水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

海外雑誌での研究 8-1

 「NRW州の自然;Natur in NRW」2020.2号が来ました。また、例によって内容の概要を2回に亘って報告します。興味のある内容には原著者に連絡をしてみてください。

 

No.2号の報告は5編あり内容は以下の通りです。No.3以下は8-2の報告にします。

1.森林保護と気候変動(Waldnaturschutz und Klimawandel)

2.種生態系保護地区アルンスベルガの森におけるトンボ

  (Quelljungfern im FFH-Gebiet Arnsberger Wald)

3.墓地における種の多様性(Friedhoefe tragen zur urbanen Biodiversitaet bei)

4.ガン(雁)維持と管理の10年(Zehn Jahre Gaensemanagement)

5.低地ライン川の側流路(Nebenrinnen am Niederrhein)

 

報告1は、NRW州における欧州森林遺産(europaeischen Wald-Naturerbe NRW)における生物多様性保全の現状と気候変動についての報告です。

 問い合わせ先:Georg Verbuecheln他2名  georg.verbuecheln@lanuv.nrw.de  

勤務先:Landesamt fuer Natur.und Verbraucherschutz NRW(LANUV)

 NRW州の植物でおおわれた面の27%は森林で、そのうち58%は広葉樹林、42%は針葉樹林で、主要木の自然林構成広葉樹ブナ、ミズナラ(Buche, Stieleiche)は36%です(2019)。この自然に近い広葉樹林は自然空間単位と立地の多様性に合致して位置し、潜在自然植生(heutigen potenziellen natuerlichen Vegetation;PNV)に合っています。昔、NRW地方は広葉樹の茂る池沼と湿地でしたが長年の人間の営みにより維持された文化的景観(Kulturlandschaft)に変わっています。したがって残ってきている自然の広葉樹林(ブナ・ミズナラ林)は生物多様性(Biodiversitaet)の重要性が高いのです。

 この地域はほとんどがヨーロッパ自然遺産;Europaeischen  Naturerbes(保護目的はEU-FFH指針1992に同じ)です。その中心地区はヨーロッパ保護地域網Natura 2000(europaeisches Schutzgebietsnetz Natura 2000)で保護されています。気候保護、気候適合と同じく生物多様性保護は連邦はじめ州の環境保護政策でも主要戦略です。

 この森では2018-2019年の極乾燥年に1870万㎥のトウヒ林が暴風、旱魃、カミキリムシの被害を受けNRW州では40,000haの森林が崩壊しています。これに関して連邦、州は保護、生産利用、レクリ利用される森林をどのように関係者、森林所有者にコンセプトや協定を示していくか問題です。

 欧州議会ではすでに生物多様性保全のため、FFH-鳥類保護指針にその保護システムNatura2000としてあげ、法律に定めています。したがって当該の保護地域では価値ある現状を保護し、修復していかなければなりませんし、潜在自然植生図は自然林保護関係者にとって有用で気候変動や気候適合については注意を払うべきとしています。

 自然林地区では立地に合った自然植生種の更新、育成を進め、一方で立地に適さない種、林木は避ける持ち込まないことを示しています。いずれにしても時間と労力のかかる自然林保全対策です。 

 2018-2019年旱魃年におけるNRW州の森林(カミキリミムシ被害林含む)と欧州森林遺産地区及びFFH地区の関係図(概念図)で保護地区内での被害が少ないことを示しています。また、森林タイプでは湿性林(例えば古い土壌のミズナラ林、湿地林、ハンノキートネリコ林、河畔林など)で旱魃年(2018-19)に被害が大きかったことを示しています(特に大陸性気候地域;atlantische biologeografische Region)。

 

 コメント: ドイツでは既に用語に示されている通り西暦2000年(21世紀)を前にして、いろいろな環境対策、政策が示され、それが欧州議会EU)でも主要な環境施策になり今日まで20年以上も継続して進められてきています(太字用語)。国土の多くが代償植生、文化景観であるドイツでは国土の10%ほどの自然地域(国立公園、自然公園、自然保護地など)の中の森林をどのように気候変動、気候適合、温暖化と向き合うか模索しています。自然保護の中心に気候変動、~適合があり、それと並行して自然空間単位と土壌乾燥~生物多様性、種の保護を関連付けています。今年になって連邦肥料法(Duengerecht)が制定され、地下水と肥料分(N,P,Kなど)の関係から農業の在り方(秋から冬の施肥)を変える方向にもなって来ています。

 Natura 2000は今から20年以上も前になります。それ以来、継続して環境保護、自然再生などのプロジェクトが各段階、分野で進められてきていることは、施策と計画・継続の重要性を改めて考えさせてくれます。  

 

報告2は、ドイツにおける異常乾燥年(2018)における種の生態系保護地区アルンスベルガー(FFH地区=フロラ・ファウナ・ハビタット;動植物とその生息地)でのQuelljungfern; Cordulegaster bidentata(日本のオニヤンマに似ているの現状と課題についてです。

問い合わせ先:Fabian Gaertner他1名     fabigart@gmail.com

 Quelljungfernは日本に生息しておらず該当する和名はありません。一昨年2018-19年の旱魃・異常乾燥年にFFH-保護地アルンスベルガー(8000ha)における生息地変化の状況の調査報告です。

 中部ヨーロッパ及びドイツで生息しているこのトンボ(C.bidentata)は2015年に指標種になり、NRW州では絶滅危惧種;stark gefaehrdetになっていますし、姉妹種のC.boltonii は危惧種です。

この調査地アルンスベルガーの森はNRW州の山間地、ルール川上流域にあるノイハウス地域にあります。この地域の支流など13の小河川域で生体とヤゴの生息状況、生息地の調査を行い、生息域の変化を見ています。気候温暖化、気候変動による2018-19年の旱魃(少雨・猛暑)でトウヒ林は風で倒木、林内や谷筋の小川、細流その周辺が乾燥化してきています。

調査は2019年5-6月に11回行われ、細流・小川にある滞水地223か所(100m圏)での2種のヤゴが調べられています。2019年の生息状況でこのトンボは223調査区の48%/106ケ所、C.boltoniiは 18%/41ケ所、C.bidentataは8%/17ケ所でした。22%/48ケ所ではヤゴ(種同定不可)の生息が確認されています。

 このルール川支流のハーフェ川流域において13の細支流で調査が行われ2種のトンボの生息状況を明らかにし2004年のデータと比較、両種とも2019年には細流・上流部域で拡大していることを明らかにしています。さらに滞水地の周辺環境との関係も調べられ、樹相、樹齢、日陰度、土壌、攪乱度などと合わせ検証しています。

 いずれにしてもトウヒ施業林の旱魃による被害とカミキリムシの増大での被害があり、それに伴って河川支流上流域へのトンボの生息地変化が起きていることを報告しています。対応策として上流域森林での立地に合った樹種変更(広葉樹へ)、小細流の再自然化さらに樹林のモニタリングが必要であるとしています。  

 

コメント: 

● 似ているオニヤンマはAnotogaster sieboldii 1864で学名にシーボルトがついているところからこの種に似ているのかもしれません。

 異常乾燥年であった2018-2019年のドイツでは、いろいろな生き物の生息状況調査が進められ、具体的な対応策が指摘されています。単にトンボ類の生息データだけでなく森林被害とその原因、それに関連した樹林内の水辺の状況、水辺生息動物としてのトンボの関係を捉えています。ルール工業地域近郊の樹林地(ルール工業地域の南西に位置する中山間地)で、近郊レクリエーション地でもある山地での調査報告です。

 日本の里山周辺における農との関係が深い用排水路、小河川におけるヤンマ類のトンボ生息状況とは少し異なりますが、同じ種類のトンボの生息が中山間地の樹林内に拡大している状況が是か非か、議論の的になります。風害(倒木)により樹林が明るくなり林床が荒れ雨水の貯留が少なくなり細流、小河川の破壊、消失が進むことも遠因であるとも考えられます。