ドイツ、ノルトランウエストファーレン州の機関紙「Natur in NRW」2021年第2号が送られてきました。
今年コロナ大流行の中での第2号の内容は、以下の通りです(原文転記)
1) Neue Instrumente fuer die Waldbewirtschaftung im Klimawandel
2) Pflanzenvielfalt an der A40 im westlichen Ruhrgebiet
3) Bedeutung temporaerer Gruenland-Schonstreifen fuer Tagfalter
4) Wanderungen heimischer Flussfische in der Wupper
5) Haselhuhnsuche mit einem Spuerhund
毎号進めてきていますドイツのNRW州における自然保護や緑地保全に関する事例報告他の概要を紹介したいと思います。12-1では 1)と2)について、12-2では3)~ 5)について報告します。
1) Neue Instrumente fuer die Waldbewirtschaftung im Klimawandel
「気候変動時代の森林経営のための対応術」
Heiner Haile ら他3名 (NRW州森林ー木材局)
問い合わせ先;Heiner Heile ; heiner.heile@wald-und-holz.nrw.de
Dr.Carolin Stiehl ; carolin.stiehl@wald-und-holz.nrw.de
今日、森林の重要性は炭酸ガス吸収・減少の件と相まって世界的に注目されてきています。日本のように内容はともかく国土の60%を超えるほど森林が占める国では、森林そのあり方が今後より重要になると思われます。国土総合計画の中、あるいは林野庁の森林計画に当然あるのでしょうが、私有林の多い我が国では、その現実的な取り扱い、方向性はどうなっているのかあまり判然としません。行政的には国・都府県・市町村それぞれの枠組みで対処されていると思います。熱海市伊豆山の災害を見るにつけ、身近な森林の在り方を点検することが求められますし、行政側では適切な計画に基づいて森林保全・利用計画が進められねばなりません(勝野)。
1)の報告は気候変動の時代におけるNRW州での森林経営のための考え方について事例報告をしています。森林造成コンセプト(Waldbaukonzept:2019)と森林再生コンセプト(Wiederbewaldungskonzept:2020)を進めるうえで重要となる具体的な施策の方向付け、手法が必要で、その事例を報告しています。
NRW州では2018年以来の森林災害(暴風雨被害、極乾燥化被害;2018、カミキリムシ被害)がより大きく、また、1984年以後の施業樹木の活力度が樹種の多様性と合わせ極度に低下している。2020年末には災害樹林がおよそ68,000haにも及んでいる。そこで森林の再活性化のため両コンセプト(MULNV2019 と MULNV2020)が作られた。
その基本には気候変動に対応し、活力あり健全であるため混交林の考え方、将来にわたって多様な森林機能を果たし経済的・経営的にも意義あることを示している。コンセプトでは生態的に豊かにし、立地や樹林構造に合っ地域適合種による混交林を提唱し、少なくとも4種(広葉・針葉)の樹種が勧められている。
森林造成コンセプト(Waldbaukonzept:2019)では森林造成の基本と同時に自然保護、野生保全、林材活用などの関連視点も含まれている。
ここでは森林促進タイプを4種(ミズナラ混交林;Eichenmischwaelder: 3タイプ、ブナ混交林;Buchenmischwaelder: 6タイプ、他の広葉樹混交林;Weiter Laubmischwaelder: 5タイプ、針葉樹混交林;Nadelmischwaelder: 9タイプ )決め、樹種の混交型を示している(当然ながらFFH指針に基づいて)。広葉樹林タイプは14種類、針葉樹林タイプは9種類となっており、針葉樹林タイプでも広葉樹混交が原則となっている。
さらに森林促進タイプの23区分を基に土壌肥沃度(3区分)と土壌水分条件(6区分)で分けられ18の立地区分植栽型にされている。
森林再生コンセプト(Wiederbewaldungskonzeput:2020) は州レベルの森林造成コンセプトと調整を図り、同時に連邦レベルでも自然保護や農林業、環境関連省庁での専門的・科学的検討を重ね(2019-2020)、連邦農林省の森林政策(Waldpolitik)となっている。
この検討結果を基にトウヒ施業林災害事例地で森林再生植生モデル(1ha)、事例適合地を1/50.000、1/18.000地形図、1/5.000土壌図と合わせ検討をし、地球温暖化とも関連して(1981-2010)将来の姿(2071-2100)を見ている。
2) Pflanzenvielfalt an der A40 im westlichen Ruhrgebiet
「NRW州西部ルール地方の高速道路A40号線における植生の多様性」
Corinne Buch 他1名
問い合わせ先;corinne.buch@bswr.de
ドイツ、NRW州の高速道路(A40号線)の中央分離帯(中分)の植生状況についての報告です。都市内の高速道路は中央分離帯が人工構造物で作られている場合も少なくありません。この報告の高速道路A40はルール工業地帯を東西に走る大動脈で、ルール地方西端ミュールハイム~デュイスブルク間における植生調査についてです。具体的な植生調査は、高速道路におけるトラック事故(2020.09.17発生)の際に行われ(交通遮断時に)、10年前の同地区での調査プロジェクト結果との対比です。
ドルトムント~デュイスブルク間で確認されてた種は153種(2010)でしたが、169種(2020)と増加しています。この中分で確認された種の中には、NRW州でのレッドリスト種が3種(Euphorbia cyparissias;トウダイグサ科 Galium verum;カワラマツバ類、 Malva alcea;アオイ科 )です。また、耐塩性の植物も見られます。これは冬季に路面氷結防止の為、塩が路面に撒かれるため溶出した塩分が影響するためですが、Artemisia absinthlum, ニガヨモギ、 Puccindlia distans; Spergularia merina;オオツメクサの仲間)が確認されています。
最近旺盛な成長で成育域を広げてきている種には(Eragrostis minor E. multicaulis;どう言う訳か日本草種カゼクサ・ニワホコリ・スズメガヤ類;ドイツ名;japanische Liebesgrass)が挙げられますし、オオアレチノギク(Erigeron sumatrensis)はルール地方全域に拡大し、A40の中分では100mに亘る場所もあります。
また、Miscanthus sinensis;ススキ、 Cortaderia selloana (panpasugrass)等は周りの庭から逸失したり野生が持ち込んだり、あるいは沿道植生の維持管理機械に付着して出現しているものと思われます。
路線を10区分し対象とした9区を2010年と2020年で比較し、類似度を見た結果、72%を示しどの区間でも同じような傾向が出ています。
高速道路沿道、中分などの植生調査結果は都市内の植生調査結果と類似し、乾燥、地表熱、融雪塩等の影響を受け、それに対応した種の生育、拡大、侵入が見られます。都市内のビオトープで市内放棄地、舗装・敷石敷設地などと合わせ特徴的な立地といえます。