水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

海外雑誌での研究  20-2

 20-2では20-1に続いてその報告の概要を報告します。 

 時間は確実に流れていますね。1号の翻訳が済んでから2か月です(私の生活を追いかけるように)。毎号恒例の内容と同様に、20-1ではその概要(表題・副題、著者と連絡先)を明らかにしました。20-2では、その内容を少し詳しく示します。

大変遅れて申し訳ありません。

 

1.Bodenschutz bei Naturschutzmassnahmen

         (自然保護指針・施策における土壌保護)

         Bericht von der Fachtagung mit Workshop zur Entnahme und Verwertung von Bodenmaterial bei Naturschutzmassnahmen (ワークショップ形式による専門家会議の報告;  (自然保護指針・施策における土壌等の除去と再利用)   

    著者;Dr. Martina Raffel 他3名

    連絡先;martina.raffel@brms.nrw.de

              写真;5枚 

 ■NRW州自然・環境保護アカデミーと共同で進められている統合LIFEプロジェクト(大西洋砂地景観)は既に3回行われており、 この報告は、2023年2月9日、「自然保護指針・施策における土壌保全・保護」に関するテーマで行われ、既に適正な先進事例である自然保護の視点に立った生物生息空間改善、種保護から見た水資源施設、再自然化事業について述べています。

 このワークショップにあたり、普段は州の生物センターや下位(市町村)の自然保護担当者がオンラインにより40人参加、12の質問と合わせたアンケート、情報収集で回答を寄せ、2/3以上の参加者がテーマである「表土保護」についての経験を持っておらず、たった4名が知っていたにすぎない状況でした。参加者の半数は現場経験を持っておらず、とりわけ費用;コストについては理解していませんでした。参加者80人の殆どが生物センターの下で水収支担当部(河川の自然再生事業に関係する)、設計計画事務所、自然保護関連団体に関連した参加者でした。

 このセミナーの講師は、①Uta Hamer教授(ウエストファーレン=ウイルヘルム大学・景観生態研究室;ミュンスター)、②Katrin-Nannette Scholz博士(連邦環境省)、③Heribert Tenspolde氏:ミュンスター地区農業農村関係部   ④Norbert Feldwisch博士:農業土壌調査会社、⑤Hartwig Dolgner氏; NRW州林業局  ⑥Hannes Schimmer博士;ミュンスター地区水利局主幹 、⑦Sebastian Schmidt博士;ミュンスター地区自然保護・景観保全・水産部の7人でした。

 Hamer教授は土壌についての一般的な役割、構造を述べ、ビオトープ保護との関係、他の景観構成要素との重要な関係について説明、Scholz博士は土壌に関する取扱い(ドイツ工業規格=DIN番号19731=1998施行)を説明、土壌を取り扱う工事での重要性を喚起しました。Scholz博士の講演を受けてHeribert Tenspalde氏(ミュンスター地域農業委員)は農業地域においての土壌の重要性、特殊性、独自性について解説し、取り扱いに関する注意点などを説明しました。Feldwisch博士は、土壌保全との関係での土壌除去(次に挙げる報告2参照)を講演し、耕地の土壌の意味、重要性、自然保護(土壌動物=昆虫など)との関係、DINとの関係、土壌の取り扱いと季節などについて解説しました。

 Hertwig Dolgner氏(森林・材木局)は特殊な事例として防火池(Feuerloeschteichen)の創出、維持管理との関係から土壌の取り扱いについて説明しました。昨年2022年は乾燥と大規模な森林火災で十分な消火活動が行えませんでした。そのため人工的な防火池消火栓(溜池)の設置が必要で、その整備に際し樹林伐採と表土取り扱いの問題について触れました。Hannes Schimmer博士(ミュンスター地域水利局担当)は、これまで進められてきた河川の自然再生事業での再自然化事業と土造成(土壌保全と確保)は別物であることと、エムス川の事例(2016-2019建設、2,3km区間で500,000tの土壌移動をした例)を用いて土壌取り扱いの重要点、注意点を解説しました。

Schmidt博士(ミュンスター地区自然保護・景観保全・水産部)はLIFEプログラム;統合LIFEプロジェクト(大西洋砂地景観)の中での自然保護からみた土壌保護について解説。2016年NRW州とNS州協同で進められている「2000年自然;Natura 2000」のEU生物多様性プログラム(このプログラムの中での保護すべき大西洋砂地地域とそこにおける保護地区、15の選ばれた保護地区、大西洋砂地固有の10種との関係)を解説しました。同時に計画実施に際して色々な課題(自然保護と土壌保全、表土とそれ以外の区分、コストの問題、計画の重要性など)について計画(基本~、実施~)での時間と指針の変更の重要性を述べています。

 その後に行われた4つのワークショップでは計画と自然保護指針の理解・取り扱い法について議論されました。

『添付写真』は5枚です。

①IPプロジェクト地;Brachter Wald(自然保護地区)での表土剥離、移動、敷設工事状況

②剥離された表土の仮置き状況;可能な限り早期に再敷設しなければならない。

③FFH地区・Heiliges Meer; Steinfurt郡 での湖畔の低湿地改善工事:低湿地土剥離と堆積土  の撒きだし状況

④湖畔整備工事(表土剥皮・表土積み上げと地形均平化)の状況;カエル特定種(Luronium natans)との関係

⑤IPプロジェクト地;Bockholter Berge(自然保護地区)での表土移動状況(剥被と敷設)Zauneidechse (Lacerta agilis)生息地

 

  ※ 統合LIFEプロジェクト(大西洋砂地景観について):

担当部局:①NRW州政府環境保護・自然保護・交通省、②NS州(ニーダーザクセン州)環境・エネルギー・気候保護省、③プロジェクト管轄は関連地区省ミュンスター地域。プロジェクト全体コンセプトはNRW州自然・環境保護・消費者省とNS州の自然保護・臨海域保護・水収支局、プロジェクト期間は2016年10月~2026年9月まで。費用は16.875.000ユーロ(内60%はEU).

これについての問い合わせ先:www.sandlandschaften.de)

 

 

 ■何処の社会も同じようです。必要で重要な課題に対してどのように対処するかについて、上意下達の流れをスムースに進めるためにはいろいろな段階での情報開示、技術伝達が必要です。ドイツも欧州の先進国として環境保全、自然保護についての施策整備、技術開発、実例試行などで、連邦から州・市町までの各レベルにおける流れを確実にするため多様な研修・講習が進められています。他分野の専門家を呼び、自然保護が対応する(時として適対応する土壌保全と自然資源保護の課題に対してどのように考え、対応し理解を得るか重要になります。 この報告は、講演会・講習会・ワークショップ等を通して、環境保全、自然保護についての考え方、対処方法などを(特に統合IPプロジェクトについて)幅広く各段階の技術者へ浸透させるため開催され、その状況を述べたものです(テーマは表土保全にありますが、その意味、重要性、対応法などについて)。

 我が国でも同様の問題はありますが、残念ながら自然保護に関連する行政担当者は極めて少なく、さらに多部局協働の視点も多くないです。 自然保護地区内での表土保護の現場と再利用状況は見てみたい事例です。(勝野)

 

 

2.Naturschutzfachliche Bodeneingriffe aus Sicht des Bodenschutzes

   (土壌保護の観点からの自然保護のための土壌の取り扱い)

         Bodeh als belebtes Naturgut und schaedliche Bodenveraenderungen im Rahmen von naturschutzfaechlichen Lebensraumoptimierungen (生きた自然素材としての土壌と被害を及ぼす土壌変更;自然保護の視点に立った生物生息域の改善・最適化)

    著者;Dr. Norbert Feldwisch 他1名

    連絡先;n.feldwisch@ingenieurbuero-feldwisch.de

    写真;5枚、図;4枚  【参考】連邦土壌法1,4,7条

自然保護の視点に立った指針では、土壌の保全に対して以下の6つの視点が挙げられます。

①土壌剥皮による土壌量の減少・消失

②土壌への被圧による土壌空隙、土壌中の生存空間(種)の減少・阻害

③表層土と深く関連する土壌中生物の減少・消失

④地域を構成する景観での水分貯留の減少・消失

炭酸ガス(CO2)確保の減少・消失

⑥表層植物剥皮による土壌侵食の危険性とその影響の増大 

 土壌の取り扱いについてはドイツ工業規格(DIN)に示されています。土壌の取り扱い前、後の動きでは各種の特性に準拠し更に自然保護の視点から扱われなければなりません。例えば鉄塔などの建設時には事前に土壌調査することは自明で、表土の重要性から工事開始前から適切に扱われ、事後に表土が再度敷設されても植生が貧栄養の草地(乾燥した砂質草地)からはじまります。土壌の水分調査では1m四方で160m深で行われ、表土剥皮前8.3kg/㎡の炭素、120l/㎡のの水分は事後2.2kg/㎡、100l/㎡に減少し、実に6.1kg/㎡、20l/㎡消失します。1haでは炭素61㌧/㎡、水分205l/㎡が減少(炭素含有量の73%、土壌水分量17%)。

土地利用の形態によって土壌は変わり、耕地では腐植含有量でh3、牧野ではh4です。腐植含有量では耕地で61㌧/ha、牧野では88㌧/haです。土壌中のミミズの役割も示されており、農耕地で30-85g/㎡、300-850kg/ha腐植質を作り出しています。それ以外にも土壌中には多くの昆虫相も見られます。

また、農機具の使用では機械の種類、使い方と土壌の関係でCO2排出量が異なります。

 土壌と自然保護、環境保護との関係では①土壌その物の資源としての保護と②土壌に関連する植生、土壌中の生き物の側面があります。①については連邦土壌法、②については連邦各州の取り決めに倣う必要があります。

 

 土壌の取り扱いについて、ドイツでは表土保護の考え方も実務では厳格かつ詳細に決められており、自然保護地区における土壌の特定目的(土地利用)に対する取扱いは事例を通して明らかにされていると言える。土地利用の在り方の基本に表層土壌(表土)の

重要性が認識されており、ついては生物多様性の考え方の基本となる点でもあり、我が国でも表土の取り扱いに対し、より十分な配慮の必要性が指摘できます(勝野)。

 

 

3.Die Renaturierung der Lippe in Paderborn-Sande

  (パーデルボーン~ザンデ間におけるリッペ川の再自然化事業) 

 Massnahmenumsetzung und erste Entwicklungen (指針・施策の変更と再生事業)

               著者;Dr.Guenter Bockwinkel他3名

               連絡先;guenter.Bockwinkel@nzo de

    写真;10枚、 図;4枚

  この報告は2005年に終了したリッペ湖余水排水事業に繋がる河川自然再生事業に係るものです。リッペ川は砂や礫の堆積する河川でこれまでの河床動態は堆積層にその姿(砂礫層の互層)は良く表れています。この地区の650m幅における広い平坦な堆積地区は歴史的な砂礫層の状況(リッペ川の断面)をよく表しています。NRW州は以前農業用地で利用されていた14haを確保し、2020年後半に関係団体(カヌー協会、釣り協会、自然程団体など)の意見を取りまとめ、次のような再生目標を提示しました。

① 対象地(4ha;遊水地=自然河川型)を自然の状態に近い形で再生する

②河畔の景観・状況を再自然化する

③河川水路の長さ(水辺の距離)を魚類や他の水生生物のための流れとして再生する

④水辺・河畔に棲息する生き物の棲息空間を創出する。 

 それに際して、次のような方針が打ち出されました。

a)河川の長さを長くする。(650mから1200mへ)

b)護岸の固定をさける(コンクリート護岸を遠ざける)。

c)河川・水辺・河畔を複雑な形にし、水溜まり、土手、河原、土砂溜まりを作る

d)自然の水の動きによる岸辺、水際の形を多様にする

e)旧河道部最終地点での擦り合わせ(既存河川との川幅など)

f)工事等による改変の違いが被害として表れないようにする

 大きな流路の蛇行により凡そ6haの区域で河床が低下、100mほど河川幅が広がり、河畔部は年間最低でも65日は冠水・湛水するよう造成されました。それにより、水深変化地区がひろがり、水際と河畔の間に水位変化域が生まれました。また、既存の河川とのつなぎ部分(最終地点)では30mの長さで自然石の袖堰4段(高低差調整の為)を創出、旧河道の特徴ある部分も工事と並行して残しながら整備しています。

 2021年4月初めには当初の計画通りダイナミックな流路形、多様な水辺(水際から河床、河原部まで)が完成しました(航空写真参照)。

 完成と同時に変化に富んだ水際、島状の礫床ではコチドリなどが飛来し、8-10カ所で営巣地を設けましたし、切り立った断面の砂層の岸辺6ヵ所には2012年・カワセミ類の巣穴(凡そ140番)が設けられました。この場所(河川自然再生地区水辺)ではタゲリはじめ10種以上の野鳥の休息・生息(タゲリは繁殖地)が確認されました。

2022年には河川生息鳥類の調査と同時に魚類ほか水生生物、水質調査さらには景観調査が行われています。以下はその中の魚類についての報告です。

 リッペ川の魚類調査はリッペ湖上流部、リッペ湖堰堤部、リッペ川下流部の6地点で行われています(2016-2022年の変化;添付図参照;2022年真ん中のEF1564-01,02が再自然化の水辺)。

砂や礫の多いリッペ川ではこれまで魚類の生息数や種の多様性は低下していましたが、このリッペ湖直下の河川再自然化事業により、それ以前(2016)の水準を大きく改善するところとなり、稚魚や幼魚の数が極度に改善、水質も大変良くなり本事業・手法の意義が大きく示されています。

 

■ 既に20世紀後半から、ドイツ各州・各河川で色々再自然化事業が進められてきています。NRW州でも機関誌19に見られる、エムシャー川のライン川合流域における再自然化事業の報告もあります(19-2)。いろいろな条件、状況下での事例を積み重ね(行政の中での多様な取り組み)、担当部局枠にとらわれず生物多様性や生態的技術の積み重ね、理解の浸透が着々と進められて来ていることは、緑地環境整備、自然復元事業など造園に携わる者として羨ましい状況と言えます(勝野)。

 

 

4.Rueckenwind fuer herausragende Arten der FFH- und Vogelschutzrichtlinie

  (FFH地域・鳥類保護指針における特定種にとっての追い風)

      Der Life-Projekt "Siegerlaender Kultur-und Naturlandschaften"(文化的景観・自然景   観の優秀州におけるライフプロジェクト)

         著者;Prof. Dr.Jasmin MantillaーContreras 他3名

    連絡先;j.mantilla@biostation-siwi.de

    写真;14枚、図;1枚、表;1枚

  プロジェクト地区はBurbachと Neunkirchenに拡がる4.700haに及ぶ鳥類自然保護地(7つのFFH地域と27ヵ所の自然保護地;3州*ヘッセン、ラインランドプファルツ、NRW.にまたがる地域)です。この地域は①地域種、②国内種、③国際種の枠組みで危機に瀕する種がいる地域で、6年にわたる調査期間(2022-2027)で種の動態を調べます。

 調査の目的は、異なった生息域(樹林域、草原域など)をもつ7種の鳥類の生息状況

を9つの異なった棲息域タイプ=立地と関連して明らかにすることです。プロジェクトには7つの重要な施策(Massnahmen)があります。

  ①粗放的管理の牧野(355ha)における保全、再生

  ②針葉樹林から粗放的管理の牧野への変更(35ha)

  ③落葉混交樹林の定着(50ha)

  ④低木叢林・荒れた高草丈群の改善(6ha)

  ⑤旧い樹叢・樹林(50ha)と営巣木(100ha で100本)の保護

  ⑥施業林の保全(60ha)

  ⑦希少になった地域固有種(Goldener Scheckenfalter)の再生

森林の対応

鳥類保護地区Burbach-Neuenkirchenの70%は樹林地で、内46%しか広葉樹林がありません。樹林のおよそ半分がトウヒの針葉樹林(Picea abies)です。この地区で最初に50haで樹種変更(針葉樹から広葉樹林へ)、ここには3haのハンノキ(Schwarzerlen;Alnus glutinosa)

があり、FFH地でハンノキ・トネリコ林に定されました(1,5%)。同時に2.782本の営巣木が決められ200本ほどの巨木が含まれています。全体の中では50haに及ぶ森林が古木林に指定・保護されました。同時に施業形態もこれまでの伝統的な施業方式が求められ、かつ施業林としても活用(燃料や用材など)される形態が残されています。

開放地・牧野の対応

 この地域の樹林地と併存する牧野(刈り取りー、放牧牧野)は中山間地の野生生物生息空間としても重要であり、特に鳥類にとっては広葉樹林同様牧野は大きな意味を持っています。ここでは35haのトウヒ林を粗放管理の牧野にすることとし、最初の年に30haを伐開、牧野に変更し特徴ある鳥類(Braunkehlchen、Wachtelkoenig; Crex crexなど)の棲息を可能にしました。また、2023年から放棄された高草丈草本の荒地4haを、野生草花の咲く草地に転換、野鳥の棲息する草地へと変更しています。この間、当然の如くこれまでの樹林関係者と鳥類保護、自然保護の担当者とのプロジェクトに対する共通の理解と協力が必要になります。それによりこれまで見られなかった昆虫類(Blaunschillernde Feuerfakterや  Goldene Scheckenfalterなど)が出現して来ています。

目的種Braunkehlchen(Bk)の動態

NRW州の40%におよぶB.k.の生息域は隣接州と同時にBkの重要な地域で、20年にわたってその状況が捉えられいます。この地域の鳥類保護地区の意義はBkの棲息(開かれた草地と刈り取り時期)とも関係しています。

存続が不明の絶滅危惧種Blauschillernder Feuerfalter;BF.)

ここで問題としているBFはドイツでも特殊な地区にしか生息しない希少な蝶類でNRW州内でも2005年、5ケ所位しか見られていません。いずれも湿性の粗放管理草地でFFH地区でも2地区だけです。植生も特殊で粗放的管理(極めて粗雑な草管理)の草地(Pfeifengras Streuwiesen、Schlangen-Knoeterichs  ; Bistorta officinalis)でしか見つかっていません。この地域では2022年夏に100頭あまりが確認されたにすぎません。湿性疎管理草地でハンノキ林のある場所が適地とされています。

Goldener Scheckenfalter;G.S.の再生

2015年にプロジェクト地区での対象種となったGS。2022年に生息域がFFH地域に組み込まれ、増殖が繫殖家により計られています。食相の野生草(Succisa pratensis)も確認されています。

今後の計画

 2023年からトウヒ林が色々な広葉樹主体の樹林へ変えられ、秋には1.5haのポプラ林を伐採、ハンノキ林へ変更、FFH地域の古木樹林は標識表示し、FFH樹林の見本林(デモンストレーション林)を開設します。草地では2023年夏から刈り取り草地を設け2024年春から牧野として維持します。生息する野鳥、蝶類の表示板を付け、2023年秋から草地は適正に管理されます。

 

 広大な面積の農林業用地を買収して野生生物の復元、再生を目指して進められる欧州のFFH地域(植物種、動物種及びその生息域)整備・拡大を、野鳥を真ん中に据えて進めている報告は興味ある対応手法です。施業林を広葉樹林へ変え、営巣木を保護し、刈り取り牧野を再生拡大し、野生草花や野生動物の棲息を確実にする息の長い試みに感心します。他の報告同様、着実なデータづくり、集積、行政的対応や既存の見方の変更には、本来のあるべき姿が見られます。(勝野)

 

 

5.Neue Fachinmormationen aus dem Biodiversitaetsmonitoring in NRW

  (NRW州における生物多様性モニタリングから見た新たな専門情報) 

Monitoring als Wissensbasis fuer den Schutz der biologischen Vielfalt (生物多様性保護のための新知識・モニタリング)

    著者;Juliane Ruehl 他4名

    連絡先;juliane.ruehl@lanuv.nrw.de

    写真;5枚、図;12枚

  種や生息域の長期にわたる調査は生物多様性を実のあるものにするために極めて重要です。NRW州では担当部署(自然・環境保護・消費者保護庁)が多様性モニタリングの施策の中で生物多様性の現状を把握しています。結果はNRW生物多様性モニタリングデータとして公表されています。この調査は州全土での長期にわたる生態的抜き取り調査で、現在の各種土地利用状況と合わせ保護地を見ています。1997年以降、この調査は191ヵ所で進められ、各種のカテゴリー別に示されてきています。2017年にNRW州の「生物多様性モニタリング」が公表され、人口密度と絶滅危惧種・希少鳥類の棲息状況との関係、2023年2月には、さらに詳しく示されています。また、鳥類種ごとの植生や生息空間との関係も示されます。これにより州全体での状況、動態が分かりますし、さらに絶滅危惧種と人口密度や人口動態との関係と合わせ捉えられています。これまでの調査でKiebitz(タゲリの仲間)の生息域は2002年以来75%減少、低下しています。

 交通網の整備と連動して増加している種、また逆に植物種が減少している地域が明確に示されてきています。さらに農業地域でも農業の在り方と関連し地域内の植物種の減少(2006年以降)が顕著(2021年では69%の減少)であり、それは保護施策例えば耕地畑縁辺部、耕地畑野生種生育地創出など)により20%の減少に留まっている例も示されています。

それは樹林地(森林)においても同様で施業林種から落葉広葉樹への変更(49%;2006 →55%;2021)にも見られます。FFH地区内での適用も大きな効果を示しています。

 

 この報告はNRW州における土地利用変化と自然保護の対象(動植物、生物生息域など)の20年間にわたる変化の状況についてのものです。この間、FFH地域の設定、関連土地利用と自然保護との対応関係、対処法など、色々な取り組みとの関係を州内でのモニタリング=生態的抜き取り調査との関係・結果を述べています。これまでの調査結果と同様、今後の調査との比較検討により、さらに具体的かつ充実した保護・保全の施策が州として示されると思われます(勝野)。

 

.Asiatische Hornisse melden! (アジア系ハチの報告)

Herkunft, Verbreitung, Invasitaet(その由来、生息域拡大、侵入)

          著者;Caris Michels

    連絡先;carla. michels@lanuv.nrw.de

            写真;6枚、図;1枚、表;1枚

   このハチ(Vespa velutina nigrithorax;アジアモンスズメバチ)の急激な生息域拡大は在来種・ヨーロッパ種(Vespa crabro;ヨーロッパモンスズメバチ)の棲息を脅かすものであり、外来種に関する情報は近々大変重要になって来ています。

 この種(V.v.n.)の生息域は河畔域や市街地縁辺部、高さ200m程で蜂をはじめ昆虫類を捕食しており、西は南フランスから隣接国に拡大(2004)、ベルギー、オランダさらにドイツのラインランド地方に拡大、2020年にはオランダ国境域、ハイネスベルグ郡、2022年にはNRW州にも巣が見つかっています。獲物の80%はミツバチであるため今後の対応が求められています。巣を見つけ出すことと巣の除去はなかなか難しく、50km/年の速度でさらに北上、東へ拡大すると予測されます。

 問題となるハチ(V.v.n)は庭先の小屋、家畜舎などの軒先庇裏などに夏、巣を作り

大きさは直径30cmほどになり、巣の上部に侵入口を設けます。夏の終わり頃、蜂数は2000-2500匹ほどになり、新しい女王バチの出現(秋;10-12月頃)により巣を離れ新しい場所に次の春までに働きバチを見つけ巣をつくります。

この蜂を発見した場合、当該の自然保護部局へ連絡し、発見場所、飛来方向、巣の在処

などを探し駆除されます。

 地球温暖化?などにより外来種の拡大はスズメバチ類まで及びつつあり、外来種(V.v.n.)は在来種のみならず他の昆虫類の棲息にも影響を及ぼすと考えられ、その対応が急を要しています。その生息状況把握には住民の協力が必要であり、この報告では、外来種(V.v.n.)蜂の形態、生育特性、生息情報などが取り上げられています(勝野)。

 

 

◆◆今号の特徴は「土壌」、なかでも最も重要な表層土壌(栄養分を含んだ;Mutterboden)です。緯度の高いドイツ、しかも地史的にも古いヨーロッパでは表層土壌は極めて重要です。特に生物多様性のこの時代、表層土壌に含まれる有機物は生物の生息に少なからぬ影響を及ぼしています。緯度が高くなればなるほど(国内で北へ行くほど)有機質を含む表土の持つ意味は大きいものがあります。土地の取り扱いに際して、この表土が持つ意味は土地の生産性、潜在力の点からも大きく、その取り扱いには十分な配慮が必要です。土地の潜在力維持のために表土を確保し、また表土の潜在力を活かして自然の営力を維持するため(例えば自然復元など)どのようにするか、事例を通して検討しています(勝野)。