水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

海外雑誌での研究 10-2

 10-2では引き続き下記の3篇の報告についてその内容の概略を示します。

3)Naturkapital artenreiches Gruenland 

 種の多様な牧草地の自然資源性

著者:Apl. Prof. Dr. Mechthild Neitzke 問い合わせ:mechthild.neitzke@gmx.de:

  報告者のナイチェケ博士は、この報告で野生草の持つ自然資源力(薬用植物学、それに関連する野生昆虫類を中心とした動物相の潜在的資質、生物活性化物質、その生育環境から生態系まで)について多くの研究・調査報告文献を参考に、牧草地野生草の重要性について述べています。

   牧草地(Gruenland)草本類の色彩多様性は言うに及ばず、そこから多くの物質(食料ー飼料、生薬など)が生み出されてきており、その根源には古くからの薬草(本草学)の使用があると述べています。また、生物多様性と動物相の健全性(健康性=Gesundheit) の関係を牧草地構成植物から詳述し、牧草地における薬用植物の多様性について薬用種とその効能比率から示しています。

 さらに牧草地の薬用植物に集まる昆虫(採蜜ー受粉など)の遺伝子多様性にも触れ、美しく安定し整った環境=景観(Landschaft)が強く求められるとしています。 

 

4)Vitalitaet der Buchen in Naturwaldzellen

 ブナ自然林の活性度 ー2018年;乾燥年の状況ー

著者:Johannes Schlagner-Neidnicht他3名

問い合わせ: johannes.neidnicht@wald-und-holz.nrw.de

  ドイツのブナ林は土壌の薄い雨の少ない地方での自然植生で、本来イタリアからスウエーデンまでの広いヨーロッパ圏に分布する樹林帯です。NRW州では、樹林の19%を占める落葉広葉樹林で、年間降雨量500-1400mm、3~13℃(年)に分布します。降雨量が極度に少なかった2003年の乾燥年には、将来欧州からブナ林が消失するとされました。今回の乾燥年2018-2019年でも同様の危機が想定されています。そのため、凡そ20年後の今回、NRW州内のブナ自然林を再調査し検証されています。

 調査は2019年7.31-8.19、2020年は7.15-8.25、9地区のブナ林、492本(2019)478本(2020;14本調査不可)で行われました。同時にその場所の降雨量、気温、土壌、土壌水分が調べられています。ブナ林内ブナの葉損失度を調べ、35-75%(2019)、25-70%(2020)、全体では40-45%になっていた、とあります。

地球温暖化による降雨量の変化が林床の土壌、土壌温度、土壌水分にも大きく影響し、乾燥化がおこり、葉損失度は日照との関連で葉、小枝、枝、幹、樹幹、根茎などの水分貯留、林床温度はては林床植生とも関係するとしています。今回の調査報告では2003年との比較はできないものの、今後の動向を比較検討するうえで重要なデータとなり、今後さらなる継続調査が必要であるとしています。 

 

5)Blankaale  und Lachssmolts--Abwanderung aus der Wupper

ブッパー川におけるウナギ(Blankaale)とサケ(Lachssmolts)の動向

著者:Britta Woellecke  問い合わせ:britta.woellecke@brd.nrw.de

 河川や水辺の自然再生が声高に叫ばれれて久しいのですが、ドイツでは大河川は言うに及ばず中小河川でも積極的に自然の復元・再生事業が進められてきています。この報告はNRW州の代表的河川であるブッパー川(Fluss Wupper)に設置された中小規模ダム・堰と河川に生息しているウナギ・サケ類の生息状況について述べています。河川生物(魚類)にとってダム・堰は障害施設であり移動を困難にする施設といわれます。魚道が設けられてきていますが、そこでの魚類はじめ動物相はどうなっているか、魚道は機能しているかの検証となる報告です。

 この調査にはHDX機器・技術を用いてのウナギ・サケ類の生息状況調査結果です。2013秋から2018年7月までの間、デュッセルドルフ地域行政庁(Bezirksregierung;デュッセルドルフ市の東部)がHDX機器をブッパー川に設置して行っています。ブッパー川は魚類生息、特にウナギ、サケ類でNRW州の代表的河川です。HDX(Half-duplex comminication circuit)はRFID技術と同類。調査期間中にブッパー川の5つの堰・ダム*間で3.500匹のサケ、564匹のウナギを計測しています。

 魚道の詳細部分との関係は明らかになっていませんが最下流部(合流地から21,4km)の堰・ダムにおけるウナギ(2013-2016)・サケ類(2014-2018)の生息数の増加状況から魚道、迂回流路(バイパス)の効果があることを示していますが、同時に堰・ダムの運転事業、維持管理の在り方を考える必要もあるとしています。

 

*ライン川合流地点から21.4km、25.3km、32km、40,4km、64,9kmにある堰、ダム