水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

海外雑誌での研究 11-2

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ここでは11-1に引き続き、以下の3編の事例報告について、その概略を示します。

3)    Das Roehricht kehrt zurueck

Erste Ergebnisse aus dem LIFE-Projekt "Reeds for LIFE--Lebendige Roehrichte"

 水辺・ヨシ帯の復元   LIFEプロジェクト「ヨシ植栽ーーLIFE」の成果

 著者:Achim Vossmeyer他4名 B.Sc.Landschaftsoekologie Corinna Roers

  Naturschutzzentrum im Kreis Kleve e.V. Rees-Bienen

 問い合わせ先:vossmeyer@nz-kleve.de

 

 NRW州のライン川下流域には多くの河跡湖三日月湖;旧河道)が残っている。この報告は自然保護センター(クレーフェ協会)のライフプロジェクト(LIFE-Projekt Reeds fuer LIFE;生きてるヨシ帯)が2018年からビーネナーライン川旧河道で進められている。主題はヌートリアの生息コントロールであり、その侵入によるヨシ・ガマ帯への影響を明らかにすることである。同時にガマ群落を再生させるために代替の餌となる植物を明らかにすることにある。

ビーネナーライン旧河道はライン下流域で最も価値の高い、貴重な河川低地、旧いライン川の河道で河跡湖が残り、その殆どが自然保護地区およびFFH地域(Flora-Fauna Habitat Gebiet)の中心地区になっている。同時にヨ-ロッパにおける代表的な鳥類保護地区:Unter Niederrheinでもある(添付写真  下図ー左)。

 面積は650ha、これまでには幾多の希少な水辺植生が生育し帯状に植生帯を形成していた。ヨシーガマ帯はここ十数年間に激しく後退し、1995-2011年の間に65%(16ha)が消滅した。特にガマ(Typha angustifolia)は全滅している。これはヌートリアの食害によるものである。EUのLIFEプロジェクトは2017年に申請、2018年に認可された。このプロジェクトは7年半、2025年末まで行われ、周辺の2つの自然保護地(ライン川旧河道跡地)も含んでいる。

 プロジェクトはヨシーガマ帯の再生と同時に水鳥やそこに生息する動物相の保護とも関係する。プロジェクトの最終段階までに、高草丈ガマ帯は12ha拡大される。このプロジェクトの趣旨は、①ヌートリアのコントロール、②典型的な植生の食害防除(1,5haは柵で囲む;餌となる水辺植生、ヨシ・ガマなどの保全・拡大のため)、③水位のダイナミックな変動(水位変化);水辺植生にとっての開花・結実に伴う種子生産や生育が魚類の生息と対応、また植生が水位変化と対応してダム的役割を持っている。④3haに及ぶヤナギ類生育地の開墾

ヌートリアのコントロール (下図ー右)

 ヌートリアはドイツでは1960年頃から出現し、1990年代にはどこでも見られるほどになっている。2000年になってライン低地でも増加が見られるようになった。ヌートリアは年3度繁殖、1回に4-5匹産み5-6か月で成獣になるため増加が激しい。外来動物でありEUでは取扱注意獣になっており、3段階で対応しなければならない。①侵入種の持ち込み禁止、②早期警戒情報により拡大警戒、③定着個体のコントロール計画作成

2019年から2020年にかけLIFEプロジェクトの計画により捕獲され大きく減少してきており、同時にヨシーガマ植生の復元が成功してきている(2018年;120株~2021年;5202株植栽)。捕獲されたヌートリアは①近くの動物園、②他の肉食動物の餌、③毛皮の利用、④学術的研究、として再利用される。

 この他に河跡湖の水辺にヨシーガマ植栽試験地を設け、復元植栽実験を10種類の植物を使って2018-2020年に行い報告している。植栽試験に用いられたヨシーガマ類は次の通り。

Phragmites australis(5月植栽は〇、8月植栽は×)、 Typha angustifolia T.Iatifolia(ともに8月植栽〇)他にCarex gracilis、C. riparia,  Glyceria maxima  である(上図-左)。  

 

 因みに日本に生育するヨシはPhragmites communis ツルヨシは  P. japonica セイタカヨシは P. Karka、ガマはTypha Intifolia  コガマはT. orientalis ヒメガマは T.angustata、ドジョウツナギ等(Glyceria ischyroneura, G.aquatica, G.arundinacea)である。

 

4)    Zehn Jahre  Fischmonitoring an der Niers

Ergebnisse eines intensiven Messprogrammes

    ニース川における10年間の魚類モニタリング 集約的調査プログラムの結果

 著者:Ute Dreyer他1名

 問い合わせ先:niersverband Viersen   dreyer.ute@niersverband.de

 

 この報告はライン川に沿って流れるニース川の魚類生息状況を10年(2010-2020)に亘って調べたもの(集約的に魚相;質と量)である。ニース川はライン川と並行して南から北へ下る中規模河川(113km)、ニンベルゲンでマース川に合流、オランダを流下しロッテルダム地方で北海に注いでいる。合流地点までを3区分(上・中・下流域)し10年に亘って調査し得られた結果である。中流下流部では河川の再自然化事業が行われている。

川幅7m以下では両岸から電気漁網で水辺の植物周りで捕獲、7m以上ではボートを使い電気漁網で捕獲している。10年の調査期間の間で2018-2019年(乾燥年;降水量が極端に少なかった)の影響は見られた。35魚種の年変化、再自然化事業の前後の状況、流域区分別生息状況等を分析し、河川再自然化事業の効果を高く評価している。(上図ー右)

 

 

5)    Gebietsheimische Wildpflanzen fuer Balkon und Garten

 Erfahrungen aus dem Koelner "Naturnahe Balkon" zur Etablierung von

Wildpflanzen mit gebietsheimischer Genetik im Gartenfachhandel

 バルコンや庭のための地域性野生草種 (写真参考) 

園芸店での遺伝的地域固有野生種「自然に近いバルコニー・庭緑化」のケルン市における事例

 著者:Brigit Roettering 他1名

 問い合わせ先:NABU Stadtverband Koeln  brigit.roettering@nabu-koeln.de

 

ケルン市のプロジェクト「野生種を使い自然に配慮し、自然に近いバルコニー・ベランダ庭の緑化」

 ケルン市自然保護協会(NABU Stadtverband Koeln)は2019-2020年に民間の種苗会社と組んで「自然に近い、地域に根差した(郷土種)野生草種の導入」のプログラムを進めてきた。民間種苗会社(アレキサーナー修道院花園会社;Alexianer Klostergaertnerei)は通信番号(Deutsche Postcode Lotterie)で先進事例のプロジェクトを開始した。

 これは地域の野生草(特に可愛い花、綺麗な花を付け昆虫相の好む野生草)の種を栽培し苗を市民が栽培、広げる試みである。牧野や下草のある果樹園に生育する野生草種を都市住民のベランダや屋根のあるバルコニー、さらには庭に持ち込むものである。この団体と会社は2019年夏に「野生草によるバルコニー自然再生」:Naturnahe  Balkone、としてスタート、種子は連邦自然保護法に準拠し適切な地域、立地から集められた種子を播種育成、育苗し公的な行動プログラムで実施に移された。17種の好日性野生草を2019年春、温室内で播種、育成、2020年3月10,000鉢作成、同夏にはコロナ禍の中で4000株(鉢)を出荷した。同時に会社、協会はSNSFacebook, Instagramm,Internetseite)を通して広め、市民農園協会、教育施設(学校、市民館)で勧めた。

 この行動が可能になったのは民間の種苗会社があったこと、現在の社会の状況がこのプロジェクト、活動に合致していること(種多様性保護、地球環境保護など)、1万鉢の野生草が都市内の花の咲くバルコニーやベランダになり蝶、ミツバチなどの生き物との共生が計れることである。 

 

【訳者のコメント】

NRW州における、緑や自然に対する行政側の方向性、計画性、実践力が結果となって示されている報告(5編)です。雑誌の名前が「NRW州の自然保護」ですが、その根幹となる資源(種や生息域)動態(年変化、地域特性など)と他の分野の幅広い関連性を詳細に示しています。州レベルの報告ですが、それを支援し、実施に展開する下位の行政機関への情報提供のシステムには感心と羨望を抱いてしまいます。「彼我の違い」で片づけるのは簡単ですが、地球人として日本もその方向へ向かうべきではないかと思うことしきりです。日本にも河川下流域や河口部に広いヨシ原があるし、外来動物のヌートリアが地方の小河川水辺に生息・繁殖増大している姿を確認し知る者として、地球環境保全の視点での対応が、我が国ではまだまだ、と思います。ましてや野草や郷土種をバルコニーやベランダ、庭に広げるプロジェクトが大都市の「緑と自然」の中で、行政と民間が共同で位置づけようとしている状況には、溜息と羨ましさがでます。