水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

映画鑑賞 その2

 世界的な大戦(第二次世界大戦)が無くなってから75年になります。この間、世界を巻き込んだ戦争は起こっていませんが、この地球上で部分的な地域紛争や国内騒動は毎年どこかで起こっています。それが宗教的な背景やら体制への批判に絡んだもの、自分たちの歴史と文化を守りたい意思の対立、といった諸要因が絡んでいます。中東、東欧、印パなど世界のどこかに見られます。

 原子爆弾の開発は、1930年頃から米英ソ仏などで始まり第二次世界大戦で大きな転機を迎えました。今回のイギリス映画「ジェーンの秘密」は、イギリスを舞台とした原子爆弾の開発をもくろんだイギリス政府と名も無い婦人(実はソ連のスパイ)が辿った人生と、知り得た原子爆弾への情報の扱い方、その人の考え方や生き方に関する話でした。

 

 実話に基づく映画は、時代的な事実の検証、作品としての物語性、作者や映画監督のシナリオづくり等いろいろ見どころがあって面白く興味が尽きません。知らなかった歴史上の事件や事件の関係者、団体、国の体制、事後の経過等も、今だから考えられることもあり勉強になります。

 

 先の世界大戦の戦前・戦中・戦後を舞台とした事実をもとにして書かれ、描かれた映画2本を見ました。全く知らなかった事実であり、その時代背景を考えると主人公の生き方、生涯がいかに危険と波乱に満ちたものであったかを知ることとなりました。

一つは「ジョーンの秘密;Red Joan」、もう一つは「赤い闇,スターリンの冷たい大地で」です。

「ジョーンの秘密」は、先の世界大戦前のイギリスを舞台にした原子爆弾開発とそれにかかわった女性職員(科学的素養を持った)の生涯を回顧調に演出し描いた映画でした。女性職員ジェーンは若くしてロンドンで共産党員としても活動、民間会社(原爆の技術開発を試みる)の職員として働き、そこで働く研究者との交流で知り得た科学的情報を仲間や同僚、上司から知り、同時に世界大戦の動向の中で原子爆弾の開発競争を知るところとなります。イギリスはじめアメリカ、カナダ、ソ連、フランスがしのぎを削り先を争って開発を進める原子爆弾ナチスドイツが原子爆弾を持ち、使用するのではないかとの憶測の中で、アメリカが最初に爆弾の製造に成功し実験を重ねます。彼女は、その常識を超える超強力な威力に驚き、さらに原子爆弾が日本の広島、長崎へ投下され、前代未聞の悲惨極まりない地獄の如き被災状況、地獄絵をニュース映画で知るところとなります。

ドイツナチスにおけるヒットラーの暴走を肌で知り、同時にアメリカが原子爆弾という地獄の化け物的爆弾を持ったことに、彼女が「世界の力のバランス」を考えたかどうかは分かりませんが、アメリカが寡占し強大化することに疑念を持った(?)彼女は、爆弾の情報をソ連に渡してしまいます。その情報流出の嫌疑が、彼女と交際していたイギリス外務事務次官のミッチェル卿の死により関係資料が見つかり「ソ連のスパイ」として逮捕される、というストーリーでした。

  80歳を超え逮捕されるまで市井で静かに暮らしていた夫人が、突如東側のスパイであったとして逮捕されM15(イギリス軍情報部第5課;保安局;国内治安維持情報機関)に尋問を受ける場面と、戦前の生活を回顧しながら物語は進みます。

 2000年5月、逮捕された彼女は高齢のため、息子が弁護人となり刑を受けることなく90歳で亡くなりましたが、最後まで共産党員であったとされています。

 原子爆弾の開発には、当時日本も力を入れていましたし、その基本となる中間子理論の研究は京都大学湯川秀樹博士もこの分野で世界に先駆け行っています。 

 

 大変見ごたえのある映画、事実をもとにした考えさせられる、また知られざる戦時中の物語でした。時代がそうさせた、世界が大戦を終止させるために未知の科学が、新しい技術が生み出され、競って実現を目指していた時代です。

 世界最初で最後?の被爆国日本。1940年頃の世界の国力のバランスと現在のそれとはまったく異なって来ていますが、最新の科学や技術の広がりにより、より世界は狭くなり、地球は極めて微妙なバランスの上にあることがわかります。

 ジョーンは、今の世界をどう捉え、何を言うでしょうか。

 

二つ目は、「赤い闇, スターリンの冷たい大地で」。この映画もイギリス映画で実際にあった話です。第二次世界大戦後のソ連の動きに興味を持ったイギリス人記者(ジャーナリスト)が、スターリン統治下のソ連の実際の姿を見たいと思い、穀倉地帯といわれる地域に出かけ躍進する国(大国の繁栄)の本質はどこにあるかを探った実話です。

   このジャーナリスト、ガレス・ジョーンズは1933年、ヒトラーに取材した経験を持っており、世界恐慌の吹き荒れる時代、ソビエトの社会状況に興味を持ち、直接見てみたいと思い立ちます。スターリンの統治するソビエトの繁栄が穀倉地帯ウクライナにあると確信し、関係する人の手助けでソ連に侵入し、身の危険を顧みず密かに以前から知りたい見たいと思っていたウクライナ地方の農業地帯に忍び込みます。そこで彼が見て体験した情景は以前に想像したものと全く異なり、見たことも無い悲劇的惨状、人々の生活状況でした。すべての収穫物を搾取され食べ物の無い日常の民、行き倒れた屍、生きるために人肉にまで手を伸ばし生きる子供、悲劇的なウクライナの現実とモスクワの上流階級の華美な生活、その両極端を見、考え込み真実を伝えようとする彼の姿。

 

 歴史を紐解けば、この時代(世界恐慌や大戦)国を繁栄させ、国力を強固にし世界に存在を示す上で、右と左の違いにより為政者の取った途は大きく異なって現在に至っています。毎日を生きていくことで必死の民は、何を信じ何を目標に生きていけばよいのか考えさせられる映画でした。真実を知って知らせても変わらなかった現実社会を原作者(ジョージ・オーウエル;動物農場の原作者)はどう考えたのでしょうか。

 

 全世界的な規模で100年に1回の感染症(コロナ・ウイルス)の地球全体での流行・席巻はスペイン風邪同様1-2年の長期にわたる流行期間で普通の感冒ウイルスになるのでしょうか。1918-1919年のスペイン風邪から100年、2019-2021のコロナウイルス大流行では国の違いこそあれ、どの国でも大勢の民が罹患しその犠牲になり死亡した人も少なくありません。

 主義・主張考え方の違い、国の安定、日常生活の安定、生きるための焦点をどこに定め過ごしていけばよいのでしょうか。

 

追) 「映画鑑賞 その1とその2」の記事は昨年9月にブログに掲載(日々の一端として)しようとして書きましたが、時節柄、老人の暇つぶしの映画鑑賞が、コロナの影響で庶民が戦い日常生活を見直し苦労している時、不謹慎とのそしりを免れ得ず、非難される可能性が高い、との意見から公開を躊躇せざるをえませんでした。それは年が改まった現在(2021.1)でも変わりはないと思います。しかし、物の考え方、感じ方の違いは誰にでも、どこにでもあります。その違いを大切にしながら私個人の思いの記録を残すことに拘りました。2021.01.13