水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

海外雑誌での研究  14-1

ドイツ、ノルトランウエストファーレン州の機関紙「Natur in NRW」2021年  第4号  が送られてきました。 一昨年来コロナ感染症(変異株;デルタ、オミクロンの大流行)の中での発行、ドイツも大変なようです。

 その巻頭言で「コロナの緊急事態で在宅時間やテレワークの増加、人々の集まること;都市生活の危惧」などと対照的に自然の中での生活、自然に癒されることへの憧憬、それに伴う自然保護や自然資源保全との軋轢が生まれつつあり、解決の方法を模索している、と。他に20年以上に及ぶドイツ固有種のザリガニ調査の結果、また、それまで意識されてこなかった野生の「庭ネズミ;Gartenschlaefer」の生態と現状、野鳥生息調査や探索へのドローン技術の活用についてドイツ野鳥学会での見解、などが取り扱われています。

 

第4号では、以下の様な内容となっています。(原文転記)

1) Schutz- und Nutzkonflikte an Gewaessern am Beispiel Kanusport

  Wege, dem steigenden Druck auf die Oekosysteme zu begegnen

2) Naturschutz und Kanusport 

  Fluesse in NRW im Wettstreit der Interessen 

3) 20 Jarhe Edelkrebsprojekt NRW

  Erfolge, Herausforderungen und Zukunftsperspektiven

4) Gartenschlaefer in NRW

  Verbreitung und Biologie des selten gewordenen Bilches

5) Vogelschutztagung NRW

  Drohnen, Multicopter,Quadrocopter--ein Ueberblick ueber das Angebot, Ein-

satzmoeglichkeiten und die Rechtslage

 毎号進めてきていますドイツのNRW州における自然保護や緑地保全に関する事例報告他の概要を紹介したいと思います。14-1では1) ,2) について、14-2では 3~ 5)について報告します。

    1)、2)はいずれも近年水辺のレクリエーション、スポーツとして人々に人気のあるカヌーと水辺の自然保護、あるいは自然資源・景観との競合についての調査研究報告です。

水辺空間は、レクリエーション、スポーツ活動の点で魅力ある空間です。穏やかで静かな空間の水辺は水際や水面、水中など多くの人から愛され利用される場所です。同時に動植物にとっても変化に富んだ多様な空間であり季節を通して資源性の高い所です。

 

1) Schutz- und Nutzkonflikte an Gewaessern am Beispiel Kanusport

  Wege, dem steigenden Druck auf die Oekosysteme zu begegnen

 「カヌースポーツにおける水辺の保護と利用の競合」

著者と問い合わせ先:

Ottmar Hartwig,  Jens Luethge;   自然ー環境保護アカデミーNRW 0ttmar.hartwig@nua.nrw.de

 この報告は、具体的な対立、競合事例に関するものではなく、最近のコロナ感染症の大流行に伴う社会の動きの変化(例えばテレワークや勤務時間、社会変動に伴う生活様式の変化など)と自由時間の在り方、日常生活の中での自然資源や身近なスポーツ活動の対応、について述べています。近年の野外スポーツ熱の高まりの中で、変化にとんだ水辺空間の動き(活動)に注目し、それが水辺の自然資源、生態系の保護、保全と競合する危険性、予測される問題について考察しています。

 

 コロナ感染症が大流行し緊急事態宣言が発令され人々は何処で何をして時間を過ごすか、社会的な課題となっています。「自然の中へ」、「外へ出よう、水辺に行こう、緑や光を求めて」の考え方、動きは自然保護地域や自然資源のある場所にとって問題となる動きです。2020年春先から多くの人々が国内の自然空間を求めて動き始め、その動向は連邦政府や研究所が調べ明らかにしています(連邦環境省や連邦自然保護研究所;BMU、BfN:2021・4 若者の自然に対する意識調査;2020 )。

 "コロナ下で若者は自然の中へ度々行く(52%)、行く(20%)を示し、よりよい時間を自然の中で過ごすと92%が考え、88%は自然の中にいると幸せ、幸運をもたらすと考えています。” 2017年には環境省が「河川・運河など連邦の水系網プログラム;ドイツ青のプログラム」、連邦自然保護研究所が「皆で利用する水辺」を発行し水辺の自然と活用について提言」を公表しています。また、1999年にはNRW州では環境省とカヌー協会・ボート協会など3者が共同で「自然保護と水辺スポーツ」の冊子・地図付きCDを作製。カヌー協会への情報アクセスは2021年10月末では90,000回以上ありました。

 

 ドイツ人の生活様式で戸外生活・活動は重要なポイントですし、屋外スポーツも大変盛んです。拠点としてのキャンプや自然探勝、それを結ぶ遊歩道・ワンダーフォーゲル路、自転車や電動バイクを利用した野外活動、大都市周辺居住者がロックダウンされた時間をどこで費やすか、家にいてテレビモニターを通しても自然を体験、旅、遊びをする、いずれにしてもその中で緑と水辺には大きな比重がかかっています(因みに私の友人は2021年夏、ビュルツブルク~フュッセンまでのロマンティック街道を電動バイク、奥さんは自転車で旅し走破しています)

フィットネスーレクリエーションでボート、カヌースポーツ、渓流スラロームなどスポーツ同好者は常に自然と共にある水辺を望んでいます。ドイツカヌー協会は1990年代、既にこのブームを注視し数値的裏付けをし、4~5年ごとに利用者が倍増していること(自然の中での活動)を明らかにしています。各種のボート(折り畳みボート、リュックザックボート、自転車や自動車に載せるボートなど)、カヌーの利用(4月~10月の週末や休暇、15~30km/日、カヤック、カナディアン;2~5人乗り、ラフボートなどの活用)の利用の増大などです。

 水辺空間が重視されてきているものの利用との関係でも法的にな個別対応に限られており、自然保護や欧州レベルの保護地域(FFH地域)には十分でなくその対応が必要です(連邦や各州の水法、水収支法、運河指針など各種)。

 アルプス地方山間、山麓地域を除いてドイツは湖沼が多く、中小河川も比較的流れが緩やかで、多くの細流、支流がボートやカヌーの水辺利用に適しています。主流河川や運河では通航・運航が多く、流域でも運動・レクリエーションと船舶運航との共存には自然保護・保全同様、問題も多くなって来ています。中小河川はじめ運河ではカヌー、ボートなどの乗降、乗り換えの場所の問題もあります。また、カヌーは水深30cm程度で利用可能であり、春から秋までが主の水辺が、運動用具の改良などにより寒い秋~冬の間でも利用可能となり、秋~冬に飛来する野鳥にとって障害になって来ています。

ドイツカヌー協会のデータによれば1.300の団体、122.000人以上の会員(競技人口;オリンピック対象)の他、130万人以上の愛好者、団体がカヌー、カヤック、カナディアンさらに折り畳み簡易カヌーの利用者です。2016年10月、同協会は「自然に配慮したカヌースポーツ」規則を策定、会員に通達、再教習を進め2020年にはオンラインで教習可能としています。

 ドイツではオリンピック協議会(DOSB)とドイツカヌー協会が90年代から共同で「水辺スポーツと自然保護」の会議を進め、国内生物戦略や国連の生物多様性(2011-2020)を推し進めてきています。

 水辺のスポーツ、レクリエーション、に関する各種団体(カヌーからボート、スキューバーダイビングまで色々な関連するスポーツ、それと関連する旅行など)との共同、協同、共存の視点、動きには、水辺空間における自然保護、自然再生にとって他分野との協調が欠かせないとする考え方に広がっています。

 

2) Naturschutz und Kanusport

 「自然保護とカヌースポーツ」

 著者と問い合わせ先:

  Fluesse in NRW im Wettstreit der Interessen 

Dr.Margret Bunzel-Drueke 他2名  Soest生物・環境センター

m.bunzel-druecke@abu-naturschutz.de

 

ボートスポーツ及び利用者は3種類に分けられます。①組織化されたカヌー利用者(団体・協会の会員)、②コマーシャル化されたツアー客、③素人個人。自然保護地域には、それぞれいろいろな対応が求められます。

 この報告では、2つの流域での事例を取り上げています。一つはブッパー川;レバクーゼン~ゾーリンゲン間の事例(中山間地域)、もう一つはリッペ川;リップシュタット~ハウスウントロップ間(平坦地域)の事例です。

 事例1;ブッパー川(レバクーゼン~ゾーリンゲン間)

 ブッパー川では都市部(ライヒリンゲン・オプラーデン市域)以外で、FFH保護地区(動植物生息地;

Flora-Fauna-Habitat;レバークーゼン~ゾーリンゲン間=DE-4808-301)、特にカワセミ他FFH指定の河川生息種、流水域水生植物、生息地型3260が対象です。凡そ27kmに及ぶ区間はゾーリンゲン、ラムシャイト、レバクーゼン市及びライン中山間地域で、レクリエーション的利用は増大しボート、筏などで水辺が溢れます。当該地域では2004~2012年の間に自然保護と水辺レクリエーションに関する諸団体が度々円卓会議を行い問題を討議しましたし、2010~2012年にはブッッパータール中流生物ステーションが利用状況を調査しています。利用実態は週末の11:00~18:00で多くの人たちが利用しています。ブッパー川では8つの視点が指摘されています。

 ①水位が60~74cmでは利用禁止。②決められた地点以外での水辺、土手、岸辺での乗り降り、乗り換え禁止。③利用は9-18時まで。④ブッパー川では4人乗り以下のボート

のみ可。⑤並走、逆走禁止。⑥堰、浄化施設、史跡等では乗り換え場を利用する。堰利用は厳禁。⑦団体利用は最大40人(最大15隻)まで。1~10隻までの集団では指導者(研修を受けた)が引率すること。⑨集団の場合、グループの間隔は15分(時間で)空けること。

 

 事例2;リッペ川(リップシュタット~ハウスウントロップ間)

リッペ川は220kmにも及び平坦な地域に広がり流れる川で、その内、36kmに亘って広域的な鳥類保護地域(DE-4314-401)でしかもFFH地域でもあります。さらにこの地域の水辺の70%は人工護岸が再自然化(自然護岸へ)・自然再生されています。この調査区間はゾースト郡の景観計画Ⅲのなかでボート(カヌーも含め)規定が決められており、30のボート場で日・2回に利用制限されています。ここでは特別許可されたボートツアーが行われています(資料:8地区の詳細な利用規定あり)。

 地区内には特定の水鳥の繁殖地(ガン・カモ類、カイツブリ類、カワセミ類ほか)、越冬地であり同時に魚類、水辺の動物類生息域でもあります。6月から8月が水辺利用(走行・観察)のシーズンで時間的には午後(12-17時)が中心で、いろいろな制限が設けられていますが、このような中でも不適切行為や違法行為があります。流れに逆行したり、砂利の岸辺に上がったりボートのオールで叩いたり等等(特に5月)。

 

 ボートツアー他水辺のスポーツ・レクリエーションと自然保護の競合は、何処でもいつでも同じような

問題(駐車場、ゴミ、騒音、植生被害(特にFFH地域や自然2000の地域内)が起こっています。

 ビーバーはカワウソ同様カヌーとは競合していないようですが、それでも生息区間でのカヌー利用100隻/日で生息に大きく影響しています。特にカワセミでは4~5月の繁殖期とカヌーなどボート利用と競合し、ブッパー川では巣穴(8ヵ所特定されている)への餌運びや餌採りに支障が生まれ繁殖に至らない危険性があります。ほかにチドリ類、ガン・カモ類なども同様にボート、カヌー利用者、利用時期等での問題が見られます。

 この報告では問題解決に向け10の提言を示しています。

①ボート等への乗り降りは許可された場所に限定する。

②ボート竿最小値の取り決め

③すべての種類のボートで隻数を決める。

④関係業(ボート類貸出業)に利用制限、2回/日を決める。

⑤ツアー同乗者や関係者に証明書発行。

⑥乗降ヵ所で解説版、取り決め等を明示する他、色々な情報で関係事項を周知する。

⑦重要な水鳥の営巣域、越冬域(11~3月)は立ち入り禁止。

⑧営巣・繁殖期間は立ち入り禁止(4~6月;特に4~5月)。

⑨特別種の生息域は立ち入り禁止。

➉義務の徹底と処罰

 

自然保護と水辺のスポーツに間の問題、課題には各種の営利・非営利団体さらには行政的にもいろいろな部局に関連しており、一体的な対応を進めることが困難です。問題を相互に出しより、協議・話し合いを進め適切な対応策を模索する必要があります。

 

 勝野私見)問題の発生(自然資源の調査分析、指摘)は日本でも程度の差はあれ同じように見られます。しかし、現在まで欧州レベル(隣接諸外国)での取り組みや対応、それに基づく施策などが進められ、国内の多くの場所で自然の保護や資源の保全に努力しています(この報告はNRW州だけですが、他の州もほぼ、同じ傾向だと思います)。

 ドイツでも関係諸団体、関係部署との猥雑さや複雑さがありますが、討議・討論の場所の重要性とそのための資料作りに努力し広報している点には日本にない状況(社会的コンセンサスを得るため)を見て取れます。