水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

新年2024、アラカルト

 2024年の年が明けました。開けたとたんにとんでもない事態に陥りましたね。予期せぬ出来事でした。(人間、長い人生の中にはこんな新年もあるのでしょうか

 

 私の年越しはいたって静かでした。特別大晦日だと言って何をするでもなく、淡々と同じ日の流れのなかでの年越しでした。大晦日は早めに床に入り新年を迎え、初日の出を礼拝しようと、例年通り昇る初日が見られる近くの緑地へ。日の出時間を前に6時から待機。東の空は日の出を待つように薄黄色の水平線が茜色から徐々に赤く広がり、遂に太陽が雲間を抜けて輝きました(6:50頃)真っ赤。輝く初日に家族の健康と多幸を祈り足早に初詣へ。

例年の初詣では、もう何年も前から都内赤坂・日枝神社、新宿・明治神宮の2社を巡ることに決めています。明治神宮を参拝後、電車で我が家に向かいました。時間はもう、10時になろうとしていました。

 「能登地震」が元旦、午後発生し、以後はそのニュースの報告でもう10日を過ぎています。能登半島の位置的、地学的、地理的特性に沿って地域が生まれ今日まで続いてきています。道路事情の悪さはその反転でもあります。災害救助の点ではなんとも簡単に手の付けられない状況で、遅々として進まず歯痒くもあります。

 

 そのニュースを苦虫をつかんで聞いているうちに、なんとコロナに罹り「微熱」、「痰や咳」、「ふらつき・怠さ」に襲われ罹りつけ医院の先生から「5日間以上の隔離」を宣告され高価な薬を処方されました(ラゲブリオ・カプセル200mg:MSD株)。6日間にわたる寝正月・隔離の床の日々でした。

80歳を迎える歳の我が身には、印象深い辰年2024年の始まりとなりました。

海外雑誌での研究 21-1

 秋風が吹き始める頃、例年ですと涼しくなってお彼岸を迎え、次第に朝夕涼しさが増してきますが、今年は例年になく猛暑、酷暑の夏で日本全土が焼けるような鍋の中の状態でした。 ここ数日はようやく、やっと朝夕幾分涼しくなって来てよく眠れるようになってきました。地球温暖化のロゴがそのまま、地球全体にわたって広がっています。

 やっと季刊誌 Natur in NRW、No.2の紹介が終わったかと思っていましたら、NO,3がやってきてしまいました。例によってその内容を列記します。

1. Tagfalter in der Gesamtlandschaft Nordrhein-Westfakens

2. Monitoring der Biodiversitaet flugaktiver Insekten in NRW

3. Das Braunkehlchen im Suederbergland und Westerwald

4. Invasive neophytische Wasserpflanzen in Nordrhein-Westfalen

5. Gewaesser im Klimawandel

報告1.は66種類の蝶類の動態を調べたもので、オスナブリュック大学と州が協働で調査研究(2017年来)し、2019-2021年の結果についてオスナブリュック大学が今年5月に専門誌(Biological Conservation)に報告掲載しています。

報告2.は州(LANUV)が2014年来、Krefeld昆虫協会と共同で飛翔性昆虫の重要な生息地を明確にするため、調査研究を続けてきており、2022年にはその内で101ヵ所を保護対象とし、それから州政府の支援を受けDNA調査に引き継がれています。

報告3.は2023年の鳥として指定(1987年後ドイツ自然保護協会とバイエルン鳥類保護連盟から2度目の年間指定鳥とされた)されており、その鳥の生息域での課題(開けた草地やその管理方法など)についての専門家会議(2日間)の報告です。

報告4.は州内の水辺環境(河川、池沼など)における外来水生植物(13種)の問題で、植物の特徴、拡大状況、除去対策の手法と今後の対策についてです。

報告5.は気候変動の現在、水辺環境はどうなっているかについて、2023年3月に開催された専門家による研究集会ものです。

 著者と問い合わせ先は以下の通りです。

 報告1=Christoph Grueneberg 他2名; christoph.grueneberg@lanuv.nrw.de

 報告2=Thomas Hoerren 他13名; thomas.hoerren@koleopterologie.de

 報告3=Peter Herkenrath他3名; peter.herkenrath@lanuv.nrw.de

   報告4=Andreas Hussner ;  (Dr.論文;info@aquatischeneophyten.de

 報告5=専門家会議事務局 の編集;eva.pier@nua.nrw.de

 

以下、詳報は21-2にいたします。

               

 

 

 

同窓会あれこれ 

  人の一生の中で「親友」と言うのは、どのくらいの数になるのだろうか。高齢化が進む今日では、色々な時代と共に、またそれぞれの生きてきた道により、その折々の世界が違うため一概にどの時代に何人と言えないかもしれない。しかしそれぞれの時代に「ともだち=親友」は少なからずいるものと思う。義務教育の小・中学校、将来の道(職=社会)に関係する高校、そして勉学の最終地点・大学とそれぞれに机を並べ苦楽を共にした友人は、誰でも持っている。

 今年(2023)の夏は猛暑であった。そんな中、数年ぶり(コロナ流行のため)に中学時代の同窓会が開かれた。私の中学時代は4つの小学校区が纏まっての時代、クラスは6組(47-8人/クラス:男191+女142=全333人)、3年間ではご承知の通り、同じクラスにならず話したことも無い同窓生も少なくない。

 同窓会でもクラス別に卓を囲んで座り、話に花が咲き、それぞれの卓を越えることは少なかった(部活動経験者は別)。クラス別に着席し宴を楽しみ旧交を温め談が弾んだのは其の卓の同席者に限られた。親友の数が歳と共に少なくなった。

 思うに、それに較べて小学生時代は生活範囲がもっと狭く、期間も6学年と長いため、ほぼ同級の全員を知っていた(残念ながら今では小学校の同窓会は行われることが極めて稀)。

 秋には高等学校の同窓会も開かれる(10月)。こちらの会は、卒業生の生活圏、高校卒業後の進路の違い等により、東京地区(高校卒業関東圏同窓会の集い高校のある岐阜県大垣市とは異なって)の集まりである。高校時代も生徒数は今より多く、クラス数も7組(男子358人、女子77人、全体435人)の生徒で学年が構成されていた。中学時代同様、クラス替えがあったとは言え同窓生での親友はそれほど多くなく6-7人程度である(両手の指の数以下)。しかし、高校時代とは別に社会に出てから、家庭を持ってから、この在京人の同窓会を通じて友となった友人も少なくない。今年は13名参加、故郷大垣地域からの卒業生の参加(12名)もあるようで久しぶりの再会が楽しみである(それでも25名です)。

 来年はこの同窓のメンバー全員が80歳を迎える。残念ながらこれまでに古希(70)、喜寿(77)を越え傘寿(80)を迎えられたろう友も少なくない。年年歳歳この輪が小さくなる。

これまで70年以上に亘って色々なことを経験しながら喜び楽しみを求め、苦労を重ねて元気に過ごしてきた。これまでの思い出を大事にしながら明日に向かっていきたい、と思う。

 因みに大学時代の旧友(学生数は学科で40人前後)はもう5指を数えるくらいになってしまい、音信の途絶えた友も少なくない。卒業後50年余、時代は彼方に消えようとしている。

 

 

 

 

 

海外雑誌での研究  20-2

 20-2では20-1に続いてその報告の概要を報告します。 

 時間は確実に流れていますね。1号の翻訳が済んでから2か月です(私の生活を追いかけるように)。毎号恒例の内容と同様に、20-1ではその概要(表題・副題、著者と連絡先)を明らかにしました。20-2では、その内容を少し詳しく示します。

大変遅れて申し訳ありません。

 

1.Bodenschutz bei Naturschutzmassnahmen

         (自然保護指針・施策における土壌保護)

         Bericht von der Fachtagung mit Workshop zur Entnahme und Verwertung von Bodenmaterial bei Naturschutzmassnahmen (ワークショップ形式による専門家会議の報告;  (自然保護指針・施策における土壌等の除去と再利用)   

    著者;Dr. Martina Raffel 他3名

    連絡先;martina.raffel@brms.nrw.de

              写真;5枚 

 ■NRW州自然・環境保護アカデミーと共同で進められている統合LIFEプロジェクト(大西洋砂地景観)は既に3回行われており、 この報告は、2023年2月9日、「自然保護指針・施策における土壌保全・保護」に関するテーマで行われ、既に適正な先進事例である自然保護の視点に立った生物生息空間改善、種保護から見た水資源施設、再自然化事業について述べています。

 このワークショップにあたり、普段は州の生物センターや下位(市町村)の自然保護担当者がオンラインにより40人参加、12の質問と合わせたアンケート、情報収集で回答を寄せ、2/3以上の参加者がテーマである「表土保護」についての経験を持っておらず、たった4名が知っていたにすぎない状況でした。参加者の半数は現場経験を持っておらず、とりわけ費用;コストについては理解していませんでした。参加者80人の殆どが生物センターの下で水収支担当部(河川の自然再生事業に関係する)、設計計画事務所、自然保護関連団体に関連した参加者でした。

 このセミナーの講師は、①Uta Hamer教授(ウエストファーレン=ウイルヘルム大学・景観生態研究室;ミュンスター)、②Katrin-Nannette Scholz博士(連邦環境省)、③Heribert Tenspolde氏:ミュンスター地区農業農村関係部   ④Norbert Feldwisch博士:農業土壌調査会社、⑤Hartwig Dolgner氏; NRW州林業局  ⑥Hannes Schimmer博士;ミュンスター地区水利局主幹 、⑦Sebastian Schmidt博士;ミュンスター地区自然保護・景観保全・水産部の7人でした。

 Hamer教授は土壌についての一般的な役割、構造を述べ、ビオトープ保護との関係、他の景観構成要素との重要な関係について説明、Scholz博士は土壌に関する取扱い(ドイツ工業規格=DIN番号19731=1998施行)を説明、土壌を取り扱う工事での重要性を喚起しました。Scholz博士の講演を受けてHeribert Tenspalde氏(ミュンスター地域農業委員)は農業地域においての土壌の重要性、特殊性、独自性について解説し、取り扱いに関する注意点などを説明しました。Feldwisch博士は、土壌保全との関係での土壌除去(次に挙げる報告2参照)を講演し、耕地の土壌の意味、重要性、自然保護(土壌動物=昆虫など)との関係、DINとの関係、土壌の取り扱いと季節などについて解説しました。

 Hertwig Dolgner氏(森林・材木局)は特殊な事例として防火池(Feuerloeschteichen)の創出、維持管理との関係から土壌の取り扱いについて説明しました。昨年2022年は乾燥と大規模な森林火災で十分な消火活動が行えませんでした。そのため人工的な防火池消火栓(溜池)の設置が必要で、その整備に際し樹林伐採と表土取り扱いの問題について触れました。Hannes Schimmer博士(ミュンスター地域水利局担当)は、これまで進められてきた河川の自然再生事業での再自然化事業と土造成(土壌保全と確保)は別物であることと、エムス川の事例(2016-2019建設、2,3km区間で500,000tの土壌移動をした例)を用いて土壌取り扱いの重要点、注意点を解説しました。

Schmidt博士(ミュンスター地区自然保護・景観保全・水産部)はLIFEプログラム;統合LIFEプロジェクト(大西洋砂地景観)の中での自然保護からみた土壌保護について解説。2016年NRW州とNS州協同で進められている「2000年自然;Natura 2000」のEU生物多様性プログラム(このプログラムの中での保護すべき大西洋砂地地域とそこにおける保護地区、15の選ばれた保護地区、大西洋砂地固有の10種との関係)を解説しました。同時に計画実施に際して色々な課題(自然保護と土壌保全、表土とそれ以外の区分、コストの問題、計画の重要性など)について計画(基本~、実施~)での時間と指針の変更の重要性を述べています。

 その後に行われた4つのワークショップでは計画と自然保護指針の理解・取り扱い法について議論されました。

『添付写真』は5枚です。

①IPプロジェクト地;Brachter Wald(自然保護地区)での表土剥離、移動、敷設工事状況

②剥離された表土の仮置き状況;可能な限り早期に再敷設しなければならない。

③FFH地区・Heiliges Meer; Steinfurt郡 での湖畔の低湿地改善工事:低湿地土剥離と堆積土  の撒きだし状況

④湖畔整備工事(表土剥皮・表土積み上げと地形均平化)の状況;カエル特定種(Luronium natans)との関係

⑤IPプロジェクト地;Bockholter Berge(自然保護地区)での表土移動状況(剥被と敷設)Zauneidechse (Lacerta agilis)生息地

 

  ※ 統合LIFEプロジェクト(大西洋砂地景観について):

担当部局:①NRW州政府環境保護・自然保護・交通省、②NS州(ニーダーザクセン州)環境・エネルギー・気候保護省、③プロジェクト管轄は関連地区省ミュンスター地域。プロジェクト全体コンセプトはNRW州自然・環境保護・消費者省とNS州の自然保護・臨海域保護・水収支局、プロジェクト期間は2016年10月~2026年9月まで。費用は16.875.000ユーロ(内60%はEU).

これについての問い合わせ先:www.sandlandschaften.de)

 

 

 ■何処の社会も同じようです。必要で重要な課題に対してどのように対処するかについて、上意下達の流れをスムースに進めるためにはいろいろな段階での情報開示、技術伝達が必要です。ドイツも欧州の先進国として環境保全、自然保護についての施策整備、技術開発、実例試行などで、連邦から州・市町までの各レベルにおける流れを確実にするため多様な研修・講習が進められています。他分野の専門家を呼び、自然保護が対応する(時として適対応する土壌保全と自然資源保護の課題に対してどのように考え、対応し理解を得るか重要になります。 この報告は、講演会・講習会・ワークショップ等を通して、環境保全、自然保護についての考え方、対処方法などを(特に統合IPプロジェクトについて)幅広く各段階の技術者へ浸透させるため開催され、その状況を述べたものです(テーマは表土保全にありますが、その意味、重要性、対応法などについて)。

 我が国でも同様の問題はありますが、残念ながら自然保護に関連する行政担当者は極めて少なく、さらに多部局協働の視点も多くないです。 自然保護地区内での表土保護の現場と再利用状況は見てみたい事例です。(勝野)

 

 

2.Naturschutzfachliche Bodeneingriffe aus Sicht des Bodenschutzes

   (土壌保護の観点からの自然保護のための土壌の取り扱い)

         Bodeh als belebtes Naturgut und schaedliche Bodenveraenderungen im Rahmen von naturschutzfaechlichen Lebensraumoptimierungen (生きた自然素材としての土壌と被害を及ぼす土壌変更;自然保護の視点に立った生物生息域の改善・最適化)

    著者;Dr. Norbert Feldwisch 他1名

    連絡先;n.feldwisch@ingenieurbuero-feldwisch.de

    写真;5枚、図;4枚  【参考】連邦土壌法1,4,7条

自然保護の視点に立った指針では、土壌の保全に対して以下の6つの視点が挙げられます。

①土壌剥皮による土壌量の減少・消失

②土壌への被圧による土壌空隙、土壌中の生存空間(種)の減少・阻害

③表層土と深く関連する土壌中生物の減少・消失

④地域を構成する景観での水分貯留の減少・消失

炭酸ガス(CO2)確保の減少・消失

⑥表層植物剥皮による土壌侵食の危険性とその影響の増大 

 土壌の取り扱いについてはドイツ工業規格(DIN)に示されています。土壌の取り扱い前、後の動きでは各種の特性に準拠し更に自然保護の視点から扱われなければなりません。例えば鉄塔などの建設時には事前に土壌調査することは自明で、表土の重要性から工事開始前から適切に扱われ、事後に表土が再度敷設されても植生が貧栄養の草地(乾燥した砂質草地)からはじまります。土壌の水分調査では1m四方で160m深で行われ、表土剥皮前8.3kg/㎡の炭素、120l/㎡のの水分は事後2.2kg/㎡、100l/㎡に減少し、実に6.1kg/㎡、20l/㎡消失します。1haでは炭素61㌧/㎡、水分205l/㎡が減少(炭素含有量の73%、土壌水分量17%)。

土地利用の形態によって土壌は変わり、耕地では腐植含有量でh3、牧野ではh4です。腐植含有量では耕地で61㌧/ha、牧野では88㌧/haです。土壌中のミミズの役割も示されており、農耕地で30-85g/㎡、300-850kg/ha腐植質を作り出しています。それ以外にも土壌中には多くの昆虫相も見られます。

また、農機具の使用では機械の種類、使い方と土壌の関係でCO2排出量が異なります。

 土壌と自然保護、環境保護との関係では①土壌その物の資源としての保護と②土壌に関連する植生、土壌中の生き物の側面があります。①については連邦土壌法、②については連邦各州の取り決めに倣う必要があります。

 

 土壌の取り扱いについて、ドイツでは表土保護の考え方も実務では厳格かつ詳細に決められており、自然保護地区における土壌の特定目的(土地利用)に対する取扱いは事例を通して明らかにされていると言える。土地利用の在り方の基本に表層土壌(表土)の

重要性が認識されており、ついては生物多様性の考え方の基本となる点でもあり、我が国でも表土の取り扱いに対し、より十分な配慮の必要性が指摘できます(勝野)。

 

 

3.Die Renaturierung der Lippe in Paderborn-Sande

  (パーデルボーン~ザンデ間におけるリッペ川の再自然化事業) 

 Massnahmenumsetzung und erste Entwicklungen (指針・施策の変更と再生事業)

               著者;Dr.Guenter Bockwinkel他3名

               連絡先;guenter.Bockwinkel@nzo de

    写真;10枚、 図;4枚

  この報告は2005年に終了したリッペ湖余水排水事業に繋がる河川自然再生事業に係るものです。リッペ川は砂や礫の堆積する河川でこれまでの河床動態は堆積層にその姿(砂礫層の互層)は良く表れています。この地区の650m幅における広い平坦な堆積地区は歴史的な砂礫層の状況(リッペ川の断面)をよく表しています。NRW州は以前農業用地で利用されていた14haを確保し、2020年後半に関係団体(カヌー協会、釣り協会、自然程団体など)の意見を取りまとめ、次のような再生目標を提示しました。

① 対象地(4ha;遊水地=自然河川型)を自然の状態に近い形で再生する

②河畔の景観・状況を再自然化する

③河川水路の長さ(水辺の距離)を魚類や他の水生生物のための流れとして再生する

④水辺・河畔に棲息する生き物の棲息空間を創出する。 

 それに際して、次のような方針が打ち出されました。

a)河川の長さを長くする。(650mから1200mへ)

b)護岸の固定をさける(コンクリート護岸を遠ざける)。

c)河川・水辺・河畔を複雑な形にし、水溜まり、土手、河原、土砂溜まりを作る

d)自然の水の動きによる岸辺、水際の形を多様にする

e)旧河道部最終地点での擦り合わせ(既存河川との川幅など)

f)工事等による改変の違いが被害として表れないようにする

 大きな流路の蛇行により凡そ6haの区域で河床が低下、100mほど河川幅が広がり、河畔部は年間最低でも65日は冠水・湛水するよう造成されました。それにより、水深変化地区がひろがり、水際と河畔の間に水位変化域が生まれました。また、既存の河川とのつなぎ部分(最終地点)では30mの長さで自然石の袖堰4段(高低差調整の為)を創出、旧河道の特徴ある部分も工事と並行して残しながら整備しています。

 2021年4月初めには当初の計画通りダイナミックな流路形、多様な水辺(水際から河床、河原部まで)が完成しました(航空写真参照)。

 完成と同時に変化に富んだ水際、島状の礫床ではコチドリなどが飛来し、8-10カ所で営巣地を設けましたし、切り立った断面の砂層の岸辺6ヵ所には2012年・カワセミ類の巣穴(凡そ140番)が設けられました。この場所(河川自然再生地区水辺)ではタゲリはじめ10種以上の野鳥の休息・生息(タゲリは繁殖地)が確認されました。

2022年には河川生息鳥類の調査と同時に魚類ほか水生生物、水質調査さらには景観調査が行われています。以下はその中の魚類についての報告です。

 リッペ川の魚類調査はリッペ湖上流部、リッペ湖堰堤部、リッペ川下流部の6地点で行われています(2016-2022年の変化;添付図参照;2022年真ん中のEF1564-01,02が再自然化の水辺)。

砂や礫の多いリッペ川ではこれまで魚類の生息数や種の多様性は低下していましたが、このリッペ湖直下の河川再自然化事業により、それ以前(2016)の水準を大きく改善するところとなり、稚魚や幼魚の数が極度に改善、水質も大変良くなり本事業・手法の意義が大きく示されています。

 

■ 既に20世紀後半から、ドイツ各州・各河川で色々再自然化事業が進められてきています。NRW州でも機関誌19に見られる、エムシャー川のライン川合流域における再自然化事業の報告もあります(19-2)。いろいろな条件、状況下での事例を積み重ね(行政の中での多様な取り組み)、担当部局枠にとらわれず生物多様性や生態的技術の積み重ね、理解の浸透が着々と進められて来ていることは、緑地環境整備、自然復元事業など造園に携わる者として羨ましい状況と言えます(勝野)。

 

 

4.Rueckenwind fuer herausragende Arten der FFH- und Vogelschutzrichtlinie

  (FFH地域・鳥類保護指針における特定種にとっての追い風)

      Der Life-Projekt "Siegerlaender Kultur-und Naturlandschaften"(文化的景観・自然景   観の優秀州におけるライフプロジェクト)

         著者;Prof. Dr.Jasmin MantillaーContreras 他3名

    連絡先;j.mantilla@biostation-siwi.de

    写真;14枚、図;1枚、表;1枚

  プロジェクト地区はBurbachと Neunkirchenに拡がる4.700haに及ぶ鳥類自然保護地(7つのFFH地域と27ヵ所の自然保護地;3州*ヘッセン、ラインランドプファルツ、NRW.にまたがる地域)です。この地域は①地域種、②国内種、③国際種の枠組みで危機に瀕する種がいる地域で、6年にわたる調査期間(2022-2027)で種の動態を調べます。

 調査の目的は、異なった生息域(樹林域、草原域など)をもつ7種の鳥類の生息状況

を9つの異なった棲息域タイプ=立地と関連して明らかにすることです。プロジェクトには7つの重要な施策(Massnahmen)があります。

  ①粗放的管理の牧野(355ha)における保全、再生

  ②針葉樹林から粗放的管理の牧野への変更(35ha)

  ③落葉混交樹林の定着(50ha)

  ④低木叢林・荒れた高草丈群の改善(6ha)

  ⑤旧い樹叢・樹林(50ha)と営巣木(100ha で100本)の保護

  ⑥施業林の保全(60ha)

  ⑦希少になった地域固有種(Goldener Scheckenfalter)の再生

森林の対応

鳥類保護地区Burbach-Neuenkirchenの70%は樹林地で、内46%しか広葉樹林がありません。樹林のおよそ半分がトウヒの針葉樹林(Picea abies)です。この地区で最初に50haで樹種変更(針葉樹から広葉樹林へ)、ここには3haのハンノキ(Schwarzerlen;Alnus glutinosa)

があり、FFH地でハンノキ・トネリコ林に定されました(1,5%)。同時に2.782本の営巣木が決められ200本ほどの巨木が含まれています。全体の中では50haに及ぶ森林が古木林に指定・保護されました。同時に施業形態もこれまでの伝統的な施業方式が求められ、かつ施業林としても活用(燃料や用材など)される形態が残されています。

開放地・牧野の対応

 この地域の樹林地と併存する牧野(刈り取りー、放牧牧野)は中山間地の野生生物生息空間としても重要であり、特に鳥類にとっては広葉樹林同様牧野は大きな意味を持っています。ここでは35haのトウヒ林を粗放管理の牧野にすることとし、最初の年に30haを伐開、牧野に変更し特徴ある鳥類(Braunkehlchen、Wachtelkoenig; Crex crexなど)の棲息を可能にしました。また、2023年から放棄された高草丈草本の荒地4haを、野生草花の咲く草地に転換、野鳥の棲息する草地へと変更しています。この間、当然の如くこれまでの樹林関係者と鳥類保護、自然保護の担当者とのプロジェクトに対する共通の理解と協力が必要になります。それによりこれまで見られなかった昆虫類(Blaunschillernde Feuerfakterや  Goldene Scheckenfalterなど)が出現して来ています。

目的種Braunkehlchen(Bk)の動態

NRW州の40%におよぶB.k.の生息域は隣接州と同時にBkの重要な地域で、20年にわたってその状況が捉えられいます。この地域の鳥類保護地区の意義はBkの棲息(開かれた草地と刈り取り時期)とも関係しています。

存続が不明の絶滅危惧種Blauschillernder Feuerfalter;BF.)

ここで問題としているBFはドイツでも特殊な地区にしか生息しない希少な蝶類でNRW州内でも2005年、5ケ所位しか見られていません。いずれも湿性の粗放管理草地でFFH地区でも2地区だけです。植生も特殊で粗放的管理(極めて粗雑な草管理)の草地(Pfeifengras Streuwiesen、Schlangen-Knoeterichs  ; Bistorta officinalis)でしか見つかっていません。この地域では2022年夏に100頭あまりが確認されたにすぎません。湿性疎管理草地でハンノキ林のある場所が適地とされています。

Goldener Scheckenfalter;G.S.の再生

2015年にプロジェクト地区での対象種となったGS。2022年に生息域がFFH地域に組み込まれ、増殖が繫殖家により計られています。食相の野生草(Succisa pratensis)も確認されています。

今後の計画

 2023年からトウヒ林が色々な広葉樹主体の樹林へ変えられ、秋には1.5haのポプラ林を伐採、ハンノキ林へ変更、FFH地域の古木樹林は標識表示し、FFH樹林の見本林(デモンストレーション林)を開設します。草地では2023年夏から刈り取り草地を設け2024年春から牧野として維持します。生息する野鳥、蝶類の表示板を付け、2023年秋から草地は適正に管理されます。

 

 広大な面積の農林業用地を買収して野生生物の復元、再生を目指して進められる欧州のFFH地域(植物種、動物種及びその生息域)整備・拡大を、野鳥を真ん中に据えて進めている報告は興味ある対応手法です。施業林を広葉樹林へ変え、営巣木を保護し、刈り取り牧野を再生拡大し、野生草花や野生動物の棲息を確実にする息の長い試みに感心します。他の報告同様、着実なデータづくり、集積、行政的対応や既存の見方の変更には、本来のあるべき姿が見られます。(勝野)

 

 

5.Neue Fachinmormationen aus dem Biodiversitaetsmonitoring in NRW

  (NRW州における生物多様性モニタリングから見た新たな専門情報) 

Monitoring als Wissensbasis fuer den Schutz der biologischen Vielfalt (生物多様性保護のための新知識・モニタリング)

    著者;Juliane Ruehl 他4名

    連絡先;juliane.ruehl@lanuv.nrw.de

    写真;5枚、図;12枚

  種や生息域の長期にわたる調査は生物多様性を実のあるものにするために極めて重要です。NRW州では担当部署(自然・環境保護・消費者保護庁)が多様性モニタリングの施策の中で生物多様性の現状を把握しています。結果はNRW生物多様性モニタリングデータとして公表されています。この調査は州全土での長期にわたる生態的抜き取り調査で、現在の各種土地利用状況と合わせ保護地を見ています。1997年以降、この調査は191ヵ所で進められ、各種のカテゴリー別に示されてきています。2017年にNRW州の「生物多様性モニタリング」が公表され、人口密度と絶滅危惧種・希少鳥類の棲息状況との関係、2023年2月には、さらに詳しく示されています。また、鳥類種ごとの植生や生息空間との関係も示されます。これにより州全体での状況、動態が分かりますし、さらに絶滅危惧種と人口密度や人口動態との関係と合わせ捉えられています。これまでの調査でKiebitz(タゲリの仲間)の生息域は2002年以来75%減少、低下しています。

 交通網の整備と連動して増加している種、また逆に植物種が減少している地域が明確に示されてきています。さらに農業地域でも農業の在り方と関連し地域内の植物種の減少(2006年以降)が顕著(2021年では69%の減少)であり、それは保護施策例えば耕地畑縁辺部、耕地畑野生種生育地創出など)により20%の減少に留まっている例も示されています。

それは樹林地(森林)においても同様で施業林種から落葉広葉樹への変更(49%;2006 →55%;2021)にも見られます。FFH地区内での適用も大きな効果を示しています。

 

 この報告はNRW州における土地利用変化と自然保護の対象(動植物、生物生息域など)の20年間にわたる変化の状況についてのものです。この間、FFH地域の設定、関連土地利用と自然保護との対応関係、対処法など、色々な取り組みとの関係を州内でのモニタリング=生態的抜き取り調査との関係・結果を述べています。これまでの調査結果と同様、今後の調査との比較検討により、さらに具体的かつ充実した保護・保全の施策が州として示されると思われます(勝野)。

 

.Asiatische Hornisse melden! (アジア系ハチの報告)

Herkunft, Verbreitung, Invasitaet(その由来、生息域拡大、侵入)

          著者;Caris Michels

    連絡先;carla. michels@lanuv.nrw.de

            写真;6枚、図;1枚、表;1枚

   このハチ(Vespa velutina nigrithorax;アジアモンスズメバチ)の急激な生息域拡大は在来種・ヨーロッパ種(Vespa crabro;ヨーロッパモンスズメバチ)の棲息を脅かすものであり、外来種に関する情報は近々大変重要になって来ています。

 この種(V.v.n.)の生息域は河畔域や市街地縁辺部、高さ200m程で蜂をはじめ昆虫類を捕食しており、西は南フランスから隣接国に拡大(2004)、ベルギー、オランダさらにドイツのラインランド地方に拡大、2020年にはオランダ国境域、ハイネスベルグ郡、2022年にはNRW州にも巣が見つかっています。獲物の80%はミツバチであるため今後の対応が求められています。巣を見つけ出すことと巣の除去はなかなか難しく、50km/年の速度でさらに北上、東へ拡大すると予測されます。

 問題となるハチ(V.v.n)は庭先の小屋、家畜舎などの軒先庇裏などに夏、巣を作り

大きさは直径30cmほどになり、巣の上部に侵入口を設けます。夏の終わり頃、蜂数は2000-2500匹ほどになり、新しい女王バチの出現(秋;10-12月頃)により巣を離れ新しい場所に次の春までに働きバチを見つけ巣をつくります。

この蜂を発見した場合、当該の自然保護部局へ連絡し、発見場所、飛来方向、巣の在処

などを探し駆除されます。

 地球温暖化?などにより外来種の拡大はスズメバチ類まで及びつつあり、外来種(V.v.n.)は在来種のみならず他の昆虫類の棲息にも影響を及ぼすと考えられ、その対応が急を要しています。その生息状況把握には住民の協力が必要であり、この報告では、外来種(V.v.n.)蜂の形態、生育特性、生息情報などが取り上げられています(勝野)。

 

 

◆◆今号の特徴は「土壌」、なかでも最も重要な表層土壌(栄養分を含んだ;Mutterboden)です。緯度の高いドイツ、しかも地史的にも古いヨーロッパでは表層土壌は極めて重要です。特に生物多様性のこの時代、表層土壌に含まれる有機物は生物の生息に少なからぬ影響を及ぼしています。緯度が高くなればなるほど(国内で北へ行くほど)有機質を含む表土の持つ意味は大きいものがあります。土地の取り扱いに際して、この表土が持つ意味は土地の生産性、潜在力の点からも大きく、その取り扱いには十分な配慮が必要です。土地の潜在力維持のために表土を確保し、また表土の潜在力を活かして自然の営力を維持するため(例えば自然復元など)どのようにするか、事例を通して検討しています(勝野)。

 

 

 

 

高齢者自動車講習に思う

  今年の秋、私も79歳になります。我が国では75歳以上の後期高齢者になると、自動車免許証の更新に当たって、決められた講習会を受講しなければなりません。今年の秋の誕生日に、車の免許証の書き換えをしなければならず、先日その講習会の案内が来て9月1日、受けてきました。3年に1回の書き換えで、これまでに2回(2017,2020年)この講習会を受けてきました。

 実技講習に先立って認知機能テスト、視力テストが実施されます。認知機能テストは4つの図柄が描かれた用紙を4種類見せられた後、それに関する認知度を試すものです。16の図柄を全部最後まで覚えているかどうかのテストです。また、その図柄を種類別に1個書き出すものもありました(高齢者講習でデータを集めているのであれば認知機能テストや視力テストの結果と自動車事故の関係を統計的に分析し詳細に示されるべきでしょう)。 

 良くしたもので本屋にはこの手のテスト対策用の本が売りに出されています。人は誰でもテストと名の付くものであれば結果を気にするものです。今日的社会では、高齢者にとって交通機関が整った都市部であっても免許証は日常生活上欠くことのできないもの(まして交通インフラの整わない地方都市や農山村居住者にとって)です。さらに高齢者の増大と高齢化に伴い、年を追うごとに自動車免許証の更新人口は多くなり、かつ重要になって来ています。高齢者人口;65歳以上;は3627万人(2022.9.15現)男1574万人、女2053万人です。2025年には80歳以上は1331万人、国民の10.9%になります。後期高齢者数は増加の一方です。今後も高齢者は社会での役割が重要になるでしょう。

 

 1-1.5時間の検査、小テストの後、教習所所内のコースで実技講習が行われます。所定(講習指導者が決めた)のコースを巡回し検査指導します。以前はS字カーブや車庫入れ、坂道発進、幅寄せ等が課せられていましたが最近では省略されているようで、今回の講習会ではありませんでした(これこそが後期高齢者にとって重要と思われますが)。高齢者の増大と教習所の経営維持管理の関係上、簡素化はやむを得ないのでしょうか。

 

終了後、「運転免許取得者等教育(高齢者講習同等)終了証明書」、「認定認知機能検査結果通書」が発行され、事前の運転免許証更新手続きが終了しました。この後は最寄りの警察署から更新手続きの連絡があり、手続きを行って新たな3年間の免許証が交付されることになります。

 次は3年後2026年、82歳。恙なく更新が出来るでしょうか?何にもまして安全運転が大切です。

 

 

 

海外雑誌での研究  20-1

 時間は確実に流れていますね。7月に入り梅雨が間もなく空けそうですが、ドイツの定期専門雑誌「Natur in NRW」の2号(2023)が6月末に、手元にやってきました。

 1号の翻訳が済んでから2か月です(私の生活を追いかけるように)。毎号恒例の内容と同様に、20-1ではその概要(表題・副題、著者と連絡先)を明らかにしておきたいと思います。詳しくは20-2に示します。地球誕生から大変長い時間が過ぎ、生物の発生・消失・消滅、発展、種の発展から人間の出現、そして現在、病んだ地球の時代ともいえます。生物多様性の重要性が一層高まる中、各国、および共同体の進むべき方向はいかにあるべきか、熟慮する必要があります。今回のテーマは土壌(全ての有機物の基本ともいえる)、EUの一貫した環境に対応するテーマに基づいたプログラムの状況を明らかにしています。その方向性と着実な成果の積み上げには見習うべきものがあると思います。

 

1.Bodenschutz bei Naturschutzmassnahmen

         (自然保護指針・施策における土壌保護)

         Bericht von der Fachtagung mit Workshop zur Entnahme und Verwertung von Bodenmaterial bei Naturschutzmassnahmen (ワークショップ形式による専門家会議の報告;    

(自然保護指針・施策における土壌等の除去と再利用)

    著者;Dr. Martina Raffel 他3名

    連絡先;martina.raffel@brms.nrw.de

 ◆NRW州自然・環境保護アカデミーと共同で進められている統合LIFEプロジェクト(大西洋砂地景観について)が既に3回行われており、 この報告は、2023年2月9日、「自然保護指針・施策における土壌保全・保護」に関するテーマで行われ、既に適正な先進事例である自然保護の視点に立った生物生息空間改善、種保護から見た水資源施設、再自然化事業について述べています。

 

2.Naturschutzfachliche Bodeneingriffe aus Sicht des Bodenschutzes

   (土壌保護の観点にたった自然保護のための土壌介入)

         Bodeh als belebtes Naturgut und schaedliche Bodenveraenderungen im Rahmen von naturschutzfaechlichen Lebensraumoptimierungen (生きた自然素材としての土壌及び被害を及ぼす土壌改変;自然保護の視点に立った生物生息域空間の改善・最適化)

    著者;Dr. Norbert Feldwisch 他1名

    連絡先;n.feldwisch@ingenieurbuero-feldwisch.de

 

3.Die Renaturierung der Lippe in Paderborn-Sande

  (パーデルボーン・ザンデ間におけるリッペ川の再自然化事業) 

 Massnahmenumsetzung und erste Entwicklungen (指針・施策の変更と再生事業)

               著者;Dr.Guenter Bockwinkel他3名

               連絡先;guenter.Bockwinkel@nzo de

 ◆リッペ湖に隣接した地区(ザンデ市)に新たに河道再生(自然再生と多目的貯水)の再自然化事業について述べたものです。リッペ川旧河道域を蛇行させ、多様な水辺を創出(リッペ湖畔)した事業の報告です。

 

4.Rueckenwind fuer herausragende Arten der FFH- und Vogelschutzrichtlinie

  (FFH地域・鳥類保護指針における特定種にとっての追い風)

      Der Life-Projekt "Siegerlaender Kultur-und Naturlandschaften"(文化的景観・自然景   観におけるライフプロジェクト)     

  著者;Prof. Dr.Jasmin MantillaーContreras 他3名 

  連絡先;j.mantilla@biostation-siwi.de

◆特長的な文化景観、自然景観を持つ地域における(牧草地景観=自然保護種保護、施業林の昔の景観復元;自然再生地確保と保全・修復の事例についての報告です。

 

5.Neue Fachinmormationen aus dem Biodiversitaetsmonitoring in NRW

  (NRW州における生物多様性モニタリングから見た新たな専門情報) 

Monitoring als Wissensbasis fuer den Schutz der biologischen Vielfalt

  (生物多様性保護のための新知識・モニタリング)

    著者;Juliane Ruehl 他4名

    連絡先;juliane.ruehl@lanuv.nrw.de

 ◆NRW州における2000~2020年の間の生物多様性に関するデータの集積と種の動向、その間に取られた施策との関係についてモニタリング結果に基づいて報告しています。

 

6.Asiatische Hornisse melden! (アジア系ハチの報告)

Herkunft, Verbreitung, Invasitaet(その由来、生息域拡大、侵入)

          著者;Caris Michels

    連絡先;carla. michels@lanuv.nrw.de

 ◆スズメバチ(欧州型;Vespa crabro とアジア型;Vespa veltina nigrithorax)について、その生息域、侵入拡大状況などについての報告です。 

 

 

 今号の特徴は「土壌」、なかでも最も重要な表層土壌(栄養分を含んだ;Mutterboden)です。緯度の高いドイツ、しかも地史的にも古いヨーロッパでは表層土壌は極めて重要です。特に生物多様性のこの時代、表層土壌に含まれる有機物は生物の生息に少なからぬ影響を及ぼしています。緯度が高くなればなるほど(国内で北へ行くほど)有機質を含む表土の持つ意味は大きいものがあります。土地の取り扱いに際して、この表土が持つ意味は土地の生産性、潜在力の点からも大きく、その取り扱いには十分な配慮が必要です。土地の潜在力維持のために表土を確保し、また表土の潜在力を活かして自然の営力を維持するため(例えば自然復元など)どのようにするか、事例を通して検討しています。 各方面・分野で土壌に関連する課題は多く、農業の在り方と土壌(耕地、牧草地、森林)、水収支(水辺再生における土壌、消火湖沼創出)などの関連事業でも表土についていろいろ配慮され、事例を積み重ねています。これはその報告です。

 また、州における生物多様性モニタリングに関する各種のデータ集積と分析ならびにドイツNRW州におけるスズメバチ(ヨーロッパ種とアジア種)の最近の動向についての報告もあります。(勝野)

 

 

 

 

住み慣れて50年、家周りの大木の歴史

 庭の樹木もそのまま成長すれば、50年経てば家の屋根を越えて聳えてしまいます。そうなればとても素人庭師では手に負える代物ではありません。常緑樹だと冬、日陰が大きくなるし、落葉樹ですと落ち葉が隣近所の庭や家の樋に降ってしまいます。

大きくなればなるほど、その被害予想は広くなるのです。だから、定期的に枝降ろしをしなければなりません。家のベランダから身を乗り出して樹木に関われる程度なら、まだ少し枝降ろしも出来ますが。幹や枝が二階家の屋根庇をはるかに超える高さまで達したらもう、家の2階窓からでも手の施しようが無いのです。

 2009年6月14日、17日。千葉の山採りのヤマザクラ。30年余に亙って、家の玄関先、狭い場所で幼木から大きく育ってきました。6-7mに成ったでしょうか。根元からヒコバエが2本出てきました。これを契機に初代ヤマザクラは根元近くで伐採したのです(添付写真参照;この時でも地際直径で20cmでした)。

 2011年4月6日には、ひこばえのヤマザクラの隣で、大きく育ち過ぎたブナかっての勤め先、大学の先生から頂いたブナの盆栽を地に下ろし自由に成育させた)が見事に大木に成長し、7-8m程になってしまいました。止む無く造園業者の専門家に依頼し、高所作業車を使って伐採しました。ブナは地に下ろした最初から、カミキリムシの餌食になり、幹の中心部を食われてしまいました。ブナの本体はどうやらカミキリムシにやられながらも大きく太くなり、幹中心部の一部は枯損しましたが今も成長し続け、枯れた部分を被覆するが如く成長組織が幹回りを繋ぐようになって来ています。後、数年で樹皮は繋がるでしょう(今はその名残りで芯部分は枯死しています)。

 

 事程左様に人の寿命の限界を超えて成長続ける樹木たち、今後どうなりますやら。齢80歳近くなり(私、来年80歳になります)これ以上、樹上で作業はできないでしょう。

そうなる前に枝を整理し樹高を低く抑えなければならないでしょうね。

 

 

 

 

 

住み慣れて50年・家の緑は今

 


樹木の生長を見るには樹木の高さや幹の太さを計ります。樹木の太さは地際の太さ(地際直径、地際円周)であったり、人間の目の高さの太さ(目通り直径、目通り円周)であったりします。

 緑の計画や設計・施工に携わる者としては、なかなか厄介な問題でもあります。大学で造園学や生物学を学んだ者としては、植物(樹木も含め)は全て日々成長を続ける生き物、日々の環境に応じて生(=成長~枯死に至る)を発揮し遅速の違いはあっても留まることはありません。植物の分類で草本類に一年草、二年草、多年草があり、樹木にも成長量や成長速度に違いがあり、それは夫々の用途と関係してきます。

 造園、緑地計画ではデザインや用途により草花をはじめ多くの樹木が使用されます。そのデザインの内で、空間デザインと並び植栽デザインは特徴ある雰囲気を作り出すために、その材料となる樹木類に関する知識が重要となります。

 時間と空間を考え、さらにその空間の使われ方や雰囲気づくりの材料となる樹木は長い時間を持った、要する物でもあります。

 植栽を行うときに空間デザインの最終形(景=完成形)が求められる場合もあれば、時間をかけて育て、作り出したいと考える場合もあります。たいていの場合は前者①で、後者②は個人的な考え方、主張に因る場合が少なくありません。

 ①の計画図では完成形に沿って植物の種類や量が決められ、それに沿って金額が積算され工事費が決められます。建設整備が進み竣工時が完成形であれば、外部空間の緑もその形が求められます。大きな樹木や大きな根株が要る樹木等には、それ相応の広さ・深さの場所が必要です。

 そうでない場合(個人の意向で「みどり」を育てる)、樹木などは苗木が植栽されるでしょう。1m程度以下の苗木を植栽し、時間をかけて育て、緑を充実させていく方法もあるでしょう。

 

 我が家の、取るに足らない狭い外部空間(隣接境まで1mも無い敷地)で緑を充実させるためには、建物竣工当初から大きな緑を作ることはできません。限られたわずかな場所に苗木を植え、育てることで緑を豊かにする以外に方法はありません。

接道部や隣地の堺は生け垣や蔓植物を使う方法があります。いずれにしろ目を行き届かせて成長を見守り、育成管理していくことが求められます。我が家の庭の変遷を見てみましょう。

 

 今、庭の樹木で樹高 3m以上ある木の根元の太さを計りました(いずれも地際直径)。

 ヤマザクラ:22cm ヒメシャラ:16cm アラカシ:20cm、24cm ブナ:19cm、22cm

 クヌギ:23cm  キンモクセイ:25cm  (目通り直径ではこれ以下ですが)

 

 4mを越えて成長する樹木は先端部を切断する(主幹や徒長枝、新梢など)か枝降ろし、整枝剪定を毎年行うことが必要となります。これまで年甲斐も無く樹木に登り枝降ろし、整枝剪定をしてきました。でも、昨年から寄る年波に勝てず、身の安全のため目下自重気味です。写真は75歳以前の樹上での作業姿です(笑)。

1977年に柿生駅近くで宅地を入手(丁度、建売住宅の土台を作っていました)し、少し家の内容を変更し建てました。同時に家が立ち上がるのを待って周りの部分「にわ」に植栽をしました(写真参照)。どれも小さな苗木ばかりです。  それが50年経って、、、、

 

新旧の写真を比較して1977年に植栽した苗木は、ヒメシャラ、ドウダンツツジ、記念に頂いたブナの盆栽、以後は、ただただ成長を見守るだけでした。うち、ブナの盆栽は「窮屈な鉢での有り様=丈20cm程度」にいたたまれず、「地」に下ろしました。それが今では、、、、

ヤマザクラは2代目です。初代は1980年頃、野外調査地・千葉の雑木林から長さ30cm位の幼木を持ち帰り植えました。場所に合ったのか他のコナラ同様大きく成長し庭や私道部を覆うほど成長、(隣家から落ち葉や落ち葉焚きの苦情を受け)止む無く根際から切り倒しました。そうしたら、目論見通り、ひこばえ(新梢)が出て現在の姿になっております。数年前より春、楚々としたヤマザクラの花が咲いています。一昨年には家の壁の傍で大きくなった(6m位)クヌギを卒業生・宍倉君に切ってもらいました。これも次の春、根元付近から沢山の萌芽があり、枝方向と勢いを見ながら枝を整理しています(もう3mほどにまで達しています)。角地に植えましたキンモクセイも昨年、1/2位までに幹・枝を切り詰めました。

 これら以外にもコブシなど2-30cmの幼木を植えたところ今では3m程になり季節の花を咲かせています。こちらも数年後には地際で切ることになるでしょうね。

 

自分自身が今後、どれくらい長生きできるか分かりませんが、生きてる間はいろいろ考えて樹木の生長を見ながら伸びすぎないよう切り詰めしなければなりません。この世からおさらばしたら庭はどうなるか、樹木はどうなるか、誰も知りません(後の人が考えてください)。



 

 

 

 

 

 

あれから50年

 1973年6月4日。あれからもうすぐ50年になります。生まれて初めてジャンボジェット機;B747に乗って外国へ留学した日です。50年の年月の流れの中で当時の模様を紐解いてみたくなりました。

 

  飛び立つ日に先立つこと1年前(1972年)の秋、以前に試みたドイツ留学生試験を再度受験しました。2回目にはドイツの大学、国立研究所の関係教授や所長の方々(⁂後述)からの推薦書、留学快諾書などを頂けるように手配し受験しました。その結果、1973-74年度の  DAAD

(DeutschAkademischeAustauschDienst)ドイツ交換留学生協会試験に合格内定し、1973年4月21日、最終合格通知を受けました。

 

 出発の日、生まれ故郷(岐阜・池田町)から東京見物を兼ねて父や家族(兄弟、姉一家;子連れで)が見送りに来てくれました(弟が銀行の東京支店に勤務していた)が日大や東大の研究室関係者(現役生、卒業生など)の見送りも多く、家族と身近に親しく話す余裕も無く旅立ちの別れも慌ただしく過ぎました(同じDAAD留学生の合同出発式*も忘れ、一足先にチェックイン)。

 出発ロビー(搭乗前)には日大学部から蒲原務教授、丸田頼一先生、横山光雄教授の奥様、日大造園研究室の3-4年生・院生、東大の園二研の友人・知人、関係者など「祈・健闘」の幟の下、多くの人の見送りを受けました。その中に、何と東大園芸第二研時代の友人(先日,突然亡くなった大の親友、横断幕「祈・健闘」の片端を握った井上康平君の姿がありました)も見送ってくれていました。合掌。

今にして思えば周りのあんな人にも、こんな人にも(多くの人達が)感謝・感謝,、感謝に耐えません。

 

 出発式の場では、各留学生の滞在日程(語学研修場所・ゲーテインスチチュート、滞在都市、語学研修組一覧、ドイツまでの飛行ルート、経由地・時間、最終地フランクフルト到着時間、語学研修地までの旅程・時間など)の資料が配られたようです。早とちりと何せ初めてで勝手が分からず、そのままで機内の留学生になったのでした(お恥ずかしい話ですが機内で同じ語学研修地(南ドイツ・ウルムに近いブラウボイレン町)に行く奨学生から旅程の全てを教えてもらった次第です)。

 

 留学生専用機(?係留地の国のDAAD奨学生が乗り込んだので)は6月4日15:50に羽田空港を離陸、夜の香港(20:00/21:00=日本時間以下同じ)、バンコク(23:40/0:45)、デーリー(4:30・5:30)を経由、翌朝(まだ4日)アテネ(12:10/13:10)を経由してフランクフルト飛行場(15:55=現地時間朝の8:00)に早朝、到着しました。

 機内では、何しろ初めてなので機内の様子(食事や機内の様子、B-747の構造、時間)など事細かに記録し、色々な物を記念に収集し鞄に詰め込んでいました。ドイツからの便りに絵葉書や便箋を使いました。

 

 当時、私は日本大学獣医学部の教員(助手;昭和46年4月)採用後3年目の年でした。私学の1学部(農学系)の教員がドイツ政府の奨学生になること自体が珍しく稀有であったため、学部からも全面的支援でこの留学・海外出張を支えて頂けました(留学支度金補助、在勤のままの資格で留学海外出張扱いなど、感謝するばかりでした)。

 

 

 今、私は78歳、日本大学を離れてから既に8年経過しています。令和2年(2020)に研究室創設50周年を迎えましたが、折しも丁度コロナの世界的大流行(コロナヴィールスの猛威の世界的拡大)により人の集まる式典は全て中止・延期されてしまいました。

 その延期になっていました研究室創設50周年記念祝賀会が、この留学50年後の年(2023)と重なったことも何か因縁のようにも感じています。 

 

 半世紀の後に、こんなエッセーを書くとは.........。これまで、友の死を聞くたびに我が身の先をなんとなく感じ考えるようになりましたが・・・・・・往時の事を記すのも歳の精かも。

(ドイツ滞在・留学記はいずれまた.......)

 

当時、お世話になったドイツの先生方(1973-4年時):

⁂Prof.Dr. Konrad Buchwald (ハノーファー工科大学教授;景観保全・緑地生態学研究室)

   Prof.Dr. Gerhart Olschowy (連邦植生・自然保護研究所所長、ボン大学教授)

   Dr. Hans F. Werkmeister  (ドイツ造園学会 会長、国際造園学会会長)

   Prof.Dr. Wolfgang Haber  (ミュンヘン工科大学教授、景観生態・自然保護研究室)

 

海外雑誌での研究  19-2

1)Zwei Jahre LIFE-Projekt Wiesenvoegel NRW  ;  Projektbausteine und erste Umsetzungen

  ノルトランウエストワーレン州における湿地鳥類;Lifeプロジェクト2年・調査の基盤と最初の変化  

  著者: Ina Bruening他1名、 連絡先:  ina.bruening@lanuv.nrw.de

       写真11枚 図2枚

  この報告はNRW州に広がるシギ類の鳥類保護地域、湿性牧野、湿地、湿原の保全、再生について述べています。LIFEープロジェクト(草地棲息繁殖鳥類プロジェクト)は2020年秋にスタートしました。このプロジェクトは欧州委員会EU-Kommission)とNRW州が推進し、湿性牧野、湿性草地で生息・営巣・繁殖する鳥類の保護・保全状況をより良くするためのものです。ここ数十年の間に北ドイツ低地にある、この種の生息地である湿性草地は、大面積にわたって消失しています。NRW州北部低地に数多くある欧州鳥類保護地域はより高く評価されてきており、最初の保護指針(Massnahmen)が近く実行に移されます。

 この指針は2020年にスタートし2027年まで、州内の8ヵ所の欧州鳥類保護地域で続きます。対象鳥類はガン・カモ科、各種シギ類、カササギ類、干潟に生息する鳥類などです。

対応する各種の施策は、

1) 用地買収 2)水利施策による水収支最適化(水面確保、水位調整のため)3)粗放的牧野利用の拡大 4)卵保護に関しての関連部局の連携構築 5)卵保護のための措置、狩猟によるキツネ・アライグマなど卵を狙う動物の排除、6)種減少の情報と公開 などです。

棲息する草地の管理で、草丈が高くならないように、平坦な場所や広い低草丈地、湿地、水辺の維持が重要です。保護地8地区の内に29ヵ所の施策対象地のほか、42ヵ所の水辺を再生、7,635mに及ぶ長い水路と水辺、15,890mに及ぶ長い接続水路を生み出しています。

同時に11カ所の小規模水辺、75ヵ所の池畔を設けています。施策の中では水位調節でソーラーエネルギを使ったり、牧野の中の樹木を取り除いたり、キツネやアライグマ対策の電柵を設けたり、必要な場合には狩猟専門家により狩猟をしたり、草地創出では地元種を用いたりし、2021年の報告では1600ha、21の施策が8地区の保護地内で行われています。

 捕食動物管理については目下特段の解決方法は無く、キツネ、アライグマ、イノシシなどによる雛の被害は明らかではありません。LIFE-プロジェクトでは主要繁殖地でのキツネ、アライグマに対する電気柵使用での方法しか挙げられていません。

 タゲリの仲間(Kiebitz:Vanellus vanellus)やシギ類の保護については関係部局の協働がLIFE-プロジェクトの中で強く望まれています。同時に各種のモニタリングの必要性も指摘されており、湿性牧野の所有者(農家)への指導、繁殖期の利用制限などが必要です。

 モニタリングでは、タゲリの仲間(Kiebitz:Vanellus vanellus)やシギ類の保護に当たってこのプロジェクトでは繁殖期、繁殖地の巣に150台のカメラが設置されました。調査開始年(2020)には、柵を設置して孵化の効果があり、シギ類では91%(柵なし44%)、タゲリの仲間では100%(無し53%)の効果が示されています。野鳥の休憩地としての年2回の調査(春2-3月、夏8-9月;シギ類、ガンカモ類調査)でもよい結果が得られています。

 最初の年に地域改修事業が、リッペ川畔(ゾエースト郡;ハムーリッペシュタット)の鳥類保護地区(40ha)で行われました。河畔の低湿地農地の土手を切り開き(5ヵ所)リッペ川増水による水が滞水(40日滞水)し、自然の湿性牧野となります。その中では、3ヵ所の水深が浅い浅水地を再生、9000㌧の土砂の移動(浚渫、盛土)がされました。次の年にはガンカモ類の休息地となり10種以上のカモ類、16種以上の干潟鳥類が訪れています。タゲリやセキレイの仲間、カモ類は繁殖地となっています。同時に両生類、トンボ類の生息地にもなっていますし、植生的にも湿性植物、河畔・水辺植物の生育地となっています。牧野としては6月から営巣繫殖終了まで刈り取り管理され、他の半年は放牧牧野で利用されます。

 シュタインホルスト低湿自然保護地区ではLIFE-プロジェクトの下で2022年冬季に生息域最適化改修(Lebensraumoptimierung)が実施されました。既にこの河川流域では1970年から1980年頃までに洪水対策として遊水池の整備が行われ、80haの河畔湿地が作られ(砂利の島、浅水域、湿性牧野、土手など含む)30年に及ぶ両生類や河畔植生の保護地でもあり、現在でも7500㎡低湿地はカモ類や水辺鳥類の生息地です。

■;この報告では、自然復元・保護に関わる関連部局、団体、個人のプログラム参加への理解と着実かつ息の長い活動の重要性が分かります。ともすると1機関、1部局の施策、事業、対策で終始しそうな(日本では今日もまだその域をでない)状況をいち早く協働で推進し着実にデータを収集し、これまでの施工手順、技術、結果を検討し、新たな今日的プロジェクト、広域圏(国際的、地球規模的)対応を生み出し進めてきています。国際化、地球的規模の時代として、国、州のあるべき姿を考えさせられる事例です(勝野)。

 

 

2)Eine neue Muendung fuer die Emscher ; Ein wesentlicher Baustein zur Entwicklung   der Emscher   

  エムシャー川の新たな合流域 ;エムシャー川発展に関する重要な要素

  著者: Mechthild Semrau他2名、連絡先: semrau.mechthild@eglv.de

  写真4枚 図1枚

 ルール工業地帯を東西に流れるエムシャー川の河口、ライン川との合流域の河川改修・自然再生についての報告です。この改修合流域は2022年11月初めに完成・公開されています。それに先立つ1年前(2021年末)にマイルストーン(距離標)が設置され1年後の完成でした。ここに至るまでの歴史で見ればエムシャー川流域は、ルール地域の石炭採掘、工業用地、住宅群などで一大工業地域となり(凡そ180年の歩みで、19世紀には重工業地域に発達)エムシャー川流域は洪水対策(河川氾濫、浸水など)が問題化、1899年にはエムシャー川河川組合(Emschergenossenschaft)が発足、問題の解決に当たりました。炭鉱・鉱山は北部に向かって地中深く進み、同時に工場排水が問題化、1980年代後半には排水路が設けられ、1991年に同組合はエムシャー川の水システムの大々的な改変(空間的対応=水質浄化場、排水路新設などの整備)を行って来ています。この全体整備にこれまで5.5千万ユーロかけてきています。

 ここでの合流域整備には流域圏での生態的視点が主要となっています。水利、土木工学と生態的技術の適合を計り、河川水利と生態的技術の融合を図って、地域且つ欧州の代表的河川合流域改修を目指しています。この地は国際河川ライン川下流域にあたり自然資源価値の高い動植物の生息・成育が見られる地区です。

次の4項目が「エムシャー川将来のマスタープラン」として生態的転換が計られています。

1)可能な限りの生態的重要性を具体的に表現

2)関連施設地区、保留地区の整備・確保

3)流域における周辺中小河川合流域河畔、

4)流域の住宅地区低湿地、湿地ビオトープの確保(雨水・浄化水・地下水など)貯留

 

 流域の秩序化と同時にライン川との最終合流域(デュイスブルク市)は整備の最重要地点です。以前の合流地点に隣接した水辺500m、20haに及ぶ合流域。水位差6m(エムシャー川とライン川)があり、年間113日ほどで水位変動(洪水)が起こり、ライン・エムシャー間の生物の棲息、生き物の遡上、移動、ネットワークの重要性が求められました。そのための河道、水際、河畔の設計、デザインには低湿地、合流域、洪水対策、沈砂池などの要因と生態的対応が求められました(添付図参照;航空写真と平面図)。

 2022年11月から合流域の河川が開通し両水系の生き物の往来が始まり、下流域の各種の魚類(5種)、動物性ベントス、新たに魚・4種がエムシャー川棲息魚になっています。

この新たに生まれた合流域は自然保護(湿地、河畔植生、水移変動帯植物など)と同時にレクリエーション(サイクリング、ハイキング、散策、自然観察、釣りなど)の対象地でもあり、エムシャー川河川協会と自然保護協会、生物センター(Wesel、Rangern両市)、ルール地方協議会(RVR)が協働して利用・管理などモニタリングを進めることが必要となります。

■;国際河川(ライン川)と広大な流域を持つエムシャー川の合流域再整備は、大規模な自然再生事業(インフラ整備)であり、地球温暖化生物多様性が求められる今日において生態的視点による大規模工事です。この事業計画に河川担当部局のみでなく多角的、多面的視点からの事業実施が進められました。単なる河川の防災拠点整備(洪水調節)だけでなく多様な視点(関連する多くの部局の総合的整備)特に生態系や自然環境を重視した公共大事業の21世紀、先進国の事例として傾注に値すると思います。

 自然条件や置かれた国際環境、自然環境の違いは大きいですが、将来に向けた公共事業の在り方として、その方向性や政策的、行政的対応の事例として注目する必要があると思います。実際の現場での状況(出来上がった当初の姿、その後の変遷)を見てみたいと思いました。現場事例;河川の自然再生事業視察のチャンスは無いでしょうかね? 

(勝野)。

 

3)Mikroplastik in gestauten Gewaessern in Nordrhein-Westfahlen ;  Ergebnisse aus   dem Projekt MikroPlaTaS   

  NRW州における河川堰止め地のマイクロプラスティック;マイクロプラスティックプロジェクトの結果

  著者:Katrin Wendt-Potthoff他2名、連絡先:katrin.wendt-pottfoff@ufz.de

  写真2枚 図2枚 表1枚

 最近の生活様式や生活物資の変化、食・居住の在り方の変化により近年、特に都市内を流れる河川、広い居住地域を流れる河川を通してのマイクロプラスティック(MP)、その素材の拡大は目に見えにくいだけ余計に深刻な環境変化、破壊の要素となって来ています。

 この報告はドイツの2018年調査の事例でエムシャー川(371km)、リッペ川(220km)の貯留堰周辺3地点(2カ所/地点)での調査結果です。3か所でのマイクロプラスティックの種類、組成、量についての報告です。1m3の排水を汲み、500-100ミクロンのフィルターで採取しています。3地点(6ヵ所)のMPの組成ではポリエチレン、ポリスチロール、ポリプロピレンが主要です。

その99%は排水(家庭排水、事業所排水など)を通して流れ込んできていました。他にリッペ川の汚水処理場での結果1m3の組成と貝1個を通しての量が表示されています。

 

■ 河川水に含まれるマイクロプラスティックの量の把握や危険性は、近年、食物連鎖の関係で海産物、海で生息する生物に因るものが多いのですが、ドイツでは身近な河川水での状況調査、現状把握が最近進められてきています (勝野)。

 

4)Botanischer Gaerten als Arche Noah  ; Ex-situ-Artenschutz am Beispiel des Zarten   Gauchheils (Lysimachia tenella)

  Arche Noahとしての植物園  Zarten Gauchheilsを事例とした種保護

   著者: Jennifer Michel   連絡先:  jennifer.michel@uliege.de

 写真8枚 図2枚 表1枚

 天然記念物クラスの植物、環境省のレッドリストで絶滅危惧種に指定される植物が現地で生育する場合(in-situ)、その種を植物園などで保護・保存し増殖・育成する場合(ex- situ)があるようです。ドイツでのZarten  Gauchheils(Lysimachia tenella);プリムラ属(primulaceae)は、絶滅危惧種(絶滅寸前1A、絶滅危機1B)で南西ドイツB-W州地方のライン川畔)とライン川下流、NRW州パーデルボーン郡の自然保護地(極めて特殊で希少な立地条件下)に分布・成育しているだけです。現地での保護が難しく2009年8月国際植物交換ナンバー;IPENのDE-1-DUESS-3420の指定番号を取ってデュイスブルク市植物園に運ばれ、詳細な生育条件のもと色々な試験の下で成育調査が進められていますし、一方で遺伝子調査(遺伝子操作や遺伝子組み換え)の試みもされています。

 

■ 絶滅危惧種の保存について、種の採取、移動について厳しい管理の下で行われ、その結果、成果が試されると同時に現地(自然保護地区)での厳格な保護・保全が植物園、ホゴゼンターなどで進められていることが分かります(勝野)。

 

5)Flora im oestlichen Sauerland   Sauerland ; Was hat sich im 15 Jahrenan der Flora im   Untersuchungsgebiet  

      ザウアーランド東部の植物種 ;調査地区における15年間でどのように変化したか

  著者: Richard Goette   連絡先: richard-goette@t-online.de

  写真9枚 図12枚

「ザウアーランド東部地域に生育する植物」が出版されて15年後、同じ地域の植生について、「Hochsauerland郡、自然と野鳥協会」が調査し、その第2版が出されました。その中では、同地域の15年後の植生の変化、景観の変化が捉えられ、どのように移り変わってきたかを示しています。

ここで取り上げられている植物21種について、個々に生育状況、15年間の動き、変化の様態を分布図と合わせ明らかにしています。 21種の内訳は、気候変動・温暖化により変わった種(4)、園芸種が逸出したもの(4)、畑の縁辺部プログラムに因る種(3)、新たに加わった種(3)、外来種の播種により拡大した種(1)、集約的拡大した種(3)、戻ってきた種(3)です。 

■ 地域の植物の変化を長い期間かけ地道な調査、継続的調査で明らかにしており興味ある報告です。普通なら見過ごされてしまう「種」の動態を刊行物(本・テキスト)として纏められることは重要なことです(勝野)。