水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

海外雑誌での研究 13-2

13-2では、引き続き 4~6の報告事例について紹介します。4)はバッタ類について、5) はノルトランウエストファーレン州におけるブタクサ(Ambrosia artemisiifolia)との戦い15年6)ミズナラ林における老・古木、枯死木の保全についてです。

 

 

4)  Heuschreckenfauna auf Vertragsnaturschutzbrachens

   Eine aktuelle Untersuchung in der Hellwegboerde

自然保護協定地区(計画的耕作放棄地)におけるバッタ類の種構成

 ーー明るい側道における実態調査ーー

Patrick Hundorf  他2名

問い合わせ先:Arbeitsgemeinschaft Biologischer Umweltschutz 

Biologische Station Soest   p.hundorf@abu-naturschutz.de

 この報告は畑縁辺部や耕作放棄された畑に見られる草地での直翅目(バッタ類)の生息状況についてである。世界では15000種、日本でも150種生息しており、これまで畑作地帯にいたバッタ類は畑作の集約化、農地整備に伴う農地の構造的変化に伴い生息場所が無くなって来ている。NRW州では(他の州も同様)、種・生物多様性保護の視点から農地の集約的栽培や畑縁辺部、耕作方法、作付け放置などが見直されてきている。NRW州では農耕地縁辺側道部の鳥類保護地区取り扱いの重要性(Massnahmen im Vogelschutzgebiet Hellwegboede)が見直されている。ここでは単に野鳥類だけでなく農業に連動した動物類・生物多様性・農業生態系が関係している。

 農地の中に設定された作付け管理放置地区(Ackerbrachen)や耕作地におけるバッタ類の生息が1965年以後見られている。2001-2004にゾーエスト郡で「粗放的管理の草地のある畑プログラム」が実施された。数年間にわたって耕作されていない畑でバッタ類の生息が可能かどうか調査され(2006)、その後、多種多様の草花が咲く畑の縁(自然保護協定地区)が取り入れられ、地球温暖化と相まってバッタ類相も変化してきている。

 具体的調査は2019年に「ヨーロッパ鳥類保護地域内の明るい小径;2001年から事前モデル調査が行われてきた」で行われ、2007年からは文化的景観プログラム(Kulturlandschaftprogramm)で継続されている。土壌的には肥沃なローム土壌(fruchtbare Loessboeden)で全体面積377.5ha、内142haが自然保護協定地区、236haは伝統的な利用がなされている。調査区10区は以下のような状況である。①自力再生休閑地草地:野草の自然推移による荒地、②Saaten Zeller-D種を播種した草地:草地造成で用いられるZeller-D;多様な草種混合;③種の組み合わせを修正したZeller-D種播種の草地;種の47%は自然草地構成種、④Leguminosen Aを播種した草地;Leguminosenが多く入った人工種混合、⑤伝統的に利用された比較草地(飼料用トウモロコシ、冬撒きコムギ、ナタネ、野草)

 試験地は7月中旬から8月下旬(場合により5月)1週間間をおき11:00~17:00、風のない暖かい日に開始され、どの区も100mの長さ、幅2mで設置された。

 調査の結果、15種のバッタ類の生息が確認され、うちChorthippus dorsatus 絶滅危惧種)、Chrysocchraon dispearは(危惧種)でNRW州のレッドリスト種で(2010)、どちらも自然保護協定地区で確認された。

 出現15種のうち(Chorthippus biguttulusは42%、Roeseliana roeseliiは17%、Pseudochorthippus parallelusは12%、Tettigenia viridissimaは9%となっていた(2010)。15種のすべてが自然保護協定地区に生息し、伝統的な耕作地では僅か6種のみであった。当地区では自然再生休閑地草地でのバッタ類の生息が最も多く、冬撒きコムギ、ナタネ区では生息が確認されなかった。

 

◆ 秋の夜長、美しい虫の音が深まる秋の夜を彩っています。その風情は日本人の詩歌や俳句などに詠われ表現されてきました。また、1950-60年代の農村にはイナゴが普通に生息し、害昆虫で駆除されてきました。欧州でも農耕地でのバッタ類の辿った途は、日本と違いはなかったでしょう。でも1960年以降、農村を取り巻く状況は自然資源の保護と合わせて大きく変化してきています。この4)の報告は、農耕地(日本でいえば水田や畑)の作付け方法、種を変えてバッタ類の生息がどうなるか調べたものです。我が国にはこういった調査研究は無いのではないでしょうか。試験地での調査報告でも農家をも巻き込んだ種・生態系保護の課題解決に向けた取り組みは、行政的先進性、農業団体の見方・考え方の時代的変化と相まって着実に進められているようです(勝野)。

 

5)  15 Jahre Ambrosia-Meldestelle in Nordrhein-Westfalen

    Ueber die Bekaempfung einer invasiven Pflanzenart

ノルトランウエストファーレン州におけるブタクサとの戦い15年

 ーー侵入植物種との戦いについてーー

Carla Michels

問い合わせ先:LANUV. Fachbereich 23  Biotopschutz, Vertragsnaturschutz

carla.michels@lanuv.nrw.de

「ブタクサ」は日本でも外来植物であり人間の健康面に大きな被害をもたらす植物として知られています。この報告は、ドイツにおける「ブタクサ」との15年に及ぶ戦いの様相、結果についての物です。

 

  ドイツでは、ブタクサ(Ambrosia  artemiisifolia)はアメリカ原産、3大アレルギー植物である。鶏の飼料、敷き藁の中に紛れて入り国内に広まって来ている。NRW州では2003年、2006年の暑い夏、極度に広まり、2006年には自然保護地区にある石油精製所施設対岸のライン河畔で確認された。2007年にはブタクサ出現地の通報が要請された。2011-2015年、ヨーロッパパイロットプロジェクト「ストップ・ブタクサ」の下で情報収集、駆除対応が各界で計られ、2011年にはEUレベルで飼料としての調整が行われた。2020年までに517地点(生育地)が明らかになっており、最大は2008年の136地点、その後2013年まで(33-50地点)漸減し、最近5カ年では30地点以下になって来ている。侵入経路は2007-2013年までは鳥の飼料・敷き藁が1/3であったが、2014年以後は凡そ全体の2/3に増大してきている。

 NRW州内では多くの高速道路(A2,ー3,ー33,ー45,ー57など)があり、2014-15年夏の道路サイド図化によりその路側、再整備路側にはブタクサの生育地が多く、特に夏の暑かった2018~2020年では顕著であった。

ブタクサの小規模な生育地は個人の庭や公園もあげられるが、これは人により廃棄、駆除されるけれども道路沿道や河川の河畔、鉄道沿線などでは放置され、生育地を拡大している。今後も生育地確認と駆除が基本で次の3年間を見ていく必要がある。

 

 

6) Alt- und Totholzsicherung im Eichenwald

   Erstellung und Umsetzung eines Biotopholzkonzeptes fuer die Villenwaelder

 ミズナラ林における老/古木・枯損木の保全ー美しい古木のある美林(Villenwaelder)における樹木ビオトープコンセプトの設定と変様 

 

Klaus Striepen 他4名

問い合わせ先:Wald und Holz NRW, Regionalforstamt Rhein-Sieg-Erft Eitorf

  klaus.striepen@wald-und-holz.nrw.de

 この報告は、NRW州の森林保護地区(Waldreservat Kottenforst;ライン川西側丘陵台地:ボン西郊からバゥベルベルク)におけるもので、生物多様性保護における「欧州の自然ネット2000;europaeische Netzwerk Natur 2000」の重要地点である。指定理由は希少で危機に瀕したヨーロッパミズナラ、ブナ林とそこでの生活である。

この森は数世紀にわたって森林管理され、将来も優良なオーク材(Eichenholz)の有用材樹林として重要であり、危機に瀕している、種多様性の価値あるヨーロッパミズナラ混交林を保全するため欧州自然保護プロジェクト「Villewaelder - 森と水の世界」はビオトープ樹林コンセプト(Biotopholzkonzept)として展開し発展させていく。

 この森林地帯は冬湿潤、夏乾燥する立地にあり、比較的水けの多い土壌から成っており、250年生のミズナラも生育し、保護地区の25%を占めている。同時にこの森はヨーロッパで保護動物になっているキツツキ(Dendrocopos medius)やコウモリ;Bechsteinfledermaus(Myotis bechsteinii)の棲息地である。ミズナラ混交林とそこの生存種保護のため、4地区、自然2000保護地区;vier Natura-2000-Schutzgebiet:全体で4,376haが指定されている。

森林タイプはミズナラーブナ林で現在は1172haを占めており、313haはブナ林(Hainsimsen- Buchenwald) である。3.366haはNRW州が所有、その他は私有林、共有林である。州所有林のうち89%は自然林に近い森として管理され、残りの11%は自然林の断片、野生推進地区(Wildnisentwickerungsgebiet)として永続的に取り扱われる。

 古木や枯損木はまた森林全体での生態系の一部であり、そこに適した動植物、菌類の多様性の温床でもある。ビオトープ樹木(Biotopholz:古木や枯れた立木、朽ちた倒木など)はそれ自体、森の構成要素であり森林内に生存する典型的な、意味のある多様性を有する貴重なハビタットである。中部ヨーロッパに典型的な樹種から成る森(特にミズナラ)は、また多様な甲虫類にとっても重要で、ここでは500種に及ぶ樹木性甲虫類のほか500種におよぶ類似の甲虫類の住処であり、ここに生息する鳥類(キツツキ類など)にとっても切り離せない場所である。140年以上育てられたこの森は生態的にも経済的にも大きな意味を持ち、ビオトープ樹木の考え方は森林維持や自然保護の視点からも重視されなければならない。

 ブナーミズナラ林(1,193ha)でのビオトープ樹木図化は専門的な基本図としてまた、穴居性鳥類、動物相(樹洞性動物)にとっても重要であり穴の直径により8通りに区分され、樹上に巣を作る猛禽類には胸高直径(50cm以上)の巨木が記録される。さらに直径40cm以上の樹木も、1m以上の巨木と合わせ記録されている。保護区4地区それぞれでビオトープ樹林の樹木密度が明らかにされ、4地区平均では9.5本/haとなっている。「Natur 2000に指定されているWaldvilleの森では12.5本/ha、他の地区でも9.4本、5.7本、4.9本となっている。

 コウモリ類についても調査が行われ13種のコウモリ類(FFHでⅣ以上の種)が確認されている。4地区のうち南地区(Kottenforst)はキツツキ類とコウモリ類のどちらにとっても重要な地区であるとしている。

 この保護地区でのビオトープ樹林保護コンセプトでは、以下の4点が挙げられている。

①ここに至る歴史的経緯の保護のための場所:このコンセプトの核心で1972-2020年の歩みである。②ビオトープ樹林の島状保全で、1-5ha規模で樹林内に保護地区を設定し、生態的・時代的価値を確保。③個々のビオトープ樹木の保存。樹洞や穴のある樹木、立ち枯れ樹、枯損倒木を保全し番号札を付ける。④ビオトープ樹木のグループ(15本まで位;10本/ha)の確保。

 この森林内で11.713本のビオトープ樹木が保全され(13.3本/ha)、730本の枯損木が監視されており、ビオトープ樹木の21%は樹洞、樹上巣、老樹、立ち枯れ木、22%はキツツキ、9%は小さな穴利用の鳥の営巣木、48%はエコーZ樹木(Oeko-Z Baeume)である。

 

 

 ◆ EU-レベルで動植物およびハビタットの保護対象となっている樹林・森林で、さらに細かな保護対象区分その意味などを理解するために、既存の保護樹林で、図化を含め長年調査研究が進められてきていることは地球温暖化に対する樹林の役割を明確にする上できわめて重要です。4樹林、3,000ha以上に及ぶ森林で生物多様性、歴史的天然記念物、生態系全体としての森林保護を目的に多角的・多面的に進められていることは傾聴に値します(NRW州として)。

 

 ここに示された3編の調査報告は、日常の緑地(樹林から草地、身近な緑まで)の今日的変化の様相を時間をかけて調査し、どのように推移しているか、何処がどの程度変化しているか、人為との関係などを報告しています。これらの着実な調査結果が、州レベルにおいて現実的な緑の保護施策、維持管理指針となり変化に対応していこうとしています(勝野)。