水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

映画鑑賞  その1

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 久しぶりに映画を鑑賞しました。コロナ大流行により春先から3密禁止のため、閉館、入場者制限の時期を経てお彼岸の連休前にやっと普通の状態(一日5本上映、全席自由席)に戻りました。

 私は柿生に住んでいますが隣駅が川崎市の西の核「新百合ヶ丘」です。麻生区役所はじめ公的機関支所がいろいろあり居住者も増加している中核区です。ここに川崎市アートセンターアルテリオミニシアター、シアター劇場)があり、都心のロードショウ劇場と異なって、小品でも国際コンクールを受賞したいろいろな名画を上映しています。

 これまでにもこの館で上映された名画の鑑賞記をブログに掲載してきました。今回見た映画は2作品です。

 一つ目は、「チア・アップ」2本目は「バルーン」です。

「チア・アップ」は、一人暮らしの余生をゆっくり送ろうとシニアタウン(高齢者居住区)に引っ越してきた老婦人が、かねてからの夢であるチアリーダーとして友人数人と組んで全米大会に出場する話。素人集団を構成する女性たち8人、平均年齢72歳、笑いと涙の特訓を経て全米チアリーディング大会に出場するまでの物語でした。引きこもりの青年やハイスクールのチアリーディングチームのリーダーを巻き込んで夢の舞台へ進みます。いろんな家族を巻き込んで、単調な生活に活気を取り戻し仲間との楽しい時間を生み出し、物語は進展します。

 主役のマーサは自分が乳癌を患っていることを伏せ仲間と素晴らしい夢を実現させ世を去ります。主役のマーサ役にはダイアン・キートン、2019年アメリカ作品、単純明快で楽しい映画でした。恵まれた年金生活の中、自分が一番やりたいことは何か、命の限界を知る中でやり残したことのない生涯を全うしたいと思う心、物語は淡々と進んで最後の一つを手に入れて彼女は長い旅路にでる、という映画でした。

 二つ目は「バルーン」。1979年、東ドイツ(チューリンゲン州)で実際に起こった西側への脱出逃亡劇を映画にしたものでした。副題は「奇蹟の脱出飛行」。手作りの熱気球で東ドイツ脱出を試みた家族の切実さと身辺に迫る国を挙げて脱出家族を探索する執拗かつ徹底した秘密警察(シュタージ)の様子をラストまでサスペンス調に描き、見る者に息をつかせない作品でした。脱出家族の準備に2年をかけた最初の試みは、熱気球の不具合と高度計の故障により国境目前であえなく失敗、森林内に墜落、脱出の痕跡を消す必死な行為、その追及捜査に怯えながら、2度目(実際は3度目)の脱出にかける様子。普通の生活を装い、身近で誰がシュタージなのか分からず、密告者が近隣にいるような中、別の家族を含め8人が 限られた期間(6週間)で前回同様の装置を手作りし準備し、追手(秘密警察、国境警備隊)が背後に迫る中、夜中に離陸、小トラブルを起こしながらも30分程飛行し真夜中の森林に再び不時着。助けを求め決死の覚悟で林道に出た2人の男が見たのは・・・・西側の警察官(パトロール・カーはアウディ)、脱出飛行は成功し映画は終演となりました。息をもつかせぬストーリー、演出、映像アングル、手に汗握る飛行準備や逃亡のプロセス。サスペンス風のストーリーながら、実際は決死の逃避行であったことを考え併せると、複雑な気持ちにもなりました。映画自体は大変面白くあっという間の2時間でした。

 

 鑑賞後感:

 当時の東ドイツの国家警察を中心とした恐ろしい秘密警察・監視社会、この脱出劇の真実を調べてみました。

旧東ドイツでは、1945-1949年の5年間に270万人が東から西へ脱出・移住しています。1961年に壁が作られ1989年11月9日に崩壊するまで28年間続きました。映画になった事件は1976年9月15日深夜から16日早朝にかけ起こりました。

 ベルリンの壁では57,331人が自由を求め脱出を試み、その半分近く19.268人しか生きて越えられず半数以上は死亡(射殺など)しています(1976-1988)。

 

 2020年はドイツ再統一(1990)から30年の年、図らずも世界的に新型肺炎コロナウイルスの大流行により、世界的に感染者、死者が増大、特に欧州では半年過ぎた9月に感染者が再び増え始め、第2波の流行が危惧されています。第一波が中国からヨーロッパに拡大し、ドイツもその感染者拡大の波を避ける事が出来ず、ついに外出禁止令を発し、国民の日常生活行動を規制せざるを得ませんでした。この国家権力が国民の自由を制限しなければならない事態になってしまいましたが、その時、メルケル首相(旧東ドイツ出身の科学者は2020年3月18日、以下のような声明をテレビを通じて国民に訴えています。

 

 「次の点は、しかし是非お伝えしたい。こうした制約は、渡航や移動の自由が苦難の末に勝ち取られた権利であるという経験をしてきた、私のような人間にとり絶対的な必要性が無ければ正当化し得ないものなのです。

 民主主義においては、決して安易に決めてはならず、決めるのであれば一時的なものに留めるべきです。しかし、今は命を救うために避けられないことなのです」

(外出制限について理解を求める首相のメッセージ;ドイツ・メルケル首相)

 

 

この声明は、歴史的な経験をした人々と現在も苦難を共有する人々にとって大変重要で胸に刻んでおくべき言葉だろうと思います。現在も各地で起こっている動きの中で、自由を求める声は小さくありません。

 

2021.01.13再公開