水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

海外雑誌での研究 12-2

今年コロナ大流行の第2号の内容は、以下の通りです(原文転記;前号同)。

1) Neue Instrumente fuer die Waldbewirtschaftung im Klimawandel

2) Pflanzenvielfalt an der A40 im westlichen Ruhrgebiet

3)    Bedeutung temporaerer Gruenland-Schonstreifen fuer Tagfalter

4)    Wanderungen heimischer Flussfische in der Wupper

5)    Haselhuhnsuche mit einem Spuerhund

 

 毎号進めてきていますドイツのNRW州における自然保護や緑地保全に関する事例報告他の概要を一部;12-2では3)~ 5)について紹介します。 12-1では1)と2)について報告しています。

  

3)    Bedeutung temporaerer Gruenland-Schonstreifen fuer Tagfalter

   「蝶類保護のための畑・牧野縁辺部保全の意義」

 Jennifer Piechowiak   ほか他2名 (キエベ郡自然保護センター)

問い合わせ先; Jennifer Piechowiak ; piechowiak@nz-kleve.de

                         Dr.Kristin Gilhaus ;  kristin.gilhaus@lanuv.nrw.de

 

 昆虫相と農業(牧野、畑)耕作との関係はこれまでにもいろいろ述べられてきている。施肥や農薬散布が昆虫相の動態に大きく影響を及ぼしており、1990年の報告では牧野に特化した野生草種(17種のうち39%が危機に瀕している)のあることも明らかになっている。

 この報告はNRW州のライン川下流域(旧河道域の残痕湖のある地区における耕地;畑・牧野の混在する地域)における耕地縁辺部草地(草種の種を播種した粗放牧野と播種しない粗放牧野、集約牧野)における昆虫相の調査結果である。

 耕地縁辺部草地は21か所設置(うち15カ所は粗放的管理、6か所は集約管理)している。粗放牧野では年2回(6月中旬と9月末)に刈り取りし、施肥・薬散は無し。集約牧野では年3-4回刈り取りし施肥・薬散ありである。21か所の内19か所は自然保護地区にある。

 調査の結果、14種の蝶類が確認され、うち4種はNRWのレッドリスト種であり、粗放的牧野縁辺部草地のみで確認された。他の10種も草地に特化した種で野生草地の創出は意義がある。季節的な出現の状況では  6~7月、集約的管理農地の草地に比較して粗放的管理農地の野生草地に極めて多く出現していた。野生草地は吸水、吸蜜期だけでなく秋から冬季にも重要である。

 提言として以下の4点を挙げている。

1)種保護の点から野生草種を播種することは蝶類にとって開花のほか多様な機能に

  特化して重要であり、野生生物ネットワークを計画するうえで重要である。

2)草種は長期的視点で選択し、播種後2年ほどはそのままにして様子を見ること。

3)その年の最後の刈り取り後には刈草を昆虫相の越冬のためそのままにしておく。

4)野生草種帯は可能な限り大きく(少なくとも数m幅)し縁辺機能も顧慮すること。 

 

4)    Wanderungen heimischer Flussfische in der Wupper 

  「ブッパー川における在来魚種の変遷」

 Nicole Scheifhacken  他2名 (デュッセルドルフ広域圏ー上級漁業局)

問い合わせ先;Dr. Nicole Scheifhacken ;  nicole.scheifhacken@brd.nrw.de 

                         Dr. Britta Woellecke ;  britta woellecke@brd.nrw.de

 

 この報告はブッパー川における回遊在来魚(potamodrome Arten)の野外での実態調査であり、いつ、何時頃、どの区間発電所のある流域)で生息しているかHDX技術(魚に発信マイクロチップを埋め込み受信機で動きを読む)を使って調べたものである。

Wupper川はルール工業地帯の南に位置し、ルール川の流域と上流部で接し、多くの貯水湖があり、河川は逆U字型でWupper地域を東に流れ、ライン川に注いでいる。この川はAescheとBarbenの生息で有名であり、下流域はウナギとサケの保護地域でNATUR-2000の地域(556ha)にも指定されている。この調査したWupper川には9カ所の発電所・堰(うち5カ所にHDX機受信機設置、4か所設置せず)があり、5カ所は堰だけである。魚類生息調査した区間は7区間で、最下流区は2013年に、他の区間は2015~2016年に調査が行われた。

調査の結果、15種3088匹が確認され、うち3種(Bachforelleニジマス ,Aesche ,Nase)がそれぞれ20%を超えており、601種(19.5%)は複数回カウントされていた。その魚種はBarben(35.7%)、 Nasen(33.8%)、 Hasel(32.5%)、Hecht(60%)、 Barsch(24%)である。

 その他、季節的移動については早春3月と10,11月の2期に川を上り、春(4月)~初夏(7-8月)川を下る(特殊な種では12月)様相が捉えられている。日変動では、夕方5時から明朝6時までの夜間に移動の多いこと(下流域Auerkottenダムでは)が示されている。 

 

5)    Haselhuhnsuche mit einem Spuerhund 

  「臭覚探査犬によるライチョウの探索」

 Joachim Weiss  他1名 

問い合わせ先;Dr.Joachim Weiss ;  jo.weiss.Ih@web.de 

                         Christoph Junge ; mail@fachbuero-biologie.de

 

 この報告は、NRW州で希少種のTetrastes bonasia rhenata;(エゾライチョウ;Tetrastes bonasia: の仲間)は絶滅してしまったのか、まだ生息しているのか?州の研究機関が臭覚探査犬を使って調査を行った報告である。

リンゲルシュタイナー地域の森林は現在までNRW州に残されたライチョウ:Tetrastes bonasia rhenata;の生息域である。この地域において2018秋季と2018~2019冬季の2回にわたり2種類の調査法により調査された。1つは従来の聴視覚法(羽根、足跡、生息痕探査)であり、もう一つは臭覚探査犬(ライチョウ探査の訓練を受けた)を用いる方法である。

リンゲルシュタイナー地域西南部の樹林帯(山間尾根部から谷まで)を営巣期の2018年9月、12月、2019年2月(早秋、晩秋、冬季)に亘って調査した。9月20~22日 12月13~15日(2018)、冬季は2月6~8日(2019)ライチョウ調査の専門家と探査犬調教師共同で行われた。調査ルートは営巣と生息可能性の高い地区では左右10m、ルートは50m離れて設定し実施し、GPSを使って図化している。結果では2019年2月のデータで224ha(調査地域)中、80.8ha(36%)が、51.1a(23%)が普通、92.1ha(41%)は不適を示した。谷筋の広葉樹を主体とした樹林は営巣に良く、明るい遷移の進んだトウヒ林も適である。従来の単なる視覚的調査法より探査犬を使った手法が適していることが分かり、今後さらに具体的な問題点を解決して進める必要がある。 

 

 

毎号、最初のページに【トピックス】欄があり、全国的な話題やテーマに関連する事項、州独自の事項・記事が挙げられています。20項目あるうち,今回の報告に関連のある4-5項目を取り挙げます。 

【トピックス】

① 近年の異常気象(林地乾燥)と森林被害    関係先:BMELとNABU 

 ドイツ農水省(Bundeslandwirtschaftsministerium;BMEL)は2020年の森林状況について以下のように報告している。

 (今号の表紙写真はドイツトウヒ林の葉焼け(枯死)の有様を映したもの.。枯れた森が赤茶けて広がっており、   大きな被害を受けている状況を示している)。

 近年(2017-2020)の乾燥(旱魃)とカミキリムシ異常発生、暴風雨、森林火災などにより多くの森林被害が出ている。樹種の4~5種(トウヒ;79%、マツミズナラ;80%、ブナ89%)、樹林全体では37%が葉を落としている。これらの樹林では予想より早く26%が落葉している。特にミズナラ(Eiche)では深刻であり、2015年からブナ(Buche)や他の針葉樹(トウヒなど)、2018年からトウヒでも続いている。BMELの見積もりでは凡そ285.000haが植林されなければならなくなっている、としている。

 

②魚類の生息調査    応用生態研究所(Institut fuer angewandte Oekologie GmbH)

ドイツおよび周辺国の河川には150.000匹の魚類、ウナギ類が生息、その動態を捉えるためにドイツ環境財団(Deutschen Bundesstiftung Umwelt)は”魚の動き;Fisch Trek"のプログラムで調査を進め、超音波発信機(マイクロチップ)を付けた魚と受信機の動きから魚の動態を調べている。ドイツ釣り人協会なども参加し魚種、場所、時間などのデータ(通報者に謝礼で20ユーロ支払)を集めている。

 調査手法は4の報告と関連し、全国土レベルで魚類動態を調べようとしている。国際河川の多いドイツでは、各州の河川で魚類の動態調査(マイクロチップと受信機活用による)が進められている。

私見】日本で、河川における魚種別の動態が最新機器を使い調べられているのだろうか。

 

③ 野生草種導入へのキャンペーン     

                 ライン地域文化景観保護財団(Stiftung Rheinische Kulturlandschaft)

 ドイツでは現在、野生草種の導入(本報告3の農耕地縁辺部緑化帯造成)の意義理解・推進の為、「採種地云々を問わない野生草種導入キャンペーン Lokal,regional - ganz egal?!」を進めている。市町村はじめ計画・設計事務所、自然保護に理解ある種苗会社、農業関係者など多様な機関に、その重要性を説いている。これには連邦環境省(BMU)、ドイツ自然保護研究所(BfN)も支援している。

 【私見】野生草種の特別区が耕作地に設けられていることは、ドイツでは特段新しい事ではなく農業分野では自然保護(種の保護、種の多様性保護)と関連し、EU内での重要施策として取り上げられてきている。

 

④ソーラーパネル設置について基準が作られた  ドイツ自然保護連盟;NABU                     (Naturschutzbund Deutschland)

 自然再生エネルギー(特にソーラーや風力)に関する動きはドイツでは既にいろいろ進められてきている。特に近年エネルギーにおけるソーラへの傾注が大きくなり、パネルや屋根の造成、建設に当たって地表を覆う施設への対応が十分でない。特に土壌保護、地表の動植物、その生息空間における作用環の保全に十分配慮されていない。そこでNABUと BSW(ドイツソーラー産業連盟)は自然アセスメント(naturvertraekliche Solarparks)ソーラ施設の基準を提言している(施設率、動植物への配慮;地表移動や空中移動動物、その獣道など)。

 【私見】日本で、自然保護とソーラ機器関連企業・同団体(財団など)が同じ考え方で共同して対応する動きがあるのだろうか。日本でも自然再生エネルギーへの重要性が指摘されてきているが、このような他の分野との共同歩調・自然資源に対する考え方に基づいて進めようとする動きがあるだろうか、考えられているのだろうか。熱海市の土石流災害に関連して、当該地区にソーラ施設があり関連性が話題になったことなどから、ソーラ施設の開発行為に対する環境配慮としての動きは重要であろう。