水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

海外雑誌での研究 11-1

 

ドイツ、ノルトランウエストワーレン州の機関紙「Natur in NRW」2021年,1号が送られてきました。

第1号の内容は、以下の通りです(原文転記)

1) Feuchtwiesenschutzgebiet: Zustand in NRW

2) Vielfalt durch extensive Gruenlandnutzung

3)    Das Roehricht kehrt zurueck

4)    Zehn Jahre  Fischmonitoring an der Niers

5)    Gebietsheimische Wildpflanzen fuer Balkon und Garten

 

毎号進めてきていますドイツのNRW州における自然保護や保全に関する事例報告の概要を一部紹介したいと思います。11-1では 1)と2)について、11-2では 3)~ 5)について報告します。

 

11-1の 1)の内容は、まず最初にノルトランウエストファーレン州 (NRW)における湿性牧野(Feuchtwiesen:低地の地下水位の高い湿地)の現状についての報告です。2)では、粗放的に利用されてきた湿性牧草地(Feuchtgruenland) における30年間の種多様性に関するモニタリング調査の報告です。 では、その内容について概要を述べます。 

 1) Feuchtwiesenschutzgebiet : Zustand in NRW

  湿性牧野保全地域ーNRW州における現状 

Eine Effizienzkontrolle aus den Jahren 2016 bis 2018(2016-2018間の効果的なコントロール)

 著者: Brigit Beckers 他3名  AG Wissenvogelschutz NRW   

    問い合わせ: b.beckers@abu-naturschutz.de 

 

 NRW州では湿性牧野保護プログラム(1985作成)が牧野生息の鳥類保護、保全を目的として策定され、保護・保全の目標、指針が決められた。それでも牧野生息の鳥類は減少しているため、州の生物管理センター(Biologische Station)は、100地区におよぶ保護地域において3年間(2016-2018)の維持管理で知見(効果的なコントロールを実施し)を得ることとした。

 1950年代には州全体で73万haの牧野があったが、1988年までにその40%が喪失した。その原因は牧野の乾燥地化、利用の集約化などが挙げられ、野鳥の希少種が激減し、1977年にはウエストファーレン鳥類保護協会が牧野生息鳥類保護プログラムを策定している。

1985年には州政府が湿性牧野保護プログラムを策定し、1998年までに175地区、33.500haの保護地区を生み出している。

 保護地区では水収支安定化、粗放的な利用、地区指定(中心保護地区=公有地化、周辺保全地区=粗放的利用)などが行われてきている。効果的な項目として、1)開放的景観維持(多少のブッシュはOK)2)生態的機能のある牧野、3)野鳥の生息に配慮した利用、4)野鳥の生息に配慮した水収支、5)広さに対応した地区管理、6)モニタリングと効率的なコントロール、7)必要な場合の捕食動物管理 8)必要な場合の利用制限 が挙げられている。

 この報告では、NRW州の低地地方(10郡)100カ所の牧野鳥類営巣保護地域での現状を示している。総面積26,957ha の内14,587haは ウエストファーレン地域、 12,370ha はライン川低湿地(海抜200以下の低地)に分布、規模では18地区が 50ha以下、42地区が 51~200ha、28地区は 200~500ha, 12地区では 500ha以上, 面積の平均では270haとなっている。25,952ha(96,3%)は自然保護地区の指定を受け保護されており、うち9,540haは永久保護地区(44.9%)になっていて、維持管理では5,067haが公有地、1,851haが私有地となっている。

100地区の保護地域に対し、以下のような点について調査し、その対応を示している。

 変更・変換のコントロールについて

 ①用地の取得、②自然保護の指定(協定)、③水収支の再生・復元に関する取り決め(協定)、④水位維持・保全の予測評価、⑤施肥の制限、⑥典型的・特徴的な構造の形態(*畑から牧野への変更、柵敷設、小川、土手、ブッシュ等の管理、放棄地、築堤、縁辺、表土剥被など)、指定地域での利用と保全の指針**、⑦地域内での利用・保全指針(公有地の賃貸条件、自然保護に配慮した利用、ブッシュ保全、放棄地・畑の淵・林縁・細流などの保全 ⑧利用者制限や捕食動物の管理、モニタリング

現状のコントロールについて

 ①自然保護に対応した水管理の状況、②自然保護に対応した肥料分の状況、③公有地・非公有地牧野の野鳥に対応した状況、④特徴ある小生態系*の地域内整備、⑤公有地・非公有地を問わず生産施業状況、⑥捕食など障害の除去、⑦5km圏内での地区連携、⑧15km圏内での地区連携

効果のコントロールについて

牧草地で注目され生息・繁殖する鳥類の保護(ソリハシシギ等のシギ類、ヒバリ類、カサカギ類など8種)の生息状況 

特に必要な事項として、水管理(Wasserhaushalt)は、湿地生息ー繁殖鳥にとって極めて重要であり、健全な状態での保護地区として指定する。公有地や指定地での農地利用は、取り決めに沿った利用を進める。

 牧草地利用の点では、保護すべき野鳥の生息を理解し、営巣・繁殖に対応した利用を進めること、、特に30年以上集約的に利用されてきている私有地牧野では牧野の湿地条件を保ち牧草地を維持すること、とりわけ保護の対象となる野鳥が生息する私有地の牧野地区では自然保護地区と同等の保護対策、措置を必要とする。

 捕食動物等に対しては、近年特に野鳥の保護の点で被害があり対策をしなければならない。捕食獣についての対策~時には電気柵など、も考えねばならない。

    

2) Vielfalt durch extensive Gruenlandnutzung

  粗放的な牧草地利用による生物多様性

30 Jahre Dauermonitoring auf unterschiedlich bewirtschafteten Feuchtgruenlandflaechen

 (多様な利用形態による湿性牧野における30年間の継続的モニタリングから)

   著者: Peter Schwartze 他3名   Biologische Station Kreis Steinfurt Tecklenburg 

   問い合わせ:peter.schwartze@biologische-station-steinfurt.de

 

この30年以上にわたる調査報告(1986年スタート:ミュンスター大学景観生態研究室)は、NRW州における4地区の自然保護指定された湿性牧野において行われた調査結果である。

永続調査地は9カ所、1000㎡で、ミュンスター地域の湿性牧野(3つの採草方式)に設置された。3方式とは、①9月刈り取り、②6月刈り取り、③6月9月刈り取りである。永続調査地の中の永続調査区は2m方形区で④放置区を含めそれぞれ9区、計42区設定された。対象区は3区で、この区ではN-P-K肥料施肥区である。対象地では植生調査、土壌水分調査、土壌動物調査がミュンスター大学植生研究室の諸研究(大学院の研究)調査で行われた。

 調査の結果、種数では2回(6月・9月)刈取り区が良く放置区は悪い。レッドリスト種の出現では6・9月刈り取り区と放置区が良く、施肥区や放牧牧野で極めて悪くなっていた。

結果、刈り取り回数については年2回方式が種の多様性の点から良い。1回だけの刈り取り回数の場合、できるだけ遅く刈り取ることが望ましい。貧栄養牧草地では施肥は行わない。放棄牧草地では維持管理法の変更により種の多様性は回復する。湿性牧野の回復には最低20年必要である。

 この調査結果から、湿性牧草地の復元は、動植物種の復元・再生の他に、土壌肥沃度の回復と気象的改善に伴うCO2削減にも効果がある。野生鳥獣の保護、生物多様性保護の観点からも湿性牧野は極めて重要である。

 

【訳者のコメント】

2編の報告は長期的で具体的な調査に基づく報告です。湿性放牧牧野、湿性刈り取り牧野の多いNRW州低湿地域(Muenster地方、ライン川低地帯)では、より詳細に、生物多様性保全、レッドリスト動植物種保護の点から、牧野の在り方の重要性を指摘しています。30年もの長い時間をかけてしっかりとデータを積み上げてきていることは、行政的な対応をより具体的、説得力を持たせるために重要です。農地(牧野を含め)における種の多様性、生物多様性への取り組みの重要性は、既に私もドイツの事例を紹介しながら以前に指摘してきました。州レベルで、さらに詳細なデータの積み上げが行われてきていることは傾聴に値します。絶滅危惧種に限らず、種多様性や地球環境保護(CO2)、地球温暖化などの新しい施策にも対応させ進めてきています。 

 

 

【トピックス】毎号の最初の部分にあるトピックス記事について興味ある部分を書きます。詳しくは関連機関のHPにアクセスし参照してください(勝野)。 

1) EU委員会(ドイツ)では、FFHF地区の98%が法的に確保され、84%が保全指針が策定されている。しかし、FFH指針(FFH-Richtlinie)を全州で準拠するのは無理としている。FFH地区については、2015年に協定が作られ、全国で4.600地区が指定されている。

NRW州では、517地区で保全指針が作られており、維持管理計画に基づき実施されている。   EU委員会ドイツ、連邦環境省(BMU)、NRW州環境保護・自然保護省

2) ドイツ連邦政府は2月10日、昆虫類保護法に関連しそれを充実させるため自然保護法の改正に意欲を持ち、昆虫相の生息をより豊かにするため農薬使用の取り決めを含め法律の改定に取り組むとしています。特に種数の多い牧草地、下草のある果樹園、石積、乾燥した石垣などの保護保全に力を入れるとあります。農薬についてはglyphoを含む薬剤を2023年までに使用を禁ずる、としています。

  ドイツ自然保護連盟(NABU)、  連邦環境省(BMU)、WWF、NRW州環境・自然保護省、NRW自然保護連盟

3) 工業地帯森林プロジェクトは「工業地域敷地の自然」として25年前にスタートし、第1期(1995-2009)に続き2016年から第2期に入っている。ウエストファーレン・ルール地域生物センター(BSWR)、ルール地域森林局(森林・木材産業センター)、ボッフム・ルール大学、民間事務所:ヘルマンシュルテの共同で進められ、NRW州環境省も支援している。

プロジェクト対象地は3か所あり、エッセン・カテルンベルクの採炭跡地、ゲルゼンキルヒェンのボタ山、アルマ地区で工業地区の放棄地における初期の植生遷移(100年まで位)を見ている。植生遷移と同時に動物相、土壌動物相などとの共生関係も調査している。

  ウエストファーレン・ルール地域性区部センター ; BSWR   : Dr.Peter Keil

4)連邦政府は、生物多様性に関する国立モニタリングセンターをこの1月にライプチィッヒ市に開設した。このセンターは連邦自然保護研究所(BfN;Bundesforschungsamt Naturschutz, Bonn)に併設され、生物多様性等に関する、連邦及び各州すべてのデータの集積を目指している。また、いろいろなプロジェクトにも関連し各州当局はじめ民間の団体とも連携を図ることになっている。さらにはEU、世界各国との関係をも深めることとしている。

   連邦環境省(BMU)

5)東ウエストファーレン・リッペ地域(OWL)における自然保護の新しい動き。昆虫相・自然・水資源保護とOWL農業プロジェクト((BOWLING)が「2022の地域」で今年1月スタートした。この中では、地域の文化的景観(Kulturlandschaft)を都市住民のレクリエション利用と合わせ関係市と州が相互連携を図りながら生態的なプログラムや指針として生み出し、以後3年間支援するものである。これは農地所有者と農地利用者が昆虫相、自然、文化的景観の保護のために共同で行う。内容としては、無くなりつつある伝統的な農村景観を保全や再生を図ることで、花の咲く野生草の縁、実をつける野生の果樹垣根、小さな流れ、下草が茂る果樹園、自然石の積み上げ、強剪定で坊主頭型のヤナギなど、の保全や再生を図るプロジェクトである。これに賛同する農家には財団より補助される。

  ウエストファーレン地域文化景観保護財団