水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

海外雑誌での研究 13-1

ドイツ、ノルトランウエストファーレン州の機関紙「Natur in NRW」2021年  第3号  が送られてきました。 今年、コロナ大流行の中での第3号の内容は、以下の通りです(原文転記)

 

1)  Artenschutzprogramm Feldhamster N.W.

2)  Rettung in letzter Sekunde?   

 Zum Stand der Stuetzungsansiedlung des Feldhamsters im Rhein-Erft-Kreis

  seit 2019

3)  Rekultivierung als Chance fuer den Feldhamster

    Bergbaufolgelandschaft Garzweiler eignet sich fuer die Ansiedlung der vom         Aussterben bedrohten Art

4)  Heuschreckenfauna auf Vertragsnaturschutzbrachen

   Eine aktuelle Untersuchung in der Hellwegboerde

5)  15 Jahre Ambrosia-Meldestelle in Nordrhein-Westfalen

    Ueber die Bekaempfung einer invasiven Pflanzenart

6) Alt- und Totholzsicherung im Eichenwald

   Erstellung und Umsetzung eines Biotopholzkonzeptes fuer die Villenwaelder

 毎号進めてきていますドイツのNRW州における自然保護や緑地保全に関する事例報告他の概要を紹介したいと思います。13-1では1) ,2), 3) について、13-2では 4~ 6)について報告します。

 

1)  Artenschutzprogramm Feldhamster N.W.

Bausteine Erhaltungszucht und Auswilderungen -- Anfaenge und erste Ergebnisse

ノルトランウエストファーレン州におけるフェルトハムスター(Cricetus crisetus) の種保護プログラムについて

 その保護・飼育と野生放獣化試行ーー開始時と初期の結果

Susanne Thimm 他1名

問い合わせ先:Susanne Thimm  Landesamt fuer Natur, Umwelt und Verbraucher-schutz NRW (LANUV)   susanne_thimm@lanuv.nrw.de

 

 ノルトランウエストファーレン州におけるフェルトハムスターについての対策は2010年初めに絶滅が危惧される状況にあったが自然保護アセスメント対策により状況が回復、フェルトハムスターの保護飼育と野生放獣化施策により改善。9回の保護飼育と3回の野生放獣の効果が出た。これには専門的な調査研究と組織的な支援があったことによる。

 フェルトハムスターの生息域はノルトランウエストファーレン州ではライン川左岸側地帯、南がボン西側地帯から北はデュイスブルク南まで、西側はベルギー、オランダ国境地帯まで及ぶおよそ3000k㎡に及ぶ。ライン川左岸地域は堆積土(地下水が低く粘土質土壌)で穴居性齧歯目のフェルトハムスター生息に適した土壌である。夏は4-50cmの深さ、冬は地下2m位深い穴(凍結しない)の中で冬眠する。地上生活は餌との関係で4月から10月で、冬眠から覚めた後、4~5月活発に活動、5月中旬~6月中旬、最初の子供を産み、2回目は7月後半~8月中旬頃出産する。子は25~30日で自立する。10月頃から6か月間の冬眠に入る。

 フェルトハムスターは1979-1986年のレッドリストには載らず、1999年の第3次リストで絶滅危惧種に指定された。1980年代中頃には州内で急激が減少が起こり、1985年にはボン市周辺で見られていたが、1990年代後半には極めて稀になった。

 フェルトハムスターの生息状況図化は2000年代までなされず、2006-2015年間に大きく減少し、2006年は250ヵ所、2015年は300ヵ所、2011年Zuelpichでは100匹になった報告がある。

Zuelpich地区では直ぐに対応策が出され保護のために畑作栽培形態の変化、生息のための基本的条件の改善などがなされ、2014年早春に25匹、2016年は8匹になったが2018年以後生息は見られていない。

 フェルトハムスター減少の原因として、①作物栽培収穫の変化;初夏の収穫(迅速かつ総て)後、直ぐに次の作物が作付け栽培、②作目によりフェルトハムスターの好む物でないものが増加(トウモロコシ、甜菜;サトウダイコン、ジャガイモなど)、③除草剤、防虫薬剤の散布、

それ以外にも農業景観(畑縁草地、叢林・ブッシュなど消失)の変化、殺鼠剤使用、野犬・野猫の存在、畑地の形態変貌(宅地・工場用地化、褐炭採掘、道路建設に伴う生息地分断、縮小化)などにより急激に減少してきていた。

 種保護の指針として、FFH-RL(Fauna-Flora-Habiat-Richtlinie)Ⅳの対象で、連邦自然保護法の適応を受け、NRW州では2003年からフェルトハムスター保護となり、畑作において自然保護のアセスメント対象となり、2007年からEU支援の下、NRW州保護プログラムにより保護対象、畑作農業となった。指針では以下のことが示されている。

 ①深耕の禁止 ②草地でのクローバー、ウマゴヤシを数年間播種、③薬剤及び匂いの強い肥料の使用禁止、④薬剤使用してない穀物株・菜種刈り取り後の残渣を畑に放置する、⑤秋まで穀類の収穫禁止

 2015-2016年、NRW州ではフェルトハムスターの生息状況の危機的状況が示され、2016年5月にNRW州環境省はフェルトハムスターの飼育保全と野生放獣を目指して種保護プログラムを作成、各方面との連携を深めた。NRW州で飼育放獣したフェルトハムスターのオランダ国境域との連携を強化する、生息地のZuelpichで捕捉したフェルトハムスターを繁殖し放獣に際しオランダとの関係を保つ、この対策ではMetelenにあるNRW州環境保護局種保護センター(フェルトハムスター繁殖センター)を中心にオランダ側と連携し進め、種保護プログラムに沿って支援団体と共に自然放獣を進める。

 2016年の秋にはオランダ(Limburg県)とフェルトハムスター繁殖共同研究をはじめ、相互に技術・情報交換を進めた。2015-2016年に捕獲した個体で2017年春から繁殖、増殖。2018年1月にこのプロジェクトの独蘭専門家会議を行い多種多数の関係機関が参加し情報交換し、次のような事項を決めた。

 自然に返す(放獣)時期は5月中・下旬が最適、次いで夏の終わり位。放す場所は4-5haの畑で自然保護協定地(約30ha)にあること。放すフェルトハムスターの数は5ha当たり60匹が理想的である。モニタリング;放されるフェルトハムスターにはマーキングをし、後に遺伝子検査を可能にする。種動態調査は毎年早春から夏にかけ巣穴の図化を行う。

  これに対し、フェルトハムスター繁殖・放獣には農家による支持が重要であり、州政府、農業者団体,ライン地域農業連合(Rheinischem Landwirtschaftsverband)の3者が2019年に協定を取り交わした。2018年には関係郡市町村役所と農業団体と生物センターで検討され、2019年春、自然に放す2カ所の試験ヵ所の関係者間で話し合われた。

 飼育されたフェルトハムスターは生物センターと郡関係者の下で2018年秋、褐炭採掘復元集落地 (報告3参照)で若い4匹が放たれ、2019年5月下旬~6月上旬、隣接する2ヶ所の畑地に放たれた。2018年の夏には同様オランダ側でも行われた。 

      ◆地区名/年  2018    2019     2020         2021

   Pulheim   ー   128匹/NRW     17匹/NRW        166匹/NRW 

   R. Kirchen  ー    70匹/NRW     64匹/NRW            92匹/NRW

   Aahen市  26匹/蘭     16匹/蘭         25匹/蘭、        約80匹/NRW

               24匹NRW

   * 蘭=オランダ繁殖   NRW=ノルトランウエストワーレン州繁殖

 放すことが3回目(3年目)になる2021年、5月下旬PulheimとRommerskirchenでは

232匹が放たれ、6月から晩夏まで計画されている。

 関連多機関の連携が重要で、連邦レベルから州レベル、広域圏、地域レベルなど上位から下位に至るまでの自然保護、環境保護、種保護に関する行政部局、生物センター、農業の各種団体のフェルトハムスター保護・保全・育成に関わる多くの力が大切である。

そこでは、①モニタリングや保護繁殖の結果報告、②確実な諸データ(位置、放獣地区の設営計画、同スケジュール、数値)の集積と公表、③定着したha当たりの頭数・密度(12~17ー18匹)、④放獣開始時期(5月下旬から6月上旬まで;早い時は4月中旬)⑤理想的な生息地は400-800haの地区で、うち10%がフェルトハムスターにあった畑作であること。

 

 

2)  Rettung in letzter Sekunde?    最後の瞬間 残せるか?

 Zum Stand der Stuetzungsansiedlung des Feldhamsters im Rhein-Erft-Kreise seit     2019   ラインーエルフト郡における2019年からのフェルトハムスター定置保護区の状況

  Christian Chmela 他3名

  問い合わせ先:c.chmela@biostation-bonn-rheinerft.de

 特徴的な生息地に生息するフェルトハムスターは畑の農耕地で地中に生息するが、これまでFFH-Ⅳで絶滅に瀕した動物である。保護のための繁殖を2017年からMetelenにある種保護センター(Artenschutzzentrum)で進められ、2019年から自然に戻すためPulheim市  (Rhein-Erft郡)に繁殖・生息地区を設け調査されている。 

 放獣地区(フェルトハムスターを自然に返すための実験地)設定について、Pulheim (Rhein-Erft-Kreis地区)、Rommerskirchen (Rhein-Kreis-Neuss地区)はお互いそれほど離れておらず生息に適した地域である。ここには「フェルトハムスター保護コントロールグループNRW」があり以下の専門的基準により決まった。

 ①以前のフェルトハムスターの中心生息域で設定に必要な最低5haの用地があり、②フェルトハムスターの生息に適した25~30haの畑地帯(自然保護地区該当地)があり、③生息保護(逃げ出し防止)のために電気柵で囲われ、④3月から10月(冬季になるまで)の活動期採餌可能なためしっかりした屋根と十分な餌が用意され、⑤生息密度はha当たり最低12匹、全て個々の標識を付け早春から放たれる。

 2018年から関係機関全体、相互の検討・調整が計られ、農業サイドと自然保護サイド全体で進められた。2地区は夫々10ha、畑地帯で繋がった少し離れて位置しフェルトハムスターの飼育・自然界へ放すためのデータ収集が行われてきた。試験地設定には、5種類の飼料が別々に畑に取り入れられ(オオムギ区、冬撒きコムギ区、夏撒きオオムギ区、Leguminose・燕麦・カラスムギ区、花の咲く野生1年草の種区)、種は全て当地域産の種子である。試験区は、幅27mの穀物が生育するゾーンで縁取られ金網で仕切られており、猛禽類から守るため電気柵で覆っており、野外ビデオカメラで監視している。施設整備の諸費用は州と郡で80/20の比で負担されている。

 2019年春、州政府とPulheim市長の支援の下、128匹が放たれ、この模様はテレビで放映され保護プログラムが知られるところとなっている。

 野外カメラの映像情報により試験放獣されたフェルトハムスターの昼間、夜間の生態、夏季の巣穴や通り道の状況を捉えており、春先や夏の巣穴の図化、データ作成も行われている。植被との関係でオオムギ区とLeguminose・燕麦・カラスムギ区ではha当たり17~25の巣穴がある一方、冬撒きコムギ区では6個、夏撒きオオムギ区では11個であった。

 試験区の外側で26穴見られたが、うち通り道を利用していたのは僅か3穴だけ、図化後の10月に11穴があったが若い個体のものだった。試験区との距離は300m程度だった。2019年9月、再捕獲調査が生物センターと共同で行われ、2夜続きの捕獲調査で40匹、多くの穴で見つかった。装着されたチップの確認で13%再捕獲され再捕獲率とされた。20匹の個体の行動半径では12~235m圏内、150~170匹が冬越ししたとされた。2020年の冬眠明けは冬の暖かさで早くなり135の巣穴で動きが見られた。170匹の越冬数から2019/2020期は80%の越冬率となった。3年目の試験区は2019年の場所から3km離れた場所に移動し、8haで柵のある場所で5種の畑作地、2021年には168匹が放たれる。

 これまでの結果から自然保護地区該当地(Vertagsnaturschutz)は重要な意味を持ち関係者に理解を得てきている。少なくとも600haの畑作地帯が必要であり、拡大予想地域として(畑作形態も含め)当該地域での理解が必要である。

 

 

3)  Rekultivierung als Chance fuer den Feldhamster

    Bergbaufolgelandschaft Ganzweiler eignet sich fuer die Ansiedlung der vom         Aussterben bedrohten Art

 フェルトハムスター保護のための最後のチャンスとしての生息地復元保護地区

  褐炭採掘跡地・ガルツヴァイラーは絶滅危惧種から定着地への貢献

 Gregor Esser 他2名

 問い合わせ先:Forschungsstelle Rekurutivierung Berghaim

 gregor-esser@rwe.com

  ライン川西側地方(モンヘングラッドバッハ南)に位置するガッツバイラーを中心とした褐炭採掘地域では、採掘跡地を農地に戻すと同時に、再造成で出来る多くの傾斜地等は再緑化(樹林化や草地化)され景観を修復・復元されてきている。採掘の済んだ跡地は再造成され農地が復元され耕作地以外には周辺部に緑地が生まれる。

 2015年春にはNRW州で20匹ほど生息していたが、その後急激に減少、ベルギー、オランダとNRW州の間で保護地域設定で努力されている。2017年には「フェルトハムスターの保護に関するプログラム」により、モンヘングラッドバッハ近郊のガッツバイラー褐炭採掘跡地に生息再生試験地が設定され、復元地において自然や種保護のためのポテンシャルの回復を調査してきた。

 この地区は復元後7年経過して農耕地として利用されてきており、その用地の15%をフェルトハムスターの保護試験地として生態的先端地区にしている。試験地は6~12mの、花を付ける野生草区、ウマゴヤシ区、放置区、刈り取り放置区が設けられた。ここには他にも貴重で多様な種が存在し、生物多様性保全の視点から500ha(最小でも)の農耕地が長期的に必要とされている。人工的に復元土造成される大切な粘土質土壌(Loassboden)は、フェルトハムスターの子供を巣穴で産み、育て、また幼個体が越冬するうえで支障とならない硬さ、強さが必要であり、柵で四方が囲まれている。

 試験区は、フェルトハムスターの敵となる野生動物から守るため迷彩の金網で覆われ、サイドネットは深さ2mまで入れ土中からの侵入を防ぎ、試験区は15m×15mの大きさ、位置は再造成されたウマゴヤシの畑で、穴の通路は深さ1mに45度の傾斜があり、各試験区の中央部に餌場を置きビデオカメラを設置、撮る時に採餌時に標識も写る体重計を設置してある。2018年9月に、各区(4区)4匹のフェルトハムスター(全16匹)が放たれ、常時体重の変化が観測されている。10月の第2週には12匹となったが冬眠期には30%ほど体重が減少したが越冬後の翌春には直ぐに回復した。放した時270gだった雄は5月再捕獲した時665g、雌は245gから460gになっていた。

 

 ◆この報告は、ルール地方で長く行われてきている褐炭採掘の産業、それに伴う農村移転と再整備、自然復元・緑化修景計画の地域計画と深い関係にあります。浅い地層にある褐炭の採掘後、以前の農地および集落に戻す事業と、それにより生まれる関連跡地の緑地、レクリエーション空間的利用については、すでに1950年代から地域計画の大きな事例として佐藤、横山らにより取り上げられてきました。2000年代になり自然保護、種保護、ビオトープ再生・保全生物多様性保護の視点から、この地域で修景・再緑化された空間の新たな対応事例として、この報告が示されています(勝野)。

 

 

 以上の3篇はいずれも齧歯目のFeldhamster (Cricetus cricetus) についての現場における長年の具体的な屋外調査の結果報告です。やっぱりドイツは着実で凄いですね。

地方の行政が各州で競って自然保護や緑地保全、種の保護や生物多様性を考え、産官学の各界もそれを支援し、データづくりやその行政への適応を模索している点は、本当に感心します。未だ経済最優先の我が国で、環境保護、緑地保全、自然保護、生物多様性施策の共同・協働歩調が日常生活レベルに落ちてくるには時間がかかりそうです。

 日本には野生のハムスター(ネズミ類)の生息に関する調査研究はなされているのでしょうか。カヤネズミの調査報告はありますが、この報告のように地元に根差した息の長い現地調査と情報開示、それを支える州政府や行政側、民間団体の保全・保護施策の支援が日本にはありません。彼我の違いと言えばそれまでですが、研究者、教育者、行政従事者など、何ともやりきれない気持ちです。確実、着実に頑張ってほしいです(勝野)。