水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

海外雑誌での研究  19-2

1)Zwei Jahre LIFE-Projekt Wiesenvoegel NRW  ;  Projektbausteine und erste Umsetzungen

  ノルトランウエストワーレン州における湿地鳥類;Lifeプロジェクト2年・調査の基盤と最初の変化  

  著者: Ina Bruening他1名、 連絡先:  ina.bruening@lanuv.nrw.de

       写真11枚 図2枚

  この報告はNRW州に広がるシギ類の鳥類保護地域、湿性牧野、湿地、湿原の保全、再生について述べています。LIFEープロジェクト(草地棲息繁殖鳥類プロジェクト)は2020年秋にスタートしました。このプロジェクトは欧州委員会EU-Kommission)とNRW州が推進し、湿性牧野、湿性草地で生息・営巣・繁殖する鳥類の保護・保全状況をより良くするためのものです。ここ数十年の間に北ドイツ低地にある、この種の生息地である湿性草地は、大面積にわたって消失しています。NRW州北部低地に数多くある欧州鳥類保護地域はより高く評価されてきており、最初の保護指針(Massnahmen)が近く実行に移されます。

 この指針は2020年にスタートし2027年まで、州内の8ヵ所の欧州鳥類保護地域で続きます。対象鳥類はガン・カモ科、各種シギ類、カササギ類、干潟に生息する鳥類などです。

対応する各種の施策は、

1) 用地買収 2)水利施策による水収支最適化(水面確保、水位調整のため)3)粗放的牧野利用の拡大 4)卵保護に関しての関連部局の連携構築 5)卵保護のための措置、狩猟によるキツネ・アライグマなど卵を狙う動物の排除、6)種減少の情報と公開 などです。

棲息する草地の管理で、草丈が高くならないように、平坦な場所や広い低草丈地、湿地、水辺の維持が重要です。保護地8地区の内に29ヵ所の施策対象地のほか、42ヵ所の水辺を再生、7,635mに及ぶ長い水路と水辺、15,890mに及ぶ長い接続水路を生み出しています。

同時に11カ所の小規模水辺、75ヵ所の池畔を設けています。施策の中では水位調節でソーラーエネルギを使ったり、牧野の中の樹木を取り除いたり、キツネやアライグマ対策の電柵を設けたり、必要な場合には狩猟専門家により狩猟をしたり、草地創出では地元種を用いたりし、2021年の報告では1600ha、21の施策が8地区の保護地内で行われています。

 捕食動物管理については目下特段の解決方法は無く、キツネ、アライグマ、イノシシなどによる雛の被害は明らかではありません。LIFE-プロジェクトでは主要繁殖地でのキツネ、アライグマに対する電気柵使用での方法しか挙げられていません。

 タゲリの仲間(Kiebitz:Vanellus vanellus)やシギ類の保護については関係部局の協働がLIFE-プロジェクトの中で強く望まれています。同時に各種のモニタリングの必要性も指摘されており、湿性牧野の所有者(農家)への指導、繁殖期の利用制限などが必要です。

 モニタリングでは、タゲリの仲間(Kiebitz:Vanellus vanellus)やシギ類の保護に当たってこのプロジェクトでは繁殖期、繁殖地の巣に150台のカメラが設置されました。調査開始年(2020)には、柵を設置して孵化の効果があり、シギ類では91%(柵なし44%)、タゲリの仲間では100%(無し53%)の効果が示されています。野鳥の休憩地としての年2回の調査(春2-3月、夏8-9月;シギ類、ガンカモ類調査)でもよい結果が得られています。

 最初の年に地域改修事業が、リッペ川畔(ゾエースト郡;ハムーリッペシュタット)の鳥類保護地区(40ha)で行われました。河畔の低湿地農地の土手を切り開き(5ヵ所)リッペ川増水による水が滞水(40日滞水)し、自然の湿性牧野となります。その中では、3ヵ所の水深が浅い浅水地を再生、9000㌧の土砂の移動(浚渫、盛土)がされました。次の年にはガンカモ類の休息地となり10種以上のカモ類、16種以上の干潟鳥類が訪れています。タゲリやセキレイの仲間、カモ類は繁殖地となっています。同時に両生類、トンボ類の生息地にもなっていますし、植生的にも湿性植物、河畔・水辺植物の生育地となっています。牧野としては6月から営巣繫殖終了まで刈り取り管理され、他の半年は放牧牧野で利用されます。

 シュタインホルスト低湿自然保護地区ではLIFE-プロジェクトの下で2022年冬季に生息域最適化改修(Lebensraumoptimierung)が実施されました。既にこの河川流域では1970年から1980年頃までに洪水対策として遊水池の整備が行われ、80haの河畔湿地が作られ(砂利の島、浅水域、湿性牧野、土手など含む)30年に及ぶ両生類や河畔植生の保護地でもあり、現在でも7500㎡低湿地はカモ類や水辺鳥類の生息地です。

■;この報告では、自然復元・保護に関わる関連部局、団体、個人のプログラム参加への理解と着実かつ息の長い活動の重要性が分かります。ともすると1機関、1部局の施策、事業、対策で終始しそうな(日本では今日もまだその域をでない)状況をいち早く協働で推進し着実にデータを収集し、これまでの施工手順、技術、結果を検討し、新たな今日的プロジェクト、広域圏(国際的、地球規模的)対応を生み出し進めてきています。国際化、地球的規模の時代として、国、州のあるべき姿を考えさせられる事例です(勝野)。

 

 

2)Eine neue Muendung fuer die Emscher ; Ein wesentlicher Baustein zur Entwicklung   der Emscher   

  エムシャー川の新たな合流域 ;エムシャー川発展に関する重要な要素

  著者: Mechthild Semrau他2名、連絡先: semrau.mechthild@eglv.de

  写真4枚 図1枚

 ルール工業地帯を東西に流れるエムシャー川の河口、ライン川との合流域の河川改修・自然再生についての報告です。この改修合流域は2022年11月初めに完成・公開されています。それに先立つ1年前(2021年末)にマイルストーン(距離標)が設置され1年後の完成でした。ここに至るまでの歴史で見ればエムシャー川流域は、ルール地域の石炭採掘、工業用地、住宅群などで一大工業地域となり(凡そ180年の歩みで、19世紀には重工業地域に発達)エムシャー川流域は洪水対策(河川氾濫、浸水など)が問題化、1899年にはエムシャー川河川組合(Emschergenossenschaft)が発足、問題の解決に当たりました。炭鉱・鉱山は北部に向かって地中深く進み、同時に工場排水が問題化、1980年代後半には排水路が設けられ、1991年に同組合はエムシャー川の水システムの大々的な改変(空間的対応=水質浄化場、排水路新設などの整備)を行って来ています。この全体整備にこれまで5.5千万ユーロかけてきています。

 ここでの合流域整備には流域圏での生態的視点が主要となっています。水利、土木工学と生態的技術の適合を計り、河川水利と生態的技術の融合を図って、地域且つ欧州の代表的河川合流域改修を目指しています。この地は国際河川ライン川下流域にあたり自然資源価値の高い動植物の生息・成育が見られる地区です。

次の4項目が「エムシャー川将来のマスタープラン」として生態的転換が計られています。

1)可能な限りの生態的重要性を具体的に表現

2)関連施設地区、保留地区の整備・確保

3)流域における周辺中小河川合流域河畔、

4)流域の住宅地区低湿地、湿地ビオトープの確保(雨水・浄化水・地下水など)貯留

 

 流域の秩序化と同時にライン川との最終合流域(デュイスブルク市)は整備の最重要地点です。以前の合流地点に隣接した水辺500m、20haに及ぶ合流域。水位差6m(エムシャー川とライン川)があり、年間113日ほどで水位変動(洪水)が起こり、ライン・エムシャー間の生物の棲息、生き物の遡上、移動、ネットワークの重要性が求められました。そのための河道、水際、河畔の設計、デザインには低湿地、合流域、洪水対策、沈砂池などの要因と生態的対応が求められました(添付図参照;航空写真と平面図)。

 2022年11月から合流域の河川が開通し両水系の生き物の往来が始まり、下流域の各種の魚類(5種)、動物性ベントス、新たに魚・4種がエムシャー川棲息魚になっています。

この新たに生まれた合流域は自然保護(湿地、河畔植生、水移変動帯植物など)と同時にレクリエーション(サイクリング、ハイキング、散策、自然観察、釣りなど)の対象地でもあり、エムシャー川河川協会と自然保護協会、生物センター(Wesel、Rangern両市)、ルール地方協議会(RVR)が協働して利用・管理などモニタリングを進めることが必要となります。

■;国際河川(ライン川)と広大な流域を持つエムシャー川の合流域再整備は、大規模な自然再生事業(インフラ整備)であり、地球温暖化生物多様性が求められる今日において生態的視点による大規模工事です。この事業計画に河川担当部局のみでなく多角的、多面的視点からの事業実施が進められました。単なる河川の防災拠点整備(洪水調節)だけでなく多様な視点(関連する多くの部局の総合的整備)特に生態系や自然環境を重視した公共大事業の21世紀、先進国の事例として傾注に値すると思います。

 自然条件や置かれた国際環境、自然環境の違いは大きいですが、将来に向けた公共事業の在り方として、その方向性や政策的、行政的対応の事例として注目する必要があると思います。実際の現場での状況(出来上がった当初の姿、その後の変遷)を見てみたいと思いました。現場事例;河川の自然再生事業視察のチャンスは無いでしょうかね? 

(勝野)。

 

3)Mikroplastik in gestauten Gewaessern in Nordrhein-Westfahlen ;  Ergebnisse aus   dem Projekt MikroPlaTaS   

  NRW州における河川堰止め地のマイクロプラスティック;マイクロプラスティックプロジェクトの結果

  著者:Katrin Wendt-Potthoff他2名、連絡先:katrin.wendt-pottfoff@ufz.de

  写真2枚 図2枚 表1枚

 最近の生活様式や生活物資の変化、食・居住の在り方の変化により近年、特に都市内を流れる河川、広い居住地域を流れる河川を通してのマイクロプラスティック(MP)、その素材の拡大は目に見えにくいだけ余計に深刻な環境変化、破壊の要素となって来ています。

 この報告はドイツの2018年調査の事例でエムシャー川(371km)、リッペ川(220km)の貯留堰周辺3地点(2カ所/地点)での調査結果です。3か所でのマイクロプラスティックの種類、組成、量についての報告です。1m3の排水を汲み、500-100ミクロンのフィルターで採取しています。3地点(6ヵ所)のMPの組成ではポリエチレン、ポリスチロール、ポリプロピレンが主要です。

その99%は排水(家庭排水、事業所排水など)を通して流れ込んできていました。他にリッペ川の汚水処理場での結果1m3の組成と貝1個を通しての量が表示されています。

 

■ 河川水に含まれるマイクロプラスティックの量の把握や危険性は、近年、食物連鎖の関係で海産物、海で生息する生物に因るものが多いのですが、ドイツでは身近な河川水での状況調査、現状把握が最近進められてきています (勝野)。

 

4)Botanischer Gaerten als Arche Noah  ; Ex-situ-Artenschutz am Beispiel des Zarten   Gauchheils (Lysimachia tenella)

  Arche Noahとしての植物園  Zarten Gauchheilsを事例とした種保護

   著者: Jennifer Michel   連絡先:  jennifer.michel@uliege.de

 写真8枚 図2枚 表1枚

 天然記念物クラスの植物、環境省のレッドリストで絶滅危惧種に指定される植物が現地で生育する場合(in-situ)、その種を植物園などで保護・保存し増殖・育成する場合(ex- situ)があるようです。ドイツでのZarten  Gauchheils(Lysimachia tenella);プリムラ属(primulaceae)は、絶滅危惧種(絶滅寸前1A、絶滅危機1B)で南西ドイツB-W州地方のライン川畔)とライン川下流、NRW州パーデルボーン郡の自然保護地(極めて特殊で希少な立地条件下)に分布・成育しているだけです。現地での保護が難しく2009年8月国際植物交換ナンバー;IPENのDE-1-DUESS-3420の指定番号を取ってデュイスブルク市植物園に運ばれ、詳細な生育条件のもと色々な試験の下で成育調査が進められていますし、一方で遺伝子調査(遺伝子操作や遺伝子組み換え)の試みもされています。

 

■ 絶滅危惧種の保存について、種の採取、移動について厳しい管理の下で行われ、その結果、成果が試されると同時に現地(自然保護地区)での厳格な保護・保全が植物園、ホゴゼンターなどで進められていることが分かります(勝野)。

 

5)Flora im oestlichen Sauerland   Sauerland ; Was hat sich im 15 Jahrenan der Flora im   Untersuchungsgebiet  

      ザウアーランド東部の植物種 ;調査地区における15年間でどのように変化したか

  著者: Richard Goette   連絡先: richard-goette@t-online.de

  写真9枚 図12枚

「ザウアーランド東部地域に生育する植物」が出版されて15年後、同じ地域の植生について、「Hochsauerland郡、自然と野鳥協会」が調査し、その第2版が出されました。その中では、同地域の15年後の植生の変化、景観の変化が捉えられ、どのように移り変わってきたかを示しています。

ここで取り上げられている植物21種について、個々に生育状況、15年間の動き、変化の様態を分布図と合わせ明らかにしています。 21種の内訳は、気候変動・温暖化により変わった種(4)、園芸種が逸出したもの(4)、畑の縁辺部プログラムに因る種(3)、新たに加わった種(3)、外来種の播種により拡大した種(1)、集約的拡大した種(3)、戻ってきた種(3)です。 

■ 地域の植物の変化を長い期間かけ地道な調査、継続的調査で明らかにしており興味ある報告です。普通なら見過ごされてしまう「種」の動態を刊行物(本・テキスト)として纏められることは重要なことです(勝野)。