水と緑と自然、それは「にわ」

都市や農村における緑地の在り方、自然環境の資源とその保全、「にわ」の設計と維持・管理

海外雑誌での研究  15-2

15-2では、以下の3篇について概要を書きます。

3) Die Kalkmagerrasen im nordrhein-westfaelischen Teil der Eifel

(アイフェル地域におけるNRW州の石灰岩丘陵斜面草地)

 Flaechenbilanz und aktueller Zustand (草地の変遷と現状)

著者:Dr. Linda Trein 他3名  2015年の博士論文の研究(ラインフリードリッヒ・ウイルフェルム大学

連絡先:ltrein@me.com

 

 ドイツで石灰岩丘陵斜面草地で有名なのはバーデンビュルグ州(Baden-Wuertenberg)東部にあるシュベービッシュ地域(Schwaebischealp)でしょう。痩せて乾燥した石灰岩から成る丘陵地で草地と背の低い針葉樹を中心とした景観です。羊放牧を主体とした形態で維持されてきた文化的景観、郷土景観が土地利用の変化、農牧畜業、放牧の減少とそれに伴う草原構成種(野生種や稀少種)消失、減少の一途をたどって来ています。この報告のNRW州のアイフェル地方でも同様の傾向にあることが伺えます。従来、羊の放牧と関連して存在してきた草地景観や種の多様性は土地利用の変化と共に、その保全、維持に苦心して来ています。◇

 

 このアイフェル地方の石灰岩丘陵斜面草調査研究報告は、共同研究者のKrick氏(1999)、Schumacher(2007)氏の先行する報告があり、Trein氏の博士論文(2015)に由来しています。従来の報告は19世紀の中頃からあり、同時に植生学的報告は、かの有名なBraun-Blanquet(1929)があり、その後も今日まで数々の報告があります。

この草地の動向報告は2009-2012年にあり、2015年にも植生構造と種組成が図化されています。図化資料では州立測量庁により作成された時代変遷図(HistoriKA25)も使われ、それ以外にも2010-2020年の航空写真、1/25,000地形図、地質図が使われています。同時にここ30年来の石灰岩丘陵斜面草地の動きも自然保護指針や針葉樹除去と合わせ調べられています。

 地形図から1906-1914年頃は  286ヵ所、1,411ha(最大81ha、他にも40-60ha規模の場所)が1936-1937年頃には  354ヵ所1,241haに減少(畑に移行、針葉樹植林など)、1986-1988年には  444ヵ所、531haに減少しています(1950-1970マツ類;アカマツ、クロマツの植林;特に1936/1937年)。2010-2012年では僅か 501haになっています。

 石灰岩丘陵斜面草地の減少、変化は樹林が660ha(内訳;150ha広葉樹123ha混交林387ha針葉樹へ)と農業用利用(牧草地、畑)が281haです。

 Halsberges bei GilsdorfとWachbergの1900年以後の減少事例が示されています。

 また、草地の接続性(隣接性)では100mで次の草地(385ヵ所)へから、250m(120ヵ所)と離れてきています。また、放牧利用されなくなった石灰岩丘陵斜面草地では種の貧化が1988年以降、顕著になって来ています。

 この地域では従来(1939,1942年の報告あり)羊と牛が放牧されていました。(1960-1985年)は放牧されず放置され、1987-1989年頃に自然保護の視点から行政により羊の放牧がされ、現在は75%が3つの羊放牧業者により回復(内2者は750頭のメス羊、1者は500頭のメス羊、いろいろな種類の羊や150-200頭のヤギを含む)しています。

 この石灰岩丘陵斜面草地は自然保護の視点(種の保護)から大変重要であり、自然遷移でも多様な種のあるラン科植物ーブナ林へと進みます。1985年以後、自然保護的指針により状況は改善され1987-1989年以降、放牧や類似の土地利用によって草地が回復、レッドリスト種の回復にも至っています。

 

 

4)Natura 2000 im Klimawandel (地球温暖化における”自然資源2000”)

  Online-Tagung zur Haelfte der Projektlaufzeit des Integrierten LIFE-Projektes Atlantische Sandlandschaften (砂質土壌、砂地等における景観に関するライフプロジェクト半期の成果:オンライン会議)

著者:Dr. Martina Raffel他3名 :ミュンスター地域府(Bezirksregierung Muenster) 

連絡先:martina.raffel@brms.nrw.de

 

2021年9月30日、life-プロジェクトである「大陸性砂地景観=Atrantische Sandlandschaftenに関するライフプロジェクト」の中間報告会(成果)がオンライン会議で討議され130名余が参加しました。参加者はNRW州が60%、NS州が27%、職域では自然保護関係職員40%、州の公務員23%、関係市町村の職員20%となっています。

会議では、Prof.Dr.M.Darbi氏(ガイゼンハイム大学教授)、S.Brosch氏(NS州官吏会長・プロジェクト委員長)、J.Schmacher(チュービンゲン大学)の3氏の他、専門家3名による討論がされ、問題・課題解決のためFFH指針・施策の継続と法体系(州・連邦・欧州議会それぞれ)整備について討議されました。◇

 

 

 

)Bestandentwicklung des Kiebitzes im Kreis Kleve 

(クレーフェ郡におけるタゲリの棲息域の状況変化)

  Ergebnisse der keisweiten Synchronzaehlung 2020 (2020年郡内同時調査結果)

著者:Mareike Buedding他3名 :クレ-フェ郡自然保護センター

連絡先:buedding@nz-kleve.de

 

 クレーフェ郡は、ライン川下流部で殆どオランダとの国境近くの地域です。クサンテン市はローマ時代の遺跡が残る地としてで有名な町で、このライン川左岸地帯は、かっての氾濫原野や旧河跡湖、旧河道の池沼が多く残り、景観保護地区や自然保護地区が多くあります。この地域では2004年にタゲリの調査が行われ、今回2020年(16年ぶり)4団体による合同調査が実施され、その結果の報告です。■

 

 ◇NRW州北西隅でオランダとの国境地域・クレーフェ郡の北部地域にはライン川周辺に多くの自然保護地区が指定されています。タゲリの繁殖地としても知られており、粗放的管理の草地(草丈の低い)や畑が使われます。近年、生息の減少が進み2016年にはNRW州で絶滅危惧種に指定されています(カテゴリー2)。前回の調査は2004年(2005年報告;1033番い)、16年ぶりの合同調査が実施されました。

 この調査は4団体(ニーダーザクセン州自然保護局、ゲルターランド自然保護局、クレーフェ郡自然保護センター, STERNA計画K.K.)合同で2020年5月3~5日に行われ、調査は東西13-30km、南北60km、、1/25.000地形図をメッシュ区分(1メッシュは2.2k㎡)し現地踏査(48人参加)、航空写真、営巣地探査ドローン等を使用し図化されました。その結果、1,817羽、850~950番いが確認され、16年前の50~60%生息地減少となっています。

  クレーフェ郡の16地域における2004-2020年の棲息・繁殖状況について比較検討し、その殆どの地域で減少していることを報告しています。特にライン川下流域低湿地が多く、自然保護地区に指定されている北部地区での状況変化に注目しています。

 その要因として集約的農業、水質悪化、乾燥化、耕作放棄によるブッシュ化さらには風力発電塔設置などを指摘しています。そのため4項目の指針を挙げています。

 ①湿性牧野におけるタゲリのハビタットの保全、改善(粗放的草地管理=時期的・地域的)、②畑作地区での保全、改善(タゲリの棲息、繁殖する場所と時期での確保・保護;島状や短冊状、営巣ヵ所のマーキング)、③工業地区や砂利採掘地でのハビタットの保全と改善、④電気柵などによる保護

いずれの場合も農家、自然保護関係者、民間ボランティア団体などの協働が重要であると指摘しています。◇

 

 タゲリは日本では冬鳥として刈り取り後の水田地域で見られ、生息、繁殖の報告もあります。日本大学の造園学研究室でも以前、相模川沿いの水田地帯でヒバリと合わせ、タゲリの生息調査を行ったことがあります(葉山先生指導の調査研究)。■

 渡り鳥、しかも冬季の来訪鳥として身近な水田などで見られている「タゲリ」が少なくなっています。秋から冬にかけての広く明るい水田が都市周辺で、近年少なくなっているため見ることが少なっています。人家の軒先に巣を設け、夏の風物詩ともなっているツバメの飛来・営巣も以前と比較して少なくなっていることも同様な気がします。都市周辺における主要なオープンスペースであった農地(水田)が消失してタゲリの生息域も狭まっています。その為(タゲリの保護)にはこの報告にあるような具体的、長期的詳細な現地調査が重要になります。

 我が国でも具体的な調査が公的機関をはじめ各種団体で継続され、結果を基に検討されることが重要と考えます。■