水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

海外雑誌での研究 10-1

ドイツ、ノルトランウエストワーレン州の機関紙「Natur in NRW」2020年,4号が送られてきました。

第4号の内容は、以下の通りです(原文転記)

 

1)Der qualitative Zustand von FFH-Lebensraumtypen in NRW

 2)Vertragsnaturschutz in NRW ---Bilanz und Herausforderungen

 

3)Naturkapital artenreiches Gruenland 

著者:Apl.Prof. Dr. Mechthild Neitzke 問い合わせ:mechthild.neitzke@gmx.de:

4)Vitalitaet der Buchen in Naturwaldzellen

著者:Johannes Schlagner-Neidnicht他3名

問い合わせ: johannes.neidnicht@wald-und-holz.nrw.de

5)Blankaate  und Lachssmolts--Abwanderung aus der Wupper;

著者:Britta Woellecke  問い合わせ:britta.woellecke@brd.nrw.de

  

毎号進めてきていますドイツのNRW州における事例報告の概要を一部紹介したいと思います。10-1では1)、 2)について、3)~ 5)は10-2で報告します。

 

1)Der qualitative Zustand von FFH-Lebensraumtypen in NRW

  NRW州におけるFFH-保護区の質的状況

著者:. Dr. Juliane Ruehl  他3名  問い合わせ:juliane ruehl@lanuv.nrw.de

 

 NRW州には44か所のFFH保護区(野生動植物ハビタット保護区)が指定されています。

そこでは決められた保護管理指針に従って管理されてきていますが、今回の報告(2019年州立自然・環境・消費者保護省;LANUV発表)では適切な維持管理に基づいて質的基準を保っているものが1/3にも満たず、他はいろいろな危機に瀕していると報告しています。保全現況は6年ごとに州により報告され、各州の結果と調整しEU委員会(EUーKommision)に提出されています。

 この調査報告は、44か所の保護区をEU指標に基づき、その内容(動植物)と状況により3段階、評価を優良可の3段階で評価し、評価の組み合わせで保全状況A~Cを決めています。44か所の保護区は、それぞれ立地特性から個々の保護区での対応策が指摘されています。

 報告の中でNRW州では自然立地で「大陸性=kontinental」と「海洋性=atlantisch」に分けられ、その中で44か所のどの保護区でも、冨栄養化(Eutrophierung)、排水事業・乾燥化(Entwaesserung/Trockenheit)、牧野での放牧ー牧草刈り取り手法などにより動植物が影響されている、としています。その結果から、各保護区ごとの適切な保護保全に対する維持・管理がなされる必要があると指摘しています。

 

2)Vertragsnaturschutz in NRW ---Bilanz und Herausforderungen

著者:Ulurike Thiele   問い合わせ:ulrike.thiele@lanuv.nrw.de

 

 この報告はこれまで進められてきた自然保護の施策に対しどう進められてきたか、これから何をどのようにすべきかを考察しています。

 NRW州では、これまでの30年間、農業分野と共同で自然保護施策を進めてきています。この施策が次の段階を迎えるにあたってこれまでの内容を検討し何が達成でき、次の施策としてビオトープ・種保護の視点から何を行うか、の報告です。

 NRW州では30年来、中心課題として農業分野と共同で自然保護協定を続けてきています。その協定の終了に当たってこれまでの施策を検証し何が実現し、何が課題として残り、ビオトープ・種保護施策の法的目標を達成するため次の新しい助成期間の時期になります。この間の施策支援・承諾は1980年代中ごろまでは増減を繰り返していましたが2014年以降は着実な伸びを示し、NRW州では2020年に37,000haの自然保護協定地区となり、年3.100haの伸び(2020)なり、ほぼ目標達成値になっています。補助金も約2000万€に達し、45%はEU, 51%は州が出しています。この成果は農業分野と自然保護分野、生物センターの共同の賜物、特に農家に対する説明、助言、指導による協定参加などによるものです。

 いかに農業分野との連携がこの自然保護協定と関係するかは、その対象地の内容を見ても明らかです。農地の内、畑では粗放的耕作、耕作放棄地の再生、畑の縁辺部野生草保護、窓枠型草地設置、特定種のための穀類栽培、牧草地では粗放的草地、EUのFHH保護プログラム参加、特殊な種保護の牧野形態維持、共通しては少量施肥、減農薬さらには特定種保護のための作付け期間・維持管理期間の制限、放牧頭数の限定等々、大変かぞ多くのプログラムが設定され農家が参加しています。その間を取り持つ行政側各部局の人々の努力(導入した施策のデータ処理・保存・紹介・広報など)も多岐にわたっています。

 5.600件の参加農家ほか農地関連企業のプログラム別比率は添付写真のようです。このプログラム推進では行政側部局間相互や農家との密なるコンタクト、情報共有、相互理解無くして実現が不可能です。また、自然立地空間単位により大陸系(kontinental)と海洋系(atlantisch)により畑の粗放化、牧野の粗放化それぞれに違いがあります(添付写真参照)。

 

 

【私の感想】

この報告はこれまでNRW州の農地(畑から果樹園や牧草地まで)における自然保護協定の歩みについて述べていますが、30年以上(1980年以降)の成果をもとにいかに関連部局(農業と自然保護、生物資源)の密接な関係、相互理解と指導、農家に対する種保護やビオトープ保護の必要性・重要性の説明、説得を着実に進めてきたかが分かります。この間、私もドイツの専門誌を通してこのプログラムの進展を20世紀終わり頃から見てきました。今回NRW州の30年来の取りまとめが上記の報告にあるようにされ、実りある進展を見てきていることは今後(地球環境時代の)の動静にも大いなる成果が期待されます。我が国も、NRW州同様に少しでも近づくことを期待したいと思います。 

 

3)Naturkapital artenreiches Gruenland

4)Vitalitaet der Buchen in Naturwaldzellen

5)Blankaale  und Lachssmolts -- Abwanderung aus der Wupper (次号)

 

本4号で、短報記事には次のようなものが挙げられていました。

① 栄誉ある賞が昆虫研究者に; ドイツ環境財団(Deutschland Bundesstiftung Umwelt; DBU)は マーティン・ソルグ博士にドイツ環境栄誉賞(Ehrenpreis des Deutschen Umweltpreises)を授与(賞金10.000€)。Sorg博士はクレーフェルト昆虫協会の科学研究指導者・会長で長くクレーフェルト地域の昆虫相減少に関係し、30年間にわたる飛翔性昆虫を調べ、その76%が危機に瀕していることを調査研究報告してきました。出典;DBU

② ドイツでキンギツネ?(Canis aureus)の生息拡大;NRW州ではじめてキンギツネの生息が確認された。2020.8初めてルール川沿いのMuelheimで、その後9月にはオランダ国境のクラネンブルクでキツネは放牧されていた羊を殺し、その行為から遺伝子検査をし判明しました。農村部で生息し齧歯目獣や両生類、昆虫類から魚、アリまでも食し湿地にも適応しています。生息拡大は北及び西方向に延びています。ドイツでは1998年から確認されています。(出典;LANUV )

③ レッドリスト種(多くの齧歯目獣、例えばノウサギ)の生息状況が悪化;ドイツではここ15年来、齧歯目獣の減少が著しく、その1/3は生息環境の悪化が原因(連邦自然保護研究所;BfN、レッドリストセンターのデータ;2020.10公表)。ドイツでは97種の齧歯目獣が自生種、その内ノウサギやコウモリなどが減少、研究所所長(Beate Jessel教授)は、生息環境の保全保全指針が重要と指摘、農地だけでなく水辺や草地、樹林地、都市の緑地などの生息域、ビオトープ等が重要でありそのネットワークが必要と明言しています。(出典;BfN)

④ NRW州で鳥類保護・LIFE施策(牧草地鳥類保護)始まる; 2020,10月NRW州でEU-LIFEプロジェクトの牧草地鳥類保護(Wiesenvogelschutz)施策が始まりました。NRW州の低湿地(Niederrhein からMinden-Luebbecke郡)における8か所のEUー鳥類保護地域=鳥類の繁殖地確保(シギやカモ類、カササギ類など)は、さらにはカモ類や海鳥の休息地として保護されます。この施策により州の湿地生息鳥類保護は充実改善します。総費用は1900万オイロ=€、内訳は1140万€はEU-LIFEより、750万€は州から拠出されます。実務は州立の生物ステーションとオランダ鳥類連盟(SOVON)で進められます。2027年末までに全体の指針が決められます。農地の確保、粗放化、樹木の伐採、乾燥化防止、データー整理と広報活動等等、多岐にわたる活動が重要です。(出典;LANUV鳥類保護部)

 魚のタービン事故死に関する報告;ライプニッツ内水面ー魚類生態研究所(IGB=Leibnitz -Inssstitut fuer Gewaesseroekokogie und Binnenfischrei)は中小規模水力発電ダムでの魚類事故死に関する報告を出しています。それによると勝機も水力発電施設では魚類保護についての対応がされていないとして、連邦自然保護研究所(BfN)を通し政府(連邦環境省;BMU)に要望しています。それは、発電ダムでの魚類事故死を防ぐ対策を、ほかの野生動物=例えば風力発電と鳥類、コウモリ類、と同じく考慮することです。内水面漁業と関連する報告は、他の事例と合わせ今後の関連計画や事業施工実施に役立つことを希望するとクリストフ・ヴォルター博士は言っていますし、それに連動した工学的、生物行動学的研究の進展が必要です。(出典;IGB)

⑦ アブ、今問題になりそう;近年、アブによる被害事件が問題になって来ています。2020.3月にその調査研究の一部がNRW州環境省から公表されています。つまり、自然保護地区の種保護法とアブ駆除対策に関するものです。

アブ駆除として黒ボール状の薬(太陽の熱で誘引剤を出しアブを誘引駆除する)が同時にほかの昆虫相も誘引し死滅させる、という害です。これの野外での調査(2017年5-10月)で54.438頭捕獲し、うち2.022がアブ。最大値は自然保護地区でのものでした。

多くは飛翔性昆虫ハチ・ハエでしたが、中には410頭の蝶類、70頭のミツバチがふくまれていました。そのため、この駆除対応は、あらゆる保護地区(自然保護地区、同ビオトープ、FFH地区など)で使用禁止にされています。アブの主要飛翔期(06.01~09.13まで)は他の昆虫相と同時期となり種保護法との競合が問題になっています。(出典;MUNLV)

 

報告2の参考資料(自然保護協定に関するもの)

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