水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

海外雑誌でのニュース  3

 ドイツのノルトライン・ウエストファーレン州には世界的に有名な工業地帯、ルール地域があります。世界的に有名な重厚長大企業(鉄鋼業、石炭業他関連工業中心に)が、イギリスの産業革命と並び国力増強を旗印に19-20世紀をリードし、2度の世界大戦を経て大工業地帯を形成してきました。

ルール地域は、NHKの「ぶらタモリ」風に言えば、自然(地質・土壌・植物・水資源など)地理的、歴史的に見て、成るべくして成った一大工業地帯といえます。ライン川の船運(国際河川として)、ルール川とその流域の河川、それに沿った運河網、河川流域の水資源、地表や地下の豊富な石炭資源、木材資源など、工業地帯を支える自然的資源とそれを生かした諸都市の繁栄、作り出された歴史的・産業的資源が現在のルール地域を形成しています。

 20世紀後半に入り、未来のエネルギー施策・見通し、社会における生産・消費・流通の在り方が大きく変わり、それに伴って地域の在り様も変化・転換を余儀なくされてきました。

 *ローマクラブが出した「成長の限界」は国や地域の将来の在り方を考える上で、社会に及ぼした影響は大きく、生産・流通の変化、社会のグローバル化、環境問題の顕在化(自然環境や生活環境)と具体的対応の緊急性、地域像を大きく変える要素が種々、幾重にも出現するようになり、その対応には的確な見通しと計画的・技術的対応が必要不可欠となりました。ドイツでもルール地方は、重厚長大企業の海外進出、鉱工業地域産業の衰退、工業諸都市の閉鎖と地域像の変化などを受けて、その具体的対策として20世紀末の転換期に国際建築博(1990-2000)を通して地域再生に取り掛かり、諸都市を含め地域再生の核として2027年の国際庭園博を目指しています。

 

 この激しい社会的な変化の中で、NRW州およびルール地域協議会(Regionalverband Ruhr;RVR、以前はkomunalverband Ruhr ; KVR) は、いち早く(1960年以後)その対応を講じてきています。その最初の動きは、褐炭採掘と地域づくりにあるといえます。鉄鋼産業とそれを支える石炭産業は、すでにそれまでに長い歴史的つながりで地域の繁栄を支えてきました。褐炭採掘跡地(露天掘り採掘地)の農地再利用、農村集落の移転・再整備、緑化とレクリエーション資源の開発などは「地域づくり」と深い関係にあり、ドイツの国土整備、地域計画の見本でもあり、現在もなお進められています*。

 *これに関連する報告は、東京大学造園・緑地学(園芸学第二講座)研究室での北村徳太郎、佐藤昌、横山光雄、井手久登教授らのドイツにおける地域計画、農村計画、緑地計画、自然再生等に関する著書・諸論文で示されています。

 

 雑誌「Naturschutz in NRW」は、この社会的動きと深く関係し行政的な対応に対して自然保護・保全の視点から幾多の報告をしてきています。その一端は、これまでにもいろいろ報告してきましたし、これからも各種の事例を教えてくれると思います。

 

 今回ここで報告を概述しますが、結果は、2027年国際庭園博でのテーマと合致するものと思います。工業地帯での工場跡地再利用、河川における再自然化、州における種多様性保護・育成事業、ビオトープ保全事業、森林・緑地保全と再生、自然保護・レクリエーション活動などの事例として示されるものです。

 

「レップクレス・ミューレンバッハにおける中・長期的環境モニタリング」

"Langzeitmonitering am Laeppkes Muehlenbach"

 この記事は、ルール工業地帯の中心地Oberhausen市内にあった電気系金属工場の跡地利用(河川の自然復元と遊水地計画)に関する報告です。2017年にスタートした総合調査研究(調査研究名;ルール地域都市部の生物多様性網整備=Netzwerkes Urbane Biodiversitaet Ruhrgebiet)実施状況です。学際的調査研究チームは、ルール大学ボッフム校、ドルトムント大学、デュイスブルク・エッセン大学の地形・地理学、河川生態学研究室はじめルール地域西部生物研究所、エムシャー河川機構、ルール地域協議会などで構成されています。 

 ルール地域の河川はルール川、エムシャー川、リッペ川などでライン川と合流しています。この水資源を統括しているのがエムシャ河川機構(Emschargenossenschaft) で、河川の総合的な治水、利水に関する事業に関連し、自然保護など関連部局と連携し中・長期的なモニタリングを進めて来ています。エムシャー地域景観・緑地構想(Emschalarlandschaftpark)は、工場廃水で汚染されていたエムシャー川に、昔の綺麗な自然と川を呼び戻そうとする中長期的地域整備です。  関連文献;IBMエムシャーパーと地域開発、ランドスケープ研究、64(1)、16-19、2000

 レップクレス・ミューレンバッハ川はオーバーハウゼン市内を流れるエムシャー川の小さな支流で、かって工場地帯の汚染排水が流れる開水路でした。合流域0~3kmはエムシャー河川機構の管轄区間で、ヘックスバッハ川(6km)と関連しルール川に流れ込んでいます。乾期は86m3/秒、洪水期は16m3/秒で遊水地機能を果たし、1988-1991の間、1.9km区間で河川整備が進められ次いで1.1km区間で自然再生整備が進めらています。この流域にあった工場が閉鎖され放棄地となっており土壌汚染や水質汚染が危惧されることもあり、工場跡地が長く放置される間に自然が侵入、変化してきたことにより具体的調査が進められることになりました。

これまでの地形・地質・土壌の変化、水流、水辺形態と土壌の関係、植生、動物相(野鳥・昆虫・両生類など)の動態調査が工場放棄跡地レップクレス・ミューレンバッハの自然再生地区(約11ha)で進められ、その経過報告です。植生では2016年夏、裸地(68種)が2017年(151種)に、2018年には205種になっています(3本のベルトトランセクト区)。野鳥についても、砂礫の裸地でチドリの繁殖が見られたり、低草丈草地に対応した鳥が周辺の植生と関連し餌場、隠れ家としての利用が示されています。

 

 この報告は、これからも時間を重ねて調査が継続され、工業地帯における工場跡地・放棄地の自然再生、緑地創出・維持管理に関わる基本的な計画の為の資料として大きな役割を果たすものと思います。以後も関連記事に注目していきたいと思います。

  

この記事に関する問い合わせ・連絡先:

Dr.Peter Keil, Biologische Station, Westliches Ruhrgebiet e.V.  peter.keil@bswr.de

Gunnar Jacobs,Emschergenossenschaft/Lippeverband   jacobs.gunnar@eglv.de