水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

海外雑誌でのニュース 4

 定期購読していますドイツ、ノルトライン・ウエストファーレン州自然・環境・消費者保護研究所(Landesamt fuer Natur Umwelt  und Verbraucherschutz NRW)発行の機関誌(Natur in NRW)2019.1が来ました。 

  本号の報告記事は、①リッペ川;2018/2019の河川景観、②オルソイヤーライン川蛇行部プロジェクト、③農業地域での自然保護、④自然樹林(Naturwald)での土壌生態的研究、⑤テレメーターを使ったワシミミヅク調査研究、⑥自然保護、環境教育における世代交代 の6編が中心です。その内容を概説しておきます。記事の内容の詳細にご興味お持ちの方は、ご連絡ください。原文(ドイツ語)をコピーして送ります。

 

報告①: 2018/2019年の河川景観;リッペ川(Lippe:Flusslandschaft des Jahres 2018/2019)    著者:Dr.Margret Bunzel-Drueke、 Dr.Svenja Storm

 リッペ川はバードリップスプリンゲからルール地域を東西に220km西に流れ、ヴェーゼルでライン川と合流する河川です。ルール川と共に工業地域の重要な河川(以前は工業地域の工場排水が流れ込み汚染がひどかった。並行してヨーロッパ最大の運河があります。)です。工業化時代にコンクリート護岸化と河床掘り下げ、直線化が進み、緑や自然からかけ離れた河川でした。

 2000年以来、「河川景観年」が2年ごとに指定され、周辺景観や地域住民を守るため、河川の生態的、経済的、社会文化的視点からの見直し、再整備(自然化)が行われてきています。そのため、これまでのやり方の欠点を見直し自然に配慮したレクリエーションサイクリング、ハイキング、釣りなど地域を目指し、河川の持つ本来の姿として再自然化対応Renaturierungsmassnahmen;動植物への配慮、土手の整備) の計画を進めています。

河川管理者、民間団体(自然保護、レクリエーション(サイクリング、ハイキング、水上スポーツ)、幅広い団体での共通の意識、認識。単なる河川空間での再自然化事業ではありません。

なぜ河川の再自然化を進めるのか。欧州議会でのNatur 2000プロジェクトに基づく計画作り、それから20年後の状況が報告されています。

 リッペ川上流部の川底は砂礫、下流部は砂の堆積があり、地区的に一部岩礁地区があるものの最下流部は再び砂礫になります。1980年代、このルール地方は人口集中が進み、河川整備ではコンクリート護岸化、河床掘り下げ・直線化が進められましたし、褐炭採掘により河床が沈み、地区によっては高い土手盛土(17m)が余儀なくされていました。 しかし、再自然化事業の進展に伴って水質の改善、河床や水辺で自然化が進められ(魚類や野鳥、野草の回帰・回復)自然が戻り、河川環境が良くなっています

 リッペ川(Bad Lippspringe)から(Wesel)までの間、河川220kmの間で10か所、再自然化事業を展開、具体的な近自然工法での整備が進められています。ほぼ半分(110km)の上流部で7か所、下流部Hamm市から合流地Weselまでの区間で3か所進められています。事業については用地買収から工事遂行まで、NRW州政府はじめ自然保護、郷土保護、文化財保護等の財団により支援を受け、各市・郡で2000年以後、今日まで再自然化工事(堰の取り壊し・改善、護岸の改良・自然化など10地点で)進められて来ています。改修工事では関連する社会インフラ(道路、河川)、隣接土地利用(農耕地など)と連携を持ち総合的(本来の自然豊かな水辺空間の整備)に進められています(詳細は原文)。

 

報告②: オルソイヤーライン川蛇行部プロジェクト( Life+-Projekt  im Orsoyer Rheinbogen)

 河川高水敷を生息域とする絶滅危惧、希少種の保護のためのプロジェクト

著者:Regina Mueller 

 この報告は、欧州自然保護地区網(Europaeichen Schutzgebietnetzes Natura 2000)の一つであるオルソイヤーライン川蛇行高水敷での典型的な危機に瀕する生息動植物について、Wesel生物調査所が行った「欧州Lifeプロジェクト」に基づく対策の5ヶ年(2013-2018)の報告です。

 ライン川河川敷を含む801ha(内397haはFFH地域;Fauna-Flora-Habitat;欧州Lifeプロジェクト)はライン川下流部の蛇行高水敷(10kmにわたる水衝部と堆積部)。高水敷の土地利用は止水域(池沼)、過湿樹林低地(5.6ha)、野草種の多い草地(17.3ha)、鳥類が生息繁殖する粗放的管理牧草地、水際放牧部(65ha)から成り80%は公有地です。野草地内では、これまでに各種の種子が蒐集され、すでに7種の希少種が播種され野草の回復が図られてきています。また、カエル類の確認もされており、2018年にはレッドリストの野鳥類各種(ケリ類、シギ類などの仲間等)の生息、繁殖が見られる牧野にもなっています。2016-2017年、現場で色々な対応策、実験的措置、詳細計画が検討され進めれれています。

 

報告③:農業地域での自然保護 :Naturschutz in der Agrarlandschaft

著者:Heiko Schmied、  Christiane Baum

 この報告では、農業における生物多様性(Biodiversitaet)が農業形態変化、農地の減少、気候変動等により危機的な状況になっているとして、ライン地域文化景観財団、ウエストファーレン地域文化景観財団、そして農家と連携し、生物多様性保全、エコシステム保全を目的とした自然保護対応措置(Naturschutz-massnahmen)を検討しています。

 農業地域でも21世紀に入って種や生物多様性に関する問題がより大きくなっています。いろんな昆虫類の激減(西ドイツでは1989-2016年の間、飛翔性昆虫の75%が消失*)が報告され、また、生態的サイクルで野生あるいは栽培植物の受粉に携わる昆虫類の重要性が見直されています。NRW州では多くの野生ミツバチ種が危機に瀕しており、近い将来、絶滅が心配されています。農地ではヨーロッパヤマウズラの生息を守るため適切な対策が求められています。そんな中、ブンブンラインランド プロジェクト(Summendes Rheinland)として、3種の対策が行われています。1)郷土種の混播による耕作、2)農地縁辺部の野生草地の創出(多年生地元種:郷土種から成る草花帯)3)受粉支援箱の設置(野生ミツバチ用の巣)です。

この地域には野生草種27種が合うとされ、15種の園芸種も用いられています。このプロジェクトでは既に50kmにおよぶ草地が新たに創出され、面積では450haに及んでいます。2015-2017年の間には蝶と野生ミツバチによる調査結果も報告され、対応策の効果が示されています。

 このプロジェクトの遂行には農家の参画と研究者(昆虫学、土壌学、農業栽培学等)、行政の専門分野職員など色々な部署、関係者が関与し、時間をかけデータを収集し効果の検討がなされてきています。これは、NRW州の環境保全に対する方向を示すもので、その効果が経過報告としてあります。行政的に関連部局による指針・計画作り、指導と研究機関、参加農家の共同成果として実を上げていると思います。

 

報告④:自然樹林(Naturwald)での土壌生態的研究 Naturwaldzellen als Ort bodenoekologischer Forschung 

著者:Niels Hellwig  Mariam Hourani 他

 自然樹林としてのブナ林、ミズナラ林における土壌学的、生態的研究の報告です。ドイツでも減少の一途をたどる自然樹林で、ミュンスター地方のアメルスビューレン(Amelsbueren)の樹林を対象に、樹林内の腐食層(Humusform)の30年(1985-2016)経過を調べた報告です。 NRW州では1.575haの森林のうち75haが自然樹林(1970)。このAmelsbueren樹林は14.4haの小さな樹林でブナ・ミズナラ林です。樹林内の表層土壌の違い、腐食層の違い、その中に生息するミミズの仲間の生息状態を報告しています。

 

 報告⑤:テレメーターを使ったワシミミヅク調査研究:風力発電施設地区における生息域生態調査

 著者:Oraf Miosga,  Steffen Baeumer, Stefan Gerdes ら

 この報告は2014-2017年の、ドイツ7地区での調査結果に基づいています。風力発電施設(概ね羽根の及ぶ範囲を含め90-200mの高さ圏)のある樹林地での行動調査で、その結果、塔施設の範囲(90-200m)は飛翔しません。7地域(平坦地;5地区、傾斜・山地;4地区)の違い、地形構造(平たん地と傾斜・山地)の違い、ワシミミズク雌・雄の違いなどをGPSテレメーターを使い調査し、その結果を取りまとめたものです。

 ①ワシミミズクの飛翔は地形に沿っている。②ワシミミズクの採餌は空間がやや開けた農地・樹林(Kulturlandschaft)で行い、建て込んだ居住地、閉鎖的樹林内では行わない。③保護地には色々な大きさがあるが、行動は概ね営巣地から3km圏内である。④飛翔は1kmを越えず、まれに5kmの場合もあった。1回の飛翔時間は、190秒程度である。⑤飛翔は周りの状況に合わせ、短い区間飛翔し枝に止まったり、途中樹木で休息留まる。特定の留まるポイント(屋根、樹木、高所)が決まっている。⑥平坦な地区では地上50m以下で飛翔、樹冠より低く飛翔しない。⑦森林地区では、地上20-40mの間を飛翔。⑧開けた場所では地上20m以内で飛翔し、2か所ほどの止まり木を経由、戻りは長い距離を飛翔。⑨風力発電塔はワシミミズクには影響していない。

 高い風力発電塔では影響しないが、低い塔やプロペラの大きさなどによっては問題があること、生息・繁殖地近くの風力発電施設では衝突の危険性は避けて通れない、と報告しています。

 報告⑥:自然保護、環境教育における世代交代(Generationswechsel in Naturschutz und Umweltbildung)   著者: Eva Pier

 2018年11月、NRW州自然保護アカデミーで行われた会議が行われ、その際、このテーマについてワークショップで討議されたものです。ヒアリング、意見聴取の経過(流れ)は割愛し、参加者140名前後(若者から年金生活者まで)の考え方の違いが示されて、なかなか興味深いものがあります。

 ドイツにもベビーブーム時代があるようで(1950-1964生れ;54-68歳)を最年長BBクラス、1965-1980生れ;38-53歳)Xクラス、1981-1995年生れ;23-37歳)Yクラス、1996-2010年生れ;8-22歳)Zクラスに区分して、考え方、生きる上で重視する項目、モットーを示しています。

コメント】 

 「ヨーロッパLife-プロジェクト2000」欧州議会で決まり、関係国でこのプロジェクトが21世紀初頭から20年に渡って進められて来ていること、それを各国が具体的地域を設定し自然保護、環境改善(自然や緑に配慮した計画)の遂行をしてきていること、が素晴らしいことです(日本では地球的命題の環境対策を地球規模で計画作りを行っていません)。関係国それぞれが国内で、具体的な地域設定、課題解決のための措置・事業を進めてきています。ドイツでは、このプロジェクトの名のもとに、具体的テーマに基づいて都市内、都市周辺部、農村で新規事業計画を進めて来ており、その一端が今回の報告です。

特に、計画に基づき欧州の国の連帯を意識しながら、自国の自然保護、住環境整備、緑の計画、農林業の在り方等について、時間をかけ検討し、調査し、データを作りながら環境をより良くしようと実施、実現する動きが如実に表されています。

 

  報告⑥については時間が取れたら詳述したいと思います(独白=スミマセン)。

問い合わせ・連絡先メールアドレス;biber1122@mri.biglobe.ne.jp

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