水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

海外雑誌での研究 15-1

 ドイツ、ノルトランウエストファーレン州の機関紙「Natur in NRW」2022年  第1号  が送られてきました。 一昨年来、コロナ感染症(変異株;デルタ、オミクロンの大流行)の中での発行、ドイツも大変なようです。発行後、まさかロシアによるウクライナ侵攻が始まるとは、編集者は万に一つも考えられなかったのではと、想像し雑誌の内容を見ています。3密が厳禁の時、各種研究交流の集いもオンライン会議形式となり、その取りまとめが報告・記事になっています。                                           ■(筆者記)、◇(原文訳)

 

  2022年の最初の号には①農村地域の文化的景観を構成する農道やその路傍、畑の縁辺部の限られた立地に於ける生物生息群=植生の保護と保全に関する事例調査報告2編、ならびに②独特な景観構成要素である乾燥した草地(Magerrasen ; 石灰岩から成る丘陵地域に多くみられる)の稀少種保護と保全、さらに ③Kiebitz;(Vanellus vanellus=タゲリ)の生息状況、および地球温暖化2020について報告されています。◇

 

本号では、以下の様な内容となっています。(原文転記◇)

1) Wege in der Landschaft 2021  

  Praktikerninnen und Praktiker tauschten ihre  Erfahrungen aus Projekten zu Schutz und Entwicklung von Wegraendern(農道わきの緑の保護と維持に関するプロジェクトについて実務者研修;情報交換・調査研究交流)

2)Wegrainmanagement in der Juelich-Zuelpicher Boerde

 Nahrung und Deckung schaffen fuer Insekten un Voegel (昆虫や野鳥のための餌場と隠れ場作り)

3) Die Kalkmagerrasen im nordrhein-westfaelischen Teil der Eifel

  Flaechenbilanz und aktueller Zustand(草地の変遷と現状)

4)Natura 2000 im Klimawandel

  Online-Tagung zur Haelfte der Projektlaufzeit des Integrierten LIFE-Projektes Atlantische Sandlandschaften(砂丘等砂浜景観に関するライフプロジェクトの半期の成果:オンライン会議)

5)Bestandentwicklung des Kiebitzes im Kreis Kleve

  Ergebnisse der kreisweiten Synchronzaehlung 2020(2020年、郡内同時調査結果)

 

 毎号進めてきていますドイツNRW州における自然保護や緑地保全に関する事例報告他の概要を紹介したいと思います。これらの報告には、自然資源の生息域、すなわち「みどり」の空間の多様なあり方、成り立ち、経緯、現状、問題点などについて事例を通して理解し、問題の解決に当たる指針を出そうとしています。■

全世界的にコロナが猛威を振るう中、各種の集会がオンライン会議形式で行われ情報交換、技術検討が進められました。15-1、2では農道脇の野生草地の在り方に関する結果について報告しています。これは1980年代に小生態系(Kleinstrukturkartierung)保護として農村地域にみられる小さい構造の緑空間(例えば農地の中に残された生け垣、叢林、ブッシュ樹木群など)が種の保護・保全にとって重要であることから出発しています。農道や畑の縁辺部の緑の小構造も同様、生物多様性の視点から再度注目されています。■

 

 

1) Wege in der Landschaft 2021  (2021年、景観の中での道は・・)

  Praktikerninnen und Praktiker tauschten ihre  Erfahrungen aus Projekten zu Schutz und Entwicklung von Wegraendern

(農道脇の緑の保護と維持に関するプロジェクトについて実務者の情報交換・調査研究交流)

著者:Saskia Helm 他1名   自然・環境保護アカデミー (Natur- und Umweltschutz- Akademie(NUA) 

連絡先:saskia.helm@nua.nrw.de

■ 州にきちんとした自然・環境保護アカデミーがあり、当該案件について着実なデータ集積や分析、他機関との情報交換、調査研究協力を進めている事、さらにその体制が確立していることに感心させられます。しかし、2020年コロナ大流行の影響で学会、研修会、講演会等すべて開催できない状況となり、この報告もオンライン会議形式となっており、各地区の事例をパワーポイントで纏め、画像で示しそれぞれの地区の現状、対策、報告をし議論しています。

◇ ドイツNRW州では2014年に初めて自然・環境保護アカデミー(NUA)と州自然保護・環境保護・消費者省(LANUV)が連携して「多様な種が存在する畑縁辺部の緑の保護と維持管理」に関する研究会議(Tagung)を実施し、以来各種プロジェクトを通じて交流を深め2021年9月にはドイツの他州との研究交流を行い、これまでの多様な調査法や調査結果を通して交流し問題解決を図るためオンライン会議を実施しました。

このオンライン会議はNRW州環境・農業保護、自然保護・消費者保護省大臣 U.Heinen-Esserはじめ各州関係部局(生物センター、各レベルの自然保護局担当者など)の120名が参加して行われ、大臣は最初に、2014年の会議でヴェグラインアピール(Wegrain-Appelle);①農道脇空間は動植物種の生物空間として保護が重要である、②農道脇空間については地域社会や団体の支持、支援が必要である、③農道脇の生態的な維持管理では情報交換ネットワークとしてインターネット拠点が必要である、が採択され、2017年にNRW州では「野生の花咲く農道脇」「豊かな種の農道脇」をメインとした専門情報システムが出されたことを述べ、さらなる農道脇空間を保全確保し生物多様性保護の重要性を強調しました。

 クビアック博士(Dr.M.Kubiak)はこれまでの調査研究(2004~2015)で、植物(1.190種)クモ類(370)有刺昆虫(205)鳥類(82)齧歯目獣(40)双翅目昆虫(25)カエル・両生類(20)が農道脇空間で採餌、営巣ー繁殖場として使っていると報告しています。

今回の交流会議(オンライン会議)では8つの視点からの重要性が確認され、5地域の団体から、それに沿った11の事例が報告されています。ニーダーザクセン州では2019年11月に「農道アッピール;Wegrain-Appellが生まれ各市町村の下位レベルまで情報が通達され、また、いろいろな団体が支援プログラムを出し、法的整備、対応手法(調査~保護)選定、維持管理の資金援助、について検討をしてきています。

 農道脇の野生種保護・保全・育成については、自生・野生種の「種=たね」の保護、「種」の確保、採種・播種など連邦自然保護法21条、40条とも関係させながら他の部局(道路、農業)と調整し創出、刈り取り、維持管理が進められ、農道脇整備で地域種(Regio-Saatgut)以外、外来種子を用いることが禁止され(2020.3.1から)ています。

野生草種の混交率では地域種の種は最低50%/重量比としています。

同時に未解決の問題として、刈り取った草の適切な除去が必要であり同時にそこに生息する動物等との関係を明らかにすることが必要です。また、刈り取り時期、方法、刈り取った草の在り方、使用する機械なども対象です。維持管理への支援では農業、道路部局との調整も問題、さらに新規エネルギー法やリサイクル法との関係も重要になります。

 

 

2)Wegrainmanagement in der Juelich-Zuelpicher Boerde

 (ユーリッヒ・チェルピッシュボルデに於ける道端維持保全事業)

Nahrung und Deckung schaffen fuer Insekten un Voegel

(昆虫や野鳥のための餌場と隠れ場作り)    

著者:Joyce Janssen (Dueren郡生物ステーション MSc  Biology)

連絡先:joyce.janssen@biostation-dueren.de

■ この報告は、Juelich-Zuelpicher Boerde プロジェクトとして2016年からDueren生物センターにより始まり、生き物が少なくなった3つの郡における農道脇を図化し現状を明らかにしています。ライン川左岸地域で砂糖大根栽培農地が多く大型農業機械が入る農用地で農業(農道)と自然復元・自然保護との協調を目指すプロジェクトで、Isweiler-Kelz地区(3km×4kmの農地)にある農道の幅員、舗装状況、農道脇植生状況と合わせ調査・図化し検討しています。

 

◇2016年からデューレン郡生物センターは(デューレン郡のライン川左岸地域ラインエルフト、アイスキルヒェン)ラインラント景観保全協会(LVR)と共に「農道保全プロジェクト」を進めています。このプロジェクトは貧弱な種の農道や緑の路(イネ科植生だけから成る草刈管理された農道)を再生(野生草種の豊かな)させるものです。3地域それぞれ農道脇を図化し種の貧化した現状を明らかにし、農業経営コンセプトと対応させ関係町村に提言します。

多くの花や実をつける草花が生育する農道や昆虫の棲息する農道はこれまでにもその価値、重要性はたびたび指摘されてきました。この地域の農道では草が実を付ける前、4月下旬から5月初めに刈り込まれ緑肥としてその場に放置されています。この形態が野鳥の繁殖期まで続きます。農家にとって1回/年の刈り取りは管理費減少にはなるものの、農道脇の生物多様性は余り考えられていません。

2016-2017年の春~初夏(4-7月)生物センターはカテゴリ区分に基づき(農道幅、農道路面、野生草比率など)現地調査を進めました。最低でも1m幅の農道脇は昆虫類や野鳥類の採餌場、隠れ家として棲息に重要です。サトウダイコン栽培畑で主要農道は舗装され農道脇も狭く最低1m幅が必要、理想的には1,5m以上が必要で農道脇は狭く調査区域では10-20%、復員1-1,5mは20-30%、50-60%は1m以下(場合によっては70cm以下)です。

舗装状況では、10-50%はイネ科植物で覆われた路で舗装されていませんが種多様性復元の潜在力は高いです。野生草の比率が30%以上が理想的、10-30%もあり、多くは10%以下です。植生では好窒素性植物が多く、窒素分の少ない所に生育する稀少種は少なく乾燥気味の場所になっています。2019年発足したプログラム(昆虫オアシス)により2017-2021年の春から初夏にかけて地域種(Regiosaat)播種が260,000㎡で実施されました。植生の貧しい農道脇などで幅1m以上、最低100m長の農道で地域種16種を用い播種されました。

 その他、8項目について適切な維持管理法を提案、その問題点・課題を挙げています。①好窒素植物の刈り取り処理、②刈り取り頻度、③刈り取り高さの制限、④適切な播種時期、⑤播種後の維持管理、⑥刈り取り機の種類と機能、⑦刈り取り草の他への利用(バイオガスやコンポスト)、⑧除草剤使用)。

 圃場レベルでの農道脇植生の自然再生、復元には農家の十分な理解と生産に対応した圃場利用、農道維持管理が求められます。また、他の自然保護・復元・再生事業同様資源サイドの的確な情報(採餌、休息、繁殖・営巣などの場所と時間・季節)の取得、開示、指導が求められます。自然保護センターはじめ行政側には農家の理解と協力が必要不可欠です。■

 

 道端の形態が日本の農業と違うため、参考になる部分は少ないかもしれませんが農業空間における非生産部分としての農道部分に対し、環境保全、自然保護(種多様性や種保護)の視点から詳細に現場での調査、モデル検証、課題抽出、討議・検討、情報交換が行政レベル(州はじめ各市町村)で実行に移されている点は、大いに傾注に値します。

我が国農村でも棚田や畑作地での農道や非生産空間の野生草調査、検証は少しづつ生まれています(日本大学造園学研究室;大澤研)。行政レベルでこのような動きが生まれることを期待したいと思っています。◇