水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

海外雑誌での研究 8-2

 8-2では、8-1に続く以下の3報告の概要です。

 

3.墓地における種の多様性(Friedhoefe tragen zur urbanen Biodiversitaet bei)

 問い合わせ先: Corinne Buch他1名 Biologische Station Westliches Ruhrgebiet e.V.

                                 Oberhausen     corinne.buch@bswr.de 

報告3は、ミュールハイム市(Muelheim an der Ruhr)の12か所の市営墓地における植物調査の報告です。12の墓地は40haの中央墓地から0.5haの古い墓地まで含んでいます。ミュールハイム市は自然立地空間単位では3つの単位から成り(Suederbergland, Westfaelische Bucht, Niederrheinisches Tiefland)ルール地域で古くから都市化した地区です。

 調査の結果、359種の野生種が確認されていますが、この中では園芸種等は含まれていません。中央墓地では240種、旧市街地墓地では201種が確認されています。

ここではルール地域の文化的景観の中では珍しくなった、種の豊富な刈り取り草地(Magerkeitszeiger;Magerwiesen)に典型的な種が見られ、現在では見かけなくなった種も4/12ケ所の墓地で出現(Potentilla neumamlana)、ルール地域でのレッドリスト種です。

墓地内には畑の構成種で地域での希少になっている種や刈り取り草地の構成種なども見られています。ほかに古い墓石や壁面のシダ類にも意味のある種が存在しています。

古い歴史ある墓地には多様な立地(日陰の陰地、冷湿地、古い並木、樹叢など)があり、時間を経て生き残り生育する種が存在しています。単に植物種のみの視点でなく生物多様性をはじめレクリエーションや静寂な場所としても位置付けることが求められます。

 

コメント:都市内で重要な纏まった緑のオープンスペースとして位置づいているドイツの墓地で生物多様性の意味を明らかにするための調査が時間をかけて行われている点は意味あるものと思います。

 日本で民間会社が都市近郊で墓地開発を行っている現状では、このような視点があるかどうか疑問ですが、一方で樹木葬や草木に囲まれた静かな墓苑が求められているのも事実です。ドイツでは都市内墓地にいろいろな意味・意義を持たせ、緑のオープンスペースとして重要になっていることに、羨ましさと同時に時代に即した緑の在り方が求められていることがわかります(別の意味でBerlinの市営墓地の緑の在り方についての報告は興味のあるテーマです)。 

   

4.ガン(雁)の維持と管理の10年(Zehn Jahre Gaensemanagement)

    問い合わせ先:Christine Kowallik他4名  Biologische Station Westliches Ruhrgebiet e.V.

                                 Oberhausen      Christine Kowallik@bswr.de

報告4は、ルール地域デュイスブルク市にある4つの池沼で繁殖するガン(カナダガン, ハイイロガン=Grau- und Kanadagans)の10年間における調査(維持管理=繁殖実態と卵除去)の報告です。

 このガンは1990年代から都市内の公園の池沼で繁殖、2000年に入ってからは公園利用者との間で芝生広場や遊戯広場で競合、障害が発生しています。これに対して2010年から実態調査のモニタリングが行われ維持管理との関係が調べられています。2月下旬から7月中旬まで調査(巣の数、場所、法律に基づいて巣の中から2個を残して卵を取り去る管理)をおこなっています。

 調査の結果から、デュイスブルク市全体では、年により大きく変動しているのに比較して、4つの調査池沼でのハイイロガン、カナダガンの生息数では10年間、余り大きな変化は出ていません。4つの池沼全体では維持管理度(強2013、2015、、中2018-19、弱2011-12、2016-17)の影響はそれほど無いのですが、Toepperseeでは2016-17年、管理無しとなり若鳥の数が多くなっていますが2018-19年管理が行き届いて普通の状況に戻っています。

Unttelsheimer Seeでは2016年以前、積極的な管理によりハイイロガンは数が多いのに対しカナダガンは少なかった。それが2016年以降管理されなくなりハイイロガンが極端に減少し、カナダガンは増大しています。

 市民の水辺のレクリエーション利用(運動、遊戯など)に野鳥の生息、繁殖は強く関係し、生息と利用の競合が起こってきています。どのようにすべきか、どうすると生息はどうなるかを知るためにこのモニタリング調査が行われています。

 

コメント: 日本でも外来種鳥類の中でカナダガンの生息調査が行われてきました。日大の研修施設、富士自然教育センター(FNEC)や田貫湖でも、造園学研究室の葉山先生らにより施設内にある池と周辺部の草地における生息状況について調査が行われました。このドイツの報告書のような調査は行われていませんが生息実態は捉えられ纏められていると思います。

 

5.低地ライン川の側流路(Nebenrinnen am Niederrhein)

 問い合わせ先:Klaus Markgraf-Maue他1名  NABU-Naturschutzstation Niederrhein. Kleve Klaus.markgraf@nabu-naturschutzstation.de

 

報告5は、低地ライン川地域におけるライン川旧河道の在り方についての報告です。この報告もヨーロッパレベルでの意味ある河川水辺(自然2000;NATURA2000)*LIFE-Natur-Projekte(ライフ自然プロジェクト)**に関連しています。

低地ライン川地域の2つの区間(ライン川河口から854-857、823-826キロポストのエッメリッヒとヴェセル・ビスリッヒ(Emmerich   Wesel-Bislich)いずれも3km超の区間における旧河道の保全と河川水辺の自然復元プロジェクトです。このプロジェクトは下記の状況下(*、**)で実施されました。

報告では旧河道の縦横断線形(掘削、掘り下げ、均平)や周辺部の拡幅、水辺の処理、

などが行われ動植物(魚類を含め)のモニタリング結果が報告されています。

 

* LIFE-NP.:ビスリッヒーファヌム間の旧河道(Nebenrinne) 

プロジェクト主体:(NABU自然保護ステーション・ニーダーライン)

プロジェクト共同実施体:MULNV. 他4団体

計画支援団体:MULNV. 他2団体

プロジェクト実施期間:2010年1月~2019年12月

プロジェクト費用:2億6500万ユーロ(EUが50%負担)

 

** LIFE-NP.:エッメリヒャーバルト(Emmericher Wald) 

プロジェクト主体:NABU自然保護ステーション・ニーダーライン

プロジェクト共同実施体:NRW州環境・農業・自然保護・消費者保護省(MULNV) 

計画支援団体:MULNV. 他2団体

プロジェクト実施期間:2012年1月~2020年6月

 

コメント: 2020年梅雨の時期、近年気象的問題になっている線状降雨帯出現と豪雨に伴う河川氾濫は別の意味でこのドイツの河川計画・整備と関連を持ってきます。国土が狭く河川勾配も急で蛇行や複雑な河道形態の日本では、気象条件も全く異なっており一概に対比はできませんが、国際河川で広大な流域のライン川下流部(オランダに隣接)における洪水対策、自然環境保全、自然保護、旧河道の自然復元など、考え方や部分的設計(整備実施地区での詳細)計画など景中に値すると思われます。 

 

 

トピックス

季刊発行のこの雑誌には欧州議会から各州・広域都市圏における環境保護(農業から緑地計画まで)、自然保護に関するニュースはじめ関連情報が掲載されています。2020.2号には次のような情報が載っています。

欧州レベル

1) 欧州議会で5月20日に二つの重要な戦略が公表されました。一つは生物多様性戦略(Biodiversitaetsstrategie2021-2030年)もう一つは、農業戦略”農家から鋤まで=From Farm to Fork”です。2000憶ユーロ/年が準備されています。多様性戦略は、壊れた生物生息空間の復元(湿原、草原、森林、海岸域=Moore, Gruenlaender, Waelder, Meeresgebiet)で、2030年までにヨーロッパの陸上、海岸部の30%を保護する、とあり, 関連するいろいろな指針(Richtlinie)に沿って進められています。現在生産利用されている農地の10%は、農業景観を構成する小生態系(生け垣、野生草地、ブッシュ、並木、樹叢など)の保護、野鳥や昆虫類のための生息域を復元する、とあり、このために2000万ユーロ準備されます。 

 ”農家から鋤まで” の戦略では、農薬など化学物質の50%削減、肥料の20%削減を打ち出しており、非微生物素材の利用を50%減らすこと、生態的な経営を2030年までに25%まで引き上げることとしています。支援はWWFなどがEUの気候変動、生物多様性予算の25%の変更と合わせ考えられています。

 

連邦レベル

2) 連邦肥料法(Duengerecht)の改正が3月27日に決まり、地下水(Grundwasser)保護

の規定がより明確、確実になっています。これは2018年夏に欧州裁判所(Europaeische Gerichtshof)がEUの窒素成分の取り扱い指針に適合させるうえでの措置です。この法律の取り扱い(Neufassung der Duengeverordnung)は連邦全州で法的拘束力のある指針(Massnahmen)と結びついています。これにより秋から冬の期間施肥の禁止、水辺との距離をおき、凍結した畑で施肥が禁止されN値の改善によdesu.るモニタリングがされます。N値の高い地区では20%の減量が求められます。この規定は2021年より実施されます。これには連邦水収支法(Wasserhaushaltgesetz)も関連し2020年7月から適応されます。農地の傾斜(5%以内)の地表部を緑で覆うこと(通年)、水辺との境、農地の縁辺部5mは草地を設けること、浸食土が水辺に影響を与えないよう(PやNが)することなどが示されています。

NRW州レベル

3) 連邦法に沿ってNRW州でも3月31日から改正されました。NRW州には203.000haの農地が広がり、その中での農業の在り方に変化が求められます。施肥に関することと同様牧野での家畜の放牧頭数や期間などが問題になります。州の農地の19.4%はNに関連し、36.6%ではN汚染危険区(地下水汚染危険地・通称レッド)に該当するとのこと。

これについては連邦環境省や州政府も対応を苦慮しています。

都市圏域レベル(DBU報告)

4) 都市内における自然的多様性を生かした新たな緑地の創出策として、雨水貯留地(Regenrueckhaltebecken)があります。このテーマは既に1980年代の都市緑地整備で注目され実施に移されてきました(私も以前、度々ドイツの現状報告としてこの事情を報告)。トイツの中小都市に限らず農村集落でも小河川で進められてきています。人工面が殆どの都市において集中豪雨などにより急激な出水が起こり都市内での浸水被害が起こることが予測され、それに対して雨水貯留機能を持たせた都市内河川の改修が進められてきました。それに合わせて出現した雨水貯留地の緑の在り方、質の問題として生物多様性、種の保全復元が計画され実施に移され今日に至っています。

 この課題について、ドイツ環境財団(Deutschen Bundesstiftung Umwelt;DBU)の奨学生、Lisa Hoffmannさんの博士論文研究が取り上げられています。この研究はミュンスター地域の35カ所の雨水貯留地と35ケ所の調整池(Kontrollgewaesser)の植生多様性について比較検討し、雨水貯留地の方が種数など多様性が高いことを明らかにしました。また、そのための適切な管理に伴う種の多様性が明らかにされ、今後の雨水貯留地管理の在り方に指針を与えています。