水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

海外雑誌での研究 14-2

14-2では、引き続き 3~5の報告事例について紹介します。3)はノルトライン・ウエストファーレン州におけるザリガニ(Astacus astacus)のプロジェクト20年について、4)はノルトライン・ウエストファーレン州におけるサトヤマネ(Eliomys quercimus)の生息現況5)はドイツ野鳥保護会議(2021.09.11)(Vogelschutztagung)におけるドローンの活用(利点、利用可能性、法的な現況)についてです。

 

3)  20 Jarhe Edelkrebsprojekt NRW

  Erfolge, Herausforderungen und Zukunftsperspektiven

4)  Gartenschlaefer in NRW

  Verbreitung und Biologie des selten gewordenen Bilches

5) Vogelschutztagung NRW

  Drohnen, Multicopter,Quadrocopter--ein Ueberblick ueber das Angebot, Ein-

satzmoeglichkeiten und die Rechtslage

 

 

3) 20 Jarhe Edelkrebsprojekt NRW

  Erfolge, Herausforderungen und Zukunftsperspektiven

  ノルトライン・ウエストファーレン州における固有種ザリガニ(Astacus astacus)の20

  その生息調査結果と将来への展望

  著者;M.Sc. Marina Nowak 他7名  

  問い合わせ先;nolting@lfv-westfalen.de   nikola.theissen@lanuv.nrw.de 

 

  ドイツでは水生生物の多くが生息の危機に瀕してレッドリスト種になっており、中でも淡水蟹(Flusskrebse)は絶滅の危機にあります。その原因にはアメリカザリガニのヨーロッパ侵入と関連する細菌;カニペスト(Krebspest)に因るものです。この報告は希少になったザリガニのドイツ固有種(Edel- Steinkrebse)プロジェクト(NRW)についてです。

 

 在来固有種(Edelkrebs=Astacus astacus)保護はNRW州で良く知られており、1976年以来州の水産研究所が研究を進めてきています(1994年には関係調査報告が出ている)。1980年中ごろまでに在来種の危機的状況が指摘され、カニペストの耐性をもつアメリカザリガニ(Pacifastacus leniusculus)が代替種として見られていました(1978-1980)。

 1990年代半ばからNRW州では在来種保護プロジェクトが始まり、同種の調査、記録、図化が進められ、生息域、生息可能域、繁殖可能関連水辺が調べられています。同時に小さな蟹(Austropotamobius torrentium)に対しても進められています(2000-2006)。

アメリカザリガニの生息地拡大とあわせ、固有種の生息域は縮小、消失さらにはカニペストの蔓延により生息そのものが見られなくなりました。

 そこで2002年に州全域での種保護プロジェクトが作られ、関係者に現状を知らせ、釣り人から淡水生物関連業者までにカニペストをはじめ各種情報を開示しています。また、色々な団体(自然保護、淡水漁業、潜水スポーツ関連団体等)と公的機関の部局が共同して調査、探索を進め情報を集めています。2004年には州の固有種保護プロジェクトに対しケルン地域局が支援し2007年には第二次プロジェクトになりました。これまで各地での自然教室や展示会、情報報告会(講演やゼミナールなど)を通して市民に公開して来ています。

このプロジェクトの第5段階(2016)からでは地域の水辺(池沼など)に固有種を放遂し保護する施策となり、これまでに28ヵ所実現しています。また、固有種の保護のためにその生態を理解すること、生息環境を捉えるために「調査籠」を創作し水辺に設置、固有種の動態を調査して来ています。2021年にこのプロジェクトは第6段階(第6次;2023年まで)に入り、固有種の遺伝子調査を進展させ関連河川(Rhein, Ems, Weser)の個体比較を進めています。

【勝野私見

 このザリガニ問題は日本でも同様に問題になっており、某テレビ局番組「池の水全部抜く」で知られた外来種撲滅(アメリカザリガニやミシシッピーアカミミガメ、カミツキガメなど)にも登場し、日本在来種の棲息、保護にも展開して来ています。ザリガニの日本固有種は北海道、東北北部に生息していますが、現在では、既に全国的に外来種が繁殖拡大しており、在来種を見つけることが難しくなっています。ドイツにおけるザリガニに関する20年に亘る地道で着実な調査研究、具体的な対策は参考にすべきです。また、具体的な自然保護、復元の対応策も、長年の調査でデータを基に具体的な対応を地域機関、諸団体と共に進めて来ているドイツ・ウエストファーレン州の報告は注目に値すると思われます。

 

 

4)  Gartenschlaefer in NRW

  Verbreitung und Biologie des selten gewordenen Bilches

  NRW州における里ヤマネ(Eliomys quercinus) 

   稀少種になったBilchesの生息拡大と生態

著者;Christine Thiel-Bender他2名

問い合わせ先;christine.thiel-bender@bund.net

 

 余り知られていない里ヤマネの生息域追跡調査プロジェクトが2018末に作られスタートしました。ここ30年の間に生息域が、その理由が分からずに半分になってしまって来ています。このプロジェクトにより保護指針が作られ関係団体(研究機関や諸団体)からいろいろ情報が集まり大きな意味を持ってきています。

 この齧歯類に属する生き物(最も古くは5000万年以前)の中でヤマネ属は30種ほどです。ドイツでは東は中部山間地の高地、凸凹の地形のトウヒ林(例えばハルツ山地域;Brockenのトウヒ林内等)、西は広がりと日当たりのある河川斜面(例えばライン川斜面地域)などが生息地域で、いずれも岩や石の多い(steinreich)所です。

 このヤマネ、普通は冬眠明けの4-5月にペアリングが始まり6-7月頃に4-6匹の子供を産ますが、特別な地区では2回/年産みます。ナメクジ、ミミズ、堅果などなんでも食べる雑食性ですが、これまでの調査の結果、時に脊椎動物の死骸、小鳥も取って食べます。夏の終わりから10月頃には冬眠の準備をはじめ、11月には木の穴、岩穴の奥、巣箱などに巣を作り冬眠・越冬します。生息地はヨーロッパ南西部から中部、東部ヨーロッパに拡大しましたが最近30年の間に50%ほどに減少、現在では数か国で絶滅か絶滅の危機に瀕しています(NRW州ではレッドリスト種)。NRW州では1950~2020年と2012~2020年の調査プロジェクトでデータ(齧歯類調査会)を図化し比較しています。1950年頃はNRW州中部山間地に多く生息していましたが、現在ではライン河畔地域(ボン南部とケルン地域)に限られています。

 ドイツ自然保護連合(BUND)はギーセン大学、ゼッケンベルク研究所と共同で「里ヤマネの生息地探索プロジェクト」を作成し、生物多様性プログラム(連邦政府機関;2018-2024)と連携し更に市民参加も含め2019年4月から集積生息確認データをwebで集めています。2012年10月にはヤマネの棲息確認地点数が国内で6000ヵ所になり、内420地点はNRW、更にその内230地点は写真・ビデオ等映像付きでした。新しい捕獲・生息調査機システムを用いて生息と同時に糞や毛を集め遺伝子調査も含めデータ化しています。これには多くの市民団体や市民の協力もあり(NRW州では100人以上がボランティアで)、個人の庭などでの化学物質不使用、庭での自然性復元などと協力、また、野生種保護ステーションとして林業分野での種保護指針などとも関係して来ています。

 ケルン市(ライン川両側)市内及び郊外の自然豊かな森林、森林外縁部、林縁・疎林地区ではプロジェクトに沿って10数年前から調査が進められ、里ヤマネのほか多くの動物の生息が6m程度のブッシュ(低木叢林)の中で確認されています。また、このような生息場所は鉄道沿いや高速道路沿い斜面地のブッシュでも見られています。希少になっている里ヤマネ等には、今日の地球温暖化(越冬冬の暖冬化、昆虫相減少に伴う餌の減少、農林業での化学物質体内蓄積など)と合わせ次のような提言が示されています。

 ①種保全のために。高速道路沿い斜面地、鉄道沿線域、橋や地下道沿いのブッシュ管理  では餌となる植物を維持・補植したり、営巣場の防御的仕組みを確保する。

 ②建物修復記念物保護・除去、記念物保護に際しては注意をすること(例えば営巣ヵ  所、生息場などの保全

 ③隣接する緑地(Gruenflaechen)の粗放化、取り扱いの注意

 ④都市生態的施策として計画的に緑の網(ネットワーク)に配慮する。

里ヤマネ類保全・保護のため住宅やクラインガルテン(小菜園)周りで野猫(飼い猫も含め)、殺鼠剤、各種捕獲器などへ以下のような注意を喚起する。

 イ)猫は家の中に留めること

 ロ)殺鼠剤等の設置は1月~3月までに限定する。

 ハ)捕獲網の使用は禁止。

 ニ)雨水貯留槽、小さい水溜は里ヤマネが落下しないよう蓋をし、石で蓋が動かないようにする

 

【勝野私見

 身の回りの自然や小さな生き物に対する保護、保全のための取り扱いには感心します。また、その具体的なデータ集積のために州政府や関係機関が大学、研究所、市民団体と共同で活動し、その意義や重要性を市民とともに明らかにし、情報を共有あるいはさらに新たに作り出していく様には敬服に値します。それまでしてもまだ、種保護、野生種の保護、生物多様性保護を十分実りあるものにすることは難しくなっています。

 我が国も同じように地味で着実な調査や研究は少なからずあると思いますが、計画的に系統だって総合的に取りまとめ総合的プロジェクトとしていく動きは、この報告の様には行っていないように感じます。

 

 

5) Vogelschutztagung NRW

  Drohnen, Multicopter,Quadrocopter--ein Ueberblick ueber das Angebot, Ein-

satzmoeglichkeiten und die Rechtslage

  NRW州における野鳥保護会議(2021.09.11開催)

 ドローン等地上探索機種  その利用特性、活用の可能性、法的課題

 著者;Peter Herkenrath 他2名

 問い合わせ先;peter. herkenrath@lanuv.nrw.de

 

2021年9月11日にNRW州政府環境省鳥類保護局他4つの機関(NRW州自然・環境保護アカデミー、NRW鳥類協会、ミュンスター生物ステーション)が共同で野鳥保護会議を開催しました。

テーマは「ドローン等地上探査機の利用と課題」です。今回の第一回会議の後、2年ごとに鳥類に関する研究・行政機関などにより継続開催されるようです。主要課題は「ドローンの利用可能性と鳥類保護」でした。P.Herkenrath氏は、ドローンの鳥類調査での試験的利用において、特にサギやカモネ類の営巣地調査や広大な牧野でのシギ類の営巣調査、コウノトリの幼鳥監視には効果的であるとしています。また、鳥類保護地域へのドローン利用(モニタリングなど)には利用形態や利用目的・時期(繁殖期)など課題があるとし、保護地域への導入には20年ほどの時間が必要であるとしています。R.Kricke氏は、250g以下で軽量、ハンディでいろいろなタイプの機種がアマチュア愛好家の中で利用されてきていることを報告しました。

 法的な対応は、2021年からスタート(EU規定=EU-Verordnung:2019)し、ドローンの使用高度は120m以下、重量25kg以下となっています。機体が250g以上(カメラ搭載では250g以下でも)は登録が必要ですし、利用時には航空局(Luftfahrt Bundesamt)でオンラインテストが求められます。

利用時には最長500m範囲内で操縦が決められており、さらにはドローンの重量によって第三者や飛行場、病院などについて距離が決められています。飛行場及び周辺地域は飛行禁止であり、航空法(Luftverkehrs-Ordnung)21条3項で特別に(自然保護地区、自然公園、FFH地域、鳥類保護地域では飛行許可;最低高度100m)許されますがそれ以外は飛行できません。景観計画(Landschaftsplan)の中でも決められEUー規定が適応されます。

この報告の中では、バイエルン州(Bayern)とゾエスト地域(Kreis Soest)でのドローンを使った調査事例が報告されています。どちらの州においても、違った立地の鳥類保護地域での各種鳥類(いろいろな鳥の生態に合わせた)の生息調査、営巣調査にドローン(温熱感応カメラ搭載)が使われ、その成果(長所と課題)の事例報告です。いずれも地上踏査より効果的であることを示すと同時に、個々の調査における課題を示しています。

 

【勝野私見

 私は、ドローンが登場してから直ぐに「色々な場所とケースで多様かつ長期的に使用されるだろう」と思ってきました。年々、色々なスケールで空中からの実態把握、現状探査はじめ時間的・空間的に多様な条件での探査、調査が多面的な応用分野で多様な利用・応用事例が進められてきています。こういった中で多種多様でSNSなど通信情報化が進む社会では適切な規制が求められてきます。

 ドイツでは、地域に根ざした地道な活動の野鳥観察や生息調査の現場におけるドローン技術の体験と結果に対する野鳥保護会議が、州レベルで関連団体と共に開催されました。ドローンはじめ空中探査・撮影の最新機器・技術の機能、効果、諸問題を事例を通し明らかにしている点は、やはりドイツ的で、着実に進化させ現場へ応用を進めることには感心させられます。