水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

海外雑誌でのニュース  7-2

7-1に続いて7-2としてNRW州の自然保護の機関誌「Natur in NRW」2020.1号の内容を報告します(季刊誌最新号)。

 1号には報告論文が6編あります。そのタイトルを列記します。

1)Agrallandschaftsflaeche mit hohem Naturwert

 高い自然資源性を有する農業・農村景観

2)Heuschrecken und Hummeln im Mitelgegbirgsgruenland von NRW

 NRW州におけるドイツ中山間農地におけるバッタ類とマルハナバチ

3)Grenzgaenger Dunkler Wiesenknopf-Ameisenbleauling

 ルール地域における絶滅危惧種Phengaris mausithous)の保全

4)Eggemoore -- Hotspot der Artenvielfalt

 生物多様性のホットスポットであるーEggemoore-エッグモア湿原

5)Lebendige Gewaesser-- Einsichten und Neues fuer die Praxis

 生気溢れる水辺空間ーー実現のための考察

6)Rothirsch --Streckenrueckrechnung fuer den Nationalpark Eifel

 アカシカーーーアイフェル自然公園での生息数

 

各報告の概要を示します。 

1)高い自然の資源性を有する農業・農村景観

  問い合わせ先:Jendrik Komanns     jendrik.komanns@lanuv.nrw.de

 2009-2017年までの9年間、NRW州の低地農業地域と中山間地の農地における自然性を評価した報告です。畑地では生態的多様性が高い(Ⅰ~Ⅲ)比率は極めて低く2%に満たないのですが、一方牧野・草地では生態的価値(Ⅰ~Ⅲ)は27.6%と高くなっています。評価基準はやや粗いですが(4段階=区分参照)NRW州の西部山間地帯(21.1%)と中北部(ルール川以北)の平野部(9.1%)では大きな違いがあり、山間地域の生態的保全意義が明確にされています(それでも両地域ともNRW州の目標の15%は達していません)。

 *EU(欧州共同体)の自然の高価値を有する農業対応(High-Natur-Value-Farmland-Indikator)の

    4段階区分 (Ⅰ:極めて高い Ⅱ:比較的高い Ⅲ:高い  X:低い)

    目標:連邦レベル;19% NRW;15%=250.000haに該当;2009-2017までの調査

 NRW州では、州の半分近くを農地が占めており、開放的な農地の中で減少・消失する種が多く存在します。種の減少の要因には次の5つが挙げられています。

1、早春の刈り取り、頻繁な刈り取りによる減少、2、頻度の高い除草剤使用

3、害虫防除(雑草、問題種、害虫)、4、相対的競争(バイオエネルギー種との競合;面積拡大)。5、土地境の小生態系(生垣やブッシュなど)の消失 などです。

    2019年1月のNRW州における農業環境対策(単位;ha)

牧野の粗放的管理  43.000     多面的な機能の用地 160.500

生態的な農業の実施 78.200     共存を目指した農業   18.700

境界域(農地保全のための隣地)設置         3.500

農地内の小生態系構造の保全(生け垣、ブッシュなど) 6.100

用地の自然保護的活用   32.600      総計 342.600ha

 

生態的な農業の実施抜き取り調査(Oekologische Flaechenstichprobe=OEFS)

NRW州の191か所の事例調査地;17.946か所(2017現)が図化されており、

 その結果から、カテゴリーⅡ=2.665ha カテゴリーⅢ=4.660haが示されています。

 農地の中に含まれる生態的小要素には次のようなものがあります。

1.耕地、牧野  2.クリスマス用苗木その他特殊用地(耕地、牧野に含まれる)

3.農業用道路(農道)4.線的構造物(ブッシュ、境界木、水路)5.線的樹木(生け垣、6.面的樹木(叢林、耕地境界木)7.小水路・池沼 8.特別なハイデ(荒地、湿原、乾燥草地、沼)

 

コメントこの報告は、EUのリーダーでもあるドイツの環境配慮、環境保全型農業の仕組みづくりで、確たる地道で確実な現状調査(9年間調査)と事例実態研究が示されています。ドイツでも工業先進州としてのNRW州では「農業政策の環境対応」を具体的に進めている様子が見て取れます。このような着実で現実的かつ計画的な施策・対応が必要であると考えます。  

 

2)NRW州におけるドイツ中山間地農地におけるバッタ類とマルハナバチ

  問い合わせ先:Dr. Joern Christian Boller     j.boller@uni-bonn.de

 NRW州は連邦内で最も激しく牧野(草地)が減少しています。特に刈り取りー、放牧牧野の減少と管理放棄による劣化で無脊椎動物の多様性が無くなっています。

「牧野の継続的粗放管理」による農業環境指針(Agrarumweltmassnahmen:AUM)で生物多様性保全を目指しています。NRW州の中山間地(ヘッセン州との接する地域;ライン川を挟む南西部)での3年間にわたる調査(バッタ類とマルハナバチ)の結果報告です。農業環境指針のプログラムは2014年EU、連邦、州で取りまとめられています。AUMはそれに沿って「粗放的な牧野の永続的利用」と自然保護的条例で「粗放的、刈り取り・放牧牧野利用」が進められています(契約参加は自由だが5年間は順守、詳細な作業取り決め・制限・条件がついている)。

 調査の概要は、2013-2015、2つの地域で14地区、35カ所で調査され、バッタ類(19種2,915個体)、マルハナバチ類(16種715個体)が確認されています。 

 

 コメント:NRW州の自然保護に関する調査研究雑誌(Natur in NRW)は、州立の研究機関(Landesamt fuer Natur,Umwelt und Verbraucherschutz NRW) 雑誌で長年の継続的調査結果が報告されてきています。公的機関の地道で着実なデータ作りと結果報告の重要性が示されています。これにひきかえ、我が国の圏、県域レベルの自然保護に関する具体的な調査データの整備が極めて乏しい現状は憂うべき状況です。

 

3)ルール地域絶滅危惧種Phengaris mausithous)の保全

  問い合わせ先:Dr.Eva Remke              e.remke@b-ware.eu

 ドイツ(NRW州の南西部、ハインスベルク地域)とそこに隣接するポスターホルト地域(オランダ)の国境でルール川沿いの地域に生息するphengarisの生息状況、土地利用との関係、生息状況(生育、採餌、繁殖など)、関連する保護プログラム、現状の調査結果、さらには保全に関する今後のロードマップについて報告しています(この地区は国際地域プロジェクト(INTERREG Projekt)として調査が実施されています)。

 

日本の在来種ではセセリチョウが類似しています。この種の保全についてドイツでは、その生息域、草地の在り方(維持管理法)とPhengarisの生活環が大きく関係しており、すでにその保全については種々の対応が計られてきています(他にも牧野・草地における野鳥の繁殖と草刈期、放牧頭数などの制限関係など)。人間の草地に関する維持管理方法で、草刈時期・頻度、草刈の高さは重要な要件です。

 生息域として重要な農地(特にこの報告ではルール川沿いのドイツとオランダの国境地域)における農道沿い、用排水路沿い、畦、傾斜草地などの立地の重要性が指摘され、具体的にその草地と生息・繁殖場所の特定、草地管理の方法(例えば5月~9月中旬まで生息地の採草禁止、用水路沿いの草地は5月中旬~6月中旬刈り取り草放置の禁止など)、草地の土壌や草に含まれるNの量などとの関連が調べられています。

 

コメント:

 陸続きの欧州では、動植物の保全、希少種の保護・育成については国際的取り決めにより共同研究・調査が行われ、具体的な国際取り決めになって来ています。この報告もルール川(ドイツルール地方に源を発しNRW州南部中山間地を流れる。(ドイツ側は自然保護地区、オランダ側は自然2000”Roerderに指定されている)流域の草地における希少種保全のための調査研究です。 

 

4)生物多様性のホットスポットーEggemoore-エッグモア湿原

  問い合わせ先:Joana Gumpert           joana.lg@gmx.de

 2019年9月27日に行われた共同アカデミーの実施報告です。このアカデミーは、パデルボーンゼンネ生物調査協会、NRW州森林・木材協会それと自然・環境保護アカデミーの3者共同で開催され60名の専門家(研究、州政府、自然保護)が参加しています。EUの生命プロジェクト(EU-LIFE  Projekt)エッゲ湿原の生物多様性、湿原の自然復元について行われました。

ドイツは、かって国土の5%あった湿原が0.1%に減少しています。このゲッグモア湿原はこのプロジェクトの対象となり、再自然化と湿地保護がなされています。

この報告は、いろいろな専門家が湿原の現状、意義、今後の在り方、進め方について議論した内容を取りまとめたものです。報告者は次の通りです。

Hans Joosten博士、Greifswald大学生物・景観生態学研究室教授:

Christian Finke氏、パデルボーンゼンネ生物調査協会:

Tim Martin Wertebach博士、NRW州自然・環境保護省:

Susanne Brosch氏、ニーダーザクセン州水圏・自然保護局:

Mara Pakalne博士、Latvia大学:

Jan Hoffmann、ラインランド-プファルツ州 自然・環境協会:

 ● EUの代表国としてのドイツでは、積極的に自然保護、環境保護におけるEUプロジェクトに参画し、情報を送り出し、成果を生み出してきています。国内の学会、専門家会議、研究交流会を行い、その方向性を出してきています。 

 

5)生気溢れる水辺空間ーー実現のための考察

  問い合わせ先:Dr. Georg Gellert     parada-gellert@t-online.de

 水利基本指針(Wasserrahmenrichtlinie; WRRL)の内容、目標の明確化を図るため関係部局の相互調整が必要であり、そのため2019年9月4~5日にStolbergで専門家会議が行われ、その時の模様です。この会議は5回目でNRW州自然・環境および資源保護研究所と自然・環境保護アカデミーの共催で行われ18人の河川に関するそれぞれの専門家が報告しています(この報告の中では概要のみ)。河川関連の各種のデータを駆使して河川の近自然化にどのように反映させるか、PCを使って「Beach 3-WEB」、「ELWAS-WEB」の利用について発表しています。自然復元のために河川工学、水理科学など河川計画に関連する段階、それに基づく河川用地確保に関する段階、さらに復元施工、管理の技術などについて報告しています。また、生物的な視点からの河川の在り方についても報告されています。

 ● 地球温暖化対策(洪水対策)と生物多様性と河川の在り方を色々な分野から調査研究し進めている様子が理解できます。専門分野の垣根を超えた研究報告会や研修会が続けられていることがよくわかります。 

 

6)アカシカーーーーアイフェル自然公園での生息数

  問い合わせ先: Martin Mueller       martin.mueller@lanuv.nrw.de

 ドイツ、アイフェル自然公園内における野生アカシカの生息に関する調査報告です。

2004年から2017年までのアイフェル自然公園におけるアカシカの生息数調査が示され、2011年までは200頭台でそれ以後は300頭台、2015-2017年は400頭台に増加し推移しています。2015-2017年の増加状況は、雄1に対し雌1.22~1.41へと増加、全体では雄577に対し雌766で1:1.33となっています。これにより、アカシカの増加が見られ2019~2021年の年間狩猟頭数は400~450が示されています。