訓練用地として利用された間、地区内はそれまでの人や動物の利用と異なり、次第に樹林化し希少な動植物が戻ってきている。地区の半分は以前と同じように国立公園の保全指針に基づき地元農家の手により農地や牧野が維持され保全利用されている。2017年に現況土地利用が図化され、NRWおよび隣接ベネティック3国の中で最大の生息地になっていることが判明、同時に当公園内の他の地区でも同様の試みが進められている。他の多様な動植物の生息が確認されており、地区内の公園管理指針のあるべき方向が検討されている。

    問い合わせ先:twietmeyer@nationalpark-eifel.de 

 コメント:

 戦後、連合軍の占領下、駐留軍の施設として長く軍関係で使われていた土地が返還後、以前の土地利用を再現し、また国有地で自然が復元され種ー生物多様性保全に寄与する国立公園に組み込まれ、EU環境保全と連動した方向で進められていることは羨ましい点だと思います。

 

 ③の概要:タイトル;EU-Vogelschutzgebiet "Medebacher Bucht"  Michael M.Joebges

  メーデルバッハブフト野鳥保護地区(表題)はNRW州にある28の野鳥保護地区で4番目に大きな保護地区である。2009年のEU野鳥保護指針からEUの種とハビタット指針(Fauna-Flora-Habitat-Richtlinie)さらに自然2000地域(Natura-2000-Gebiet)の政策で保護、保全、発展等の維持管理計画と関係している。そのためEUの中での位置づけとして野鳥保護が決まっている。地区の広さは、13.849haで、ヘッセン州の27.273haに及ぶロータル山地保護地域(山間地で複雑な地形とブナ林、自然に近い渓谷を有する地域)にも接しており、この地区は農地、落葉樹林、混交林がモザイク状の比較的開けた景観である。自然空間単位や植生単位、気象・地質的にも特徴ある地域となっている。

 地域内は、粗放的管理の下で牧野(刈り取り、放牧)や林業的利用がされ、森林に囲まれた比較的開けた農地のある景観・土地利用である。特徴ある鳥種の1989年以後の動向を示し、2018-2028年の今後10年間における10項目の野鳥保護指針改定が示されている。

★この指針はインターネットでアクセスできます(www.LANUV.nrw.de/medebach/abrufbar)

    問い合わせ先:michael.joebges@LANUV.nrw.de

コメント: 

イギリスのEU欧州連合)脱退が長く問題になっている最中ですが、エネルギーや自然保護、環境保護についてEUは一体でなければならない状況に変わりはないでしょう。気象的に見ても自然条件(地形・地質・動植物相など)からみても欧州議会EU)の果たす役割は大変大きいです。今回の報告でもFFH政策、Narur2000施策など自然資源の保護に関して積極的にいろいろな施策・計画・プロジェクトを出してきています。そのような国際関係、階層構造(EU,連邦、州、郡・市町)の中で対応がいろいろ決められ進められている点は範とするべきだと思います。

 

 ④の概要:タイトル;Schnueffeln fuer den Artenschutz       A.Geiger 他

 捜索犬は空港や港湾で麻薬や覚せい剤等の探索、行方不明者や犯人の捜査に協力する警察犬として知られている。ここでは絶滅危惧種のニンニクヒキガエル探索にこの犬が使えるかどうかについての報告である。4頭の犬を使ってMuenster地方でのヒキガエル保護の試みの結果と考察である。結果は成功し、隠されたヒキガエルの臭いの付いたボックスを事前に隠された場所から探し出した。この試みは種保護の視点から、今後の方策として効果があるとみられている。

  問い合わせ先:Arno.Geiger@lanuv.nrw.de

コメント:

 多くの人が犬を飼っている国、犬にも税金がかかる国、犬種の多いドイツならではの試みでしょう。種の保護が叫ばれている現在、その種の実態を確実に捉えるために、動物の能力を活かすことは重要かつ必要なことでしょう。新しい試みが実を結び新しい施策が出るのも遠くないでしょう。

 

 ⑤の概要:タイトル;Quellen in NRW              Dirk Hinterlang 他

 2019年5月9日にドイツ・ルール地方のレックリングハウゼンで行われた自然ー環境保護アカデミー主催の報告会の模様を掲載している。会の中では歴史、源流域図化、源流保護、関連プロジェクトなどについて報告された。国レベルでは連邦自然保護法第20条(1985年)に保護すべきビオトープとして源流域が示されているとし、同時期に州の自然保護センターでも指摘されている。1992年には源流域エコロジー・保護協会が設立され、1999-2004年には517カ所のFFH地域で13の源流域が示され、2012年末には州政府から源流域アトラスが出版されている。 これに関する法体系では、欧州水資源指針(EG-Wasserrahmenrichtlinie)、連邦レベルでは連邦水収支法(Bundeswasserhaushaltsgesetz)、州レベルでは州水法(Landeswassergesetz)で源流域保護の指針が決められ、連邦自然保護法30条には法的にビオトープの保護として1994年から示されている。州の自然保護法42条にも同様に規定され、また、FFH指針でも1992年6月5日に施行、2007年1月からさらに強化されている。この会議を契機として関係団体、省庁、関連部局の連携が重要であり、情報の公開や共有の必要性を指摘している。

   問い合わせ先: 

 ⑥の概要:タイトル;Seen in NRW      Ilona Arndt  他

 ライン川沿地域にみられる砂・砂利採掘跡の湖がNRW州には多く見られ、また褐炭採掘跡地にできる人工湖(Braunkohlerestseen)もある。この中で50ha以上の規模の24についてEUの水資源基本指針(Wasserrahmenrichtlinie)の生物・生態的水質の調査に基づいた報告です。これまでの2回のモニタリング調査(2009-2011、2012-2014)で湖沼水質は悪化していることを示している(非常に良い、と良いを合わせて55%だったのが42%に低下、良くない、まあまあが45%から58%へ増加)。

 人工的に生まれた湖沼は、水辺の取り扱い(構造)が生態的でないことから浅水域の生物多様性や種の多様性が見られないと報告し、こうした人工的な湖沼の改善、改修、自然復元が重要であり、行政的にも関連部局の現場を通しての交流、試行が必要であると指摘している。

 コメント:

 従来の採掘では経済的視点でのみ人工湖の出現、管理がされてきたため、水辺の無い構造(傾斜が急で浅水域がない)や単調です。それにより浅水域のプランクトンを含む多様な生き物(動植物)が見られず生態的に(水草はじめ魚類、野鳥類など)貧相で、自然再生・復元の必要性が叫ばれています。NRW州ではライン川沿いでの砂利採掘、褐炭採掘地域での採掘跡地の湖沼は近年多様な利用(自然保護やレクリエーションなど)が強く求められ、EUの指針でも明確に位置づけされてきています。

 これら指摘は既に1960年代から生態的計画の重要性を造園・景観計画(Landespfleger,Landschaftsplanner)の分野では指摘されてきています。

    問い合わせ先: ilona.arndt@lanuv.nrw.de